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021話『タブラの秘密』

 滞在している宿に戻ると、一階の酒場兼レストランにフィオナちゃんを待たせて、二階の宿泊部屋を訪ねた。


 深呼吸をして、ノック。

「八橋です入ってもいいですか?」

「開いているよ」


 中にはラスティの姿は無く、タブラだけだった。


「トキ君、お久しぶりだね」

「冗談も言うんですね」

 この人に理詰めでは勝ち目は無さそうだし、平行線の議論を繰り返すつもりもない、取り敢えずは本題を切り出さなくては。

 俺は一気にかたをつけるために意気込んでいたが、次の言葉で出鼻を挫かれた。


「昨日はすまなかった」

 先に口を開いたのは、タブラの方。


 しかもそれは謝罪の言葉で、平行線をたどると思った関係性に、先制パンチを食らった感じになった。


「私は、訳あって少々感情に乏しい、いや……どう言ったら良いのかな。これでも感情を少しは理解した方なんだが……」


 珍しくタブラが言い淀んでいる。

 その雰囲気に、嘘や冗談を感じることはなかった。


「今、人間の感情を勉強中なんだ」

「よく分からない表現ですね、タブラさんは魔物なんですか?」

「おいおい、さん付けはよしてくれよそよそしい」

「答えてください、タブラ()()


 俺はここにけじめを付けに来たのだ。

 一線を引くか、引かないかの話をしているのだと、暗に伝えると、タブラは軽くため息を付いて話し始めた。


「以前、守護を可視化した際に話したと思うが、私のこの体は借り物なんだ、私の本体はこの体の中にある」


 虫歯菌の事だろうか。


「強いて言うなら虫歯菌の事だ」


 虫歯菌の事だった。


「あれが実体と言うわけではないが、イメージでいうとあれが私自身だ」


 ふむふむわからん。


「この体は『錆釘(さびくぎ)』という、私の親友だった男のもので、彼が死にかけた時私がこの体に入り込み、彼の体を維持し続けていると言うことなんだ」


「ふむふむわからん」

 あ、声に出しちゃった。


「分からないのも当然だ、こんな例は昔も今も聞いたことがない。しかし、彼の魂はまだ残っている、彼の体に入っている私にはそう感じるのだ。だからこの体をダメにしてしまっては、彼の帰ってくる場所が無くなってしまう。だから私が魔力で彼の体を維持し続けているんだ」


 状況は分かったが、

「ぶっちゃけ、タブラさんは人間なんですか?」

 これは聞いておかねばならないだろう。


「答えはノーだ」


「魔物ですか? 精霊ですか? まさか、神だとか言いませんよね?」

 どうせどれも理解の範疇外だ、むしろ軽く聞いてやれ。


「ただの意識を持った魔力の塊だよ」

 この時代にはそういう概念もあるのか?


「でも、そうやって人間の意識を乗っ取ったり、死体に取り憑いたりしてるなら、それはもう魔物と同じなのでは?」

 人間であれば、そういう人なんだと割り切れるが、彼が人間でないならばより慎重なつきあい方を考えざるおえないだろう。


「誰にでもというわけではない。錆釘(さびくぎ)が特別な人間だったというだけだ」

「普通の人間には干渉できないことを、特別という言葉だけで信用はできませんよ」


 少し困った顔をしたが、決心したようにこちらを見て。

「いや、全くその通りだ」

 そういうと、ナイフを取り出した。


 俺もとっさに剣に手をかける。

 しかし、そのナイフは俺に向けられる訳ではなく、タブラは自分の腕を軽く切って見せた。


 そこから流れ出る液体を見て、俺は息を飲んだ。


「血が……青い!」


 それは光に当たると、少しメタリックな輝きとともに、青く発色していたのだ。


「錆釘は『青血(せいけつ)の一族』彼の血には銅を主成分とした血が流れているんだ」


 血といえば赤、鉄を主成分とするヘモグロビンの関係で赤いのが当然だ!

 銅と言われてそれが納得できる知識を持ってはいない


「このEFでもタコ等の軟体動物は、銅を主成分として生きているんだ」

「だとしても、なぜそんな意味不明な事に!」


「かいつまんで彼の事を話そう、ラスティが居なくて良かった……」



 タブラは淡々と、体の持ち主について語った。

 全てを信用することはできないが、この『現実』では、嘘も本当になってしまうような話もあるだろう。ひとまず信じる方向で聞いた。


――古代、といっても俺の時代よりもさらに昔の日本には、神は「銅」を依代(よりしろ)にして降臨してきた。

 青銅の鏡や、銅鐸(どうたく)など、神社にあるそれらのものだ。

 彼らは長くそれを祭り上げたが、神の姿をついぞ見ることはできなかった。


 しかし、先の大神災(だいしんさい)の折、人々は天使や悪魔を見てしまった。もちろん神も居るだろうと信じる気持ちは、すでに「確信」に近いものまで膨れ上がっていた。

 科学と、新しく生まれた魔法とを融合し、狂った信者達が作り上げたものが、神そのものを人間に降臨させる装置『青血(せいけつ)の一族』だった。


 大神災以降、彼らを作り出した化学力は無くなり、青血の一族同士でしか、青血の子供は生まれなかったため、だんだんとその数を減らしていったという。



「青血の一族、それが彼の特別なんですね」

「私は神ではないが、実体の無い魔力の塊であったがゆえに、彼の体に溶け込むことが出来た」


 タブラは真面目にそう語ってくれた。

 彼が人間で無いのなら、人間が感じるままの感情を理解できない事もあるかもしれない、それに悪意のある理由で人間に化けているわけでもない。


 もちろん彼の話を全て信用するなら、というのが前提だが。


「この話しは君にしかしていない、ラスティにもだ」

「一番身近な人ではないんですか?」

「それはそうだが、いずれ話さなければと思っているが、今ではないんだ。だから内緒にしていて欲しい」


 こんな荒唐無稽な話を、軽々しく人には話すつもりはない。

 しかも真剣に頭を下げてくる、命の恩人に対して、何の気持ちも沸かない訳がない。


 頭をあげたタブラと目があったまま、ちょっとした沈黙が流れた。


「……ふふっ」

 つい失笑してしまった。


 考えると可笑しなものだ


 裏切ったわけでも、嘘を付かれた訳でもないのに、勝手に作り上げたタブラの人物像と違うからといって騒いでただけに過ぎないのだと気づいたからだ。


 むしろ、自分の秘密を暴露(バラ)してまで、関係性を保とうとする「人間らしさ」を見て、肩の力が抜けてしまったのだ。


「タブラ、昨日はごめん、事情も知らずに」

「いや、良いんだ。私も嫌な思いをさせたね」


 いい大人が二人で頭を下げ会うシュールな光景のあと。顔をあげ、目が合うときに、苦手な感じでひきつった笑顔をしてるタブラを見て、ついつい笑ってしまった。


 この人は本当に苦手なだけで、俺が思っていた人そのままなんだ。


 やっぱりこの人を信じて付いていこう!


 俺はそう心に誓った。

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