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020話『二つ名の理由』

 翌日ギルドへ行くと、フロアはストレンジャーで溢れていた。この街にはこんなにストレンジャーが居るのか? と疑いたくなるほどに。

 話題は(もっぱ)ら、昨晩の呪龍討伐のようだ。


「そのとき俺のスキルが炸裂して、龍が膝を着いたんだぜ」

「嘘付け、お前の剣が鱗通るわけ無いじゃん」

「くっそ、街の反対側で、駆けつけたときには終わってた」


 英雄(たん)を語るもの、乗り遅れたと嘆くもの、三者三様だがみなべろべろだ。

 おそらく戦闘の後にそのまま飲み明かして、今に至るのだろう。彼らにとっては、終わってしまえばお祭り騒ぎみたいなノリなのかもしれない。


「すみません八橋時彦です。クエストの受注お願いします」

 喧騒を意にも介さず、カウンターに乗り出して話しかける。受付の向こうも話題は同じようだ。

 一人が急いで俺のもとへ駆け寄ってくる。普通の昼間の服装とは違う、給仕服のような受付嬢だ。

 夜のギルドはお酒を出すと言っていたが、夜番の制服なのだろう。


「すみませんお待たせしました。登録証をお預かりいたしますね」

 受け取った登録証で石板を撫でると、文字が浮かび上がる。


「八橋さん、昨日の緊急クエストに参加されてますね」

「ええ、まぁ、戦っては無いですけど」

 見てて死にかけただけだったが。


「戦闘は確認できて居ませんが、人名救助で褒賞金が出ております、9番カウンターでお受け取りになってください」


 俺は一旦9番カウンターに行き、報奨金とやらを確認しに行った。

「あれ、フジさんが9番カウンターって珍しいですね」

「ええ、通常業務に加えて、褒賞金を取りに来る方が多いので、忙しくって」

 真面目な人は損だなぁ、さっきの受付嬢は奥で座談会してたぞ。


「じゃぁ、褒賞金の計算お願いします」

「取り敢えずご無事で何よりです。低レベルで呪龍の戦闘に参加するなんて命知らずも良いところですよ? 敵のレベルを見極めて、逃げるときは逃げてくださいね」

「はぁ、流れで、以後気を付けます」

「貴方には期待しているんです、だから無茶なことはしないようにしてくださいね」


 心配してくれているようだ。

 この人にはお世話になっている。

 確かに真面目な人は損だとは思うが、ストレンジャーとギルドも信頼関係あってのものだ。

 自分の特性を見極めて、選んでくれたクエストに命を懸ける職業なんだ、同じ受付の方でも、チャコさんに選んで貰うより、俺ならフジさんに選んでほしい。

そういう意味では信頼の置ける人なんだなと改めて思う。


「人命救助で、2000エンが支給されてますね」

「うぇっ、に……2000エン?」


 思わぬ大金。

 俺のこの装備が全部で1000エンだし、この時代では10エンあればそこそこの食事が食べれるんだぞ!

「ありがとうございます!」

「全額受け取られますか?」

「はい、お願いします」


 勢いで言ってしまったが、そんなに使う当てがあるわけじゃない。昔の時代でいうところの20万円相当を持ち歩くなんてちょっとドキドキだが、つい舞い上がって持ってみたいと思ってしまったのだ。


「あらん、景気の良い話をしてるわね」

 窓口の後ろから、知ってる声がする。

「ローズさん、おはようございます」


 武器屋のローズさんが居る。

 そういえばこの人も昔は凄腕のハンターだったと聞いたが。

「ローズさんも呪龍と戦ってたんですか」

 この人が居れば桁違いに戦闘は楽に進んでいたかもしれない


「アタシ寝ちゃってて、街が騒がしくなってから気づいて、急いで駆けつけたけど間に合わなかったのよね」

「そうなんですね」


「魔法使いは前衛職と比べて支度に時間が掛かっちゃうのよー、人前に出るのに女の子がお化粧するくらいね」

「両方しなくちゃいけないローズさんは時間が掛かりそうですね」


「それでも、今回の討伐は早く終わりすぎなのよ。タブラちゃんが居たっていうじゃないの? 仕方ないわよね」


 普通はどれぐらいの時間が掛かるのか、タブラが居なかったとしたら? あのタイミングでもまだドラゴンは空も飛べたし炎も吐けた。死ぬにはまだ遠かっただろう。

 話しているとフジさんが横から声を掛けてきた


「黒の魔法使いとお知り合いですか?」


 ローズさんの空気が少しピリッとした気がした。


「タブラさんの事ですか?」

「その方です、ギルドに登録されていないので、ジョロモ様から特別褒賞金が出ています。」


 確かに、領主に依頼されて探っていたと言ってた気がする。


「黒の魔法使いに……」

「フジさん、タブラの事をそう呼ぶのはやめて貰える?」

 言葉を遮り、ローズさんが訂正する。いつもの朗らかな感じではない。


「黒の魔法使いってなんなんですか?」

 昨晩、その呼称にストレンジャーがどよめいたのが思い出される。あまり良い印象の呼称ではないようだが


「タブラちゃんの二つ名みたいなものだけど、あんまり良い噂で聞くことがないの」



 褒賞金を受け取り、ギルドの奥の方の席に座る。

「レモネードを二つちょうだい」

 席に座ると給仕の格好の受付嬢がやって来てオーダーを取っていった。


「朝は目覚ましにレモネードね!」

 この世界の一般常識なのか、ローズさんの常識なのかは分からないが、朝だったらコーヒーを飲みたい俺としては、なんか違う感はあった。が(おご)りと言うなら文句はない。


「タブラさんが黒の魔法使いって呼ばれるの嫌いなんですか?」


 ローズさんは、口紅を気にしてストローでレモネードを少し飲むと話してくれた。


「黒の魔法使いは神出鬼没の魔法使いとして語られてるの、だけどあまりいい噂がなくて……」


 彼に関わるものは、命を落とすとか。

 強大な魔法を使えるのに、すぐに撃たないとか。

 他人の命を軽んじているとか。


 確かに呪龍戦闘の際に俺が感じたままの評価だ。


「でもね、本当はそんなこと無いのよ」


 確かに俺を助けてくれて面倒を見てくれたり、丁寧にこの時代の事を教えてくれたり、とってもいい人だとずっと思ってた。


「私は彼を善人だと思うわ。でも彼の一面を見てそう思わない人も居る、それが一人歩きしたのが黒の魔法使いって二つ名なのよ」


 俺は迷っている。

 表では善人そうに見えて、裏では悪い事をして居る人間だって居るのだ。

 そして俺は昨晩、彼のずれた生死感を知ってしまった。


 もし俺があのときドラゴンに殺されたとしても「逃げろと言ったのに、自業自得だ」と吐き捨ててしまうのではないか? とさえ思ったのだ。

 それが怖くて逃げ出したのだ。


「確かに戦場では死とは隣り合わせだし、そこに身を投じている以上、割り切ることは大事かもしれない」


 だけど俺は簡単に割り切れたりはしない。

 割り切れる考えに毒されたいとも思わない。


「タブラさんにはお世話になっていますが、黒の魔法使いとはパーティを組めませんね」


「そう……無理は言わないわ、確かに彼は危険な生き方をしている、関われば命を落とすってのも、あながち嘘じゃないもの」


 ローズさんは悲しそうに下を向く。といっても背が高すぎてこちらからは見上げている形だから、真正面から悲しげな表情が見てとれる。


「タブラさんには申し訳ないですが、少し一人で考えて見たいと思います」


 そう言ってレモネードを一気飲みし、ローズさんを置いてギルドを出た。

ちょうど手元には褒賞金がある。

 これでタブラからの借金を返してしまおう。


 ギルドを出ると、表の噴水のところに見たことのある人物が立っていた。

フィオナちゃんだ


「あれ?ヤツハシさんどうしてギルドから?」

 こっちに気づいて不思議そうにしながら駆け寄ってきた


 あ、そういえば昨日、ここで待ち合わせる予定にしてたんだっけ……


「一人でクエストいっちゃダメですよ? 一緒に行きましょう!」


 腕を引っ張ってギルドに行こうとする。積極的だ。


 いや待ってくれ、ギルドにはうちひしがれたローズさんがいて「少し一人で考えたいと思います!」キリッ。っと出てきたすぐ後に、女の子と一緒に楽しそうにクエストを選んでいる所を見られたくない!


「いや、あの、ちょっと用事が出来て」

「あっ、そうなんですね……」

 楽しみにしていたのか、しょんぼりするフィオナちゃん。


 はっと、クロノスの時計を見ると、まだ朝の7時だ。

 この世界では時計を身に付ける習慣がない、というか時計はかなり高価な贅沢品だからだ。

 なので、この時代の人間は感覚で適当に待ち合わせている。

 「あしたギルドで」と言った場合、俺が昼に到着する事も考えられるのに、この時間に待っていたのだ。

 フィオナちゃんがどれだけワクワクしているか推して量るべきだろう!


「用事といってもすぐ終わる、から」

 ぱぁっ顔が明るくなる。犬のような反応のしかただ。

「そうなんですね待ってます、どんな用事なんですか?」


「えっと、お世話になってるタブラさんに、お金を返しに行くんだ」

 嘘ではない。


「そうなんだ、私会ってみたいです!」


 好奇心旺盛なのもあるだろうが、山岳調査の時にだいぶ鼻息荒く「すごい人だ」って語っちゃったから、興味津々なのかもしれない。


 会わせるのは問題ないのだけど、今のタブラとの関係に問題があって、「(たもと)を分かちます」という宣言をしに行く、修羅場ファーストコンタクトってのもマズイ。


「じゃぁ、お金の話しは細かくなるから、それが終わったら時間が作れるか聞いてみるよ」

 と苦し紛れに答えるので精一杯だった。

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