002話『暗闇の先の現実』
考えれば考えるほど、疑問がどんどん増えていくし、気持ちは一向に落ち着かない。
青い髪? ローブ? 凍った足? 溶かす呪文?
女の子が、軽々成人男性を持ち上げて、ダッシュ?
これってもしや……
「ファンタジーってやつ!?」
少女はしばらく暗闇の中を走った、よくぶつからないものだなどと考えていると「この辺りで良いよね。降ろしますね」と声だけが聞こえ、地面に寝かされた。質感からするとどうやら土の上のようだ。真っ暗で、反響だけがこの場所を広いのだと伝えてくる。
ー命の輝きよ
その姿を顕したまえー
『燃え続ける人魂』
ふと、辺りが明るくなる。また呪文だ!
今回は少女の周りに、いくつか火の玉みたいなものが浮かんだ。そのお陰で明るくなった視界には、大きな空洞が飛び込んできた。岩肌はゴツゴツ、氷柱のようなものもある、鍾乳洞だろう。
「これは、ファンタジー等ではないよ」
突然男性の声がする。仰向けのままようやく少し動くようになった顔を向けると、全身黒づくめの男が岩に腰掛けこちらを見ている。
リラックスした態度で、口にタバコのようなものを咥えると旨そうに燻らす。
先ほど振り回していた剣らしきものは、今は背中に背負われているのだが、あんな巨大な物を振り回せる筋力は現実的にあり得ないだろう。
これをファンタジーと言わずなんという!
「いや、ファンタジーでしょ、どうみても」
しかし、そのツッコミに黒服の男は首をかしげて問うてくる。
「君のファンタジーの定義が判らないな」
その反応に、昔通っていた大学の講師を思い出していると、男は教鞭をとるかのようにゆっくりと語り始める。
「ファンタジーが空想や幻想だという意味なら、この世界はファンタジーではなく、単なる『現実』だよ」
落ち着いたその口調が説得力を増している。それに、空想ならこの寒さや体の軋みなんかも無いだろう。
だが、現実というなら魔法や大きな剣、火の玉も説明は付かない。俺の知っている『現実』なら、の話だが。
混乱する俺に、男は溜息をつくように問うてきた。
「むしろファンタジーなのは君そのものだよ……まずは名前を聞こうか」
「八橋時彦です」
「ヤツハシか、私はタブラ=ラサ=タイムという。タブラでいい。そして、こっちが……」
「ラスティ=ネイルです! よろしくトキヒコ」
男に続いて少女も元気に自己紹介してくれた。タブラの仏頂面に対して天真爛漫な笑顔が眩しい。
背は150センチ中頃で、マントの中に着ているノースリーブやホットパンツに似た服からは、若い女性特有の健康的でスラリとした手足が見える。
さっきまで、24歳成人男性を軽々運んでいたなんて思えない。
二人とも名前からすると日本人ではないようだが、流暢に日本語で語り掛けて来る。翻訳こん○ゃくか……これも魔法なのかもしれない。
「ちょっと整理させてください」
「いいとも」
「ここは何処で、貴方達は何をしてるんですか?」
寝起きだからなのか、いまいち頭がスッキリしない。
何故自分がここに居るのか全く思い出せない。
「私たちは、世界の秘密を探索しているストレンジャーだ。そしてここは古代の文明が残る遺跡でね、調査をしている際に君を見つけたんだよ。」
ストレンジャー? 確か『余所者』とか、『知らない人』だとかっていう意味だったように思うのだが。
「語源はそうだが、通称だよ、通称」
俺の疑問に補足説明をしてくれた。
「あと、俺の足が凍り漬けだったのも何故なんだか」
冷凍庫で寝る趣味は無かったと思うが、SFのようにコールドスリープにでも入って居たのだろうか?
「凍り漬けの理由はわかるがね。君はフラウの棲み家で寝ていたのだから。凍り漬けになってた、当然だろう?」
フラウ……聞いたことは有るのだが何だったか……
「すみません、フラウって何でしたっけ?」
その発言にタブラは驚いたようだが、すぐに目を皿のようにしてこっちを見た。
「いや! まいったな、そうか、この遺跡に居るのならあり得る事なのか!」
「勝手に納得しないで貰えますかね」
「あ、いやすまん。……少し質問させてくれ」
「どうぞ」
「トキ君の生年月日を教えてくれないか?」
生年月日? それに何の意味があるんだ?
突拍子もない質問に少し怪訝な表情を見せてしまったが、タブラの顔は変わらず期待に溢れていた。
「2020年の5月27日ですけど?」
「そうか! やっぱりな、これは凄い事だぞ!」
今までわりと知的に話していたタブラが、かぶりを振って喜んでいる。まだ人となりが判るわけではないが、となりの少女、ラスティも口に手を当てて驚いているところを見ると、凄い事なんだろう。
が、こちらにはさっぱりわからない。俺の生年月日が何だというのだ?
「勝手に盛り上がらないで貰えますかね?」
俺の少し不満げな語調に、タブラは「す……すまん」といってから、落ち着きを取り戻すように咳払いをして、こちらに向き直る。
顔は真面目だが、口元はおもちゃを与えられた子供のように、少し緩んでいる気がする。
「簡潔に言うとだな……」
「だな」
「君は500年ほど寝ていたようだ」
……。
……ん?
「フラウによって仮死状態のまま生かされたと言うことか、しかもこの施設、深い洞窟に有ったのが幸いしたな、ダイシンサイを、耐え抜いたのは奇跡に近い!」
楽しそうだなぁ、当事者ほっといて。
「おーい、置いてけぼりですよ……で、大震災って、大きな地震でもあったんですか?」
「大きな神の災い、と書くのだよ、それも知らないか?」
「大神災!?」
すでにオーバーヒートしそうな頭に新たな単語。頭は汗をかきそうなほど熱くなっている気がするが、反して身体は寒い。
ほんとうに、寒い。
「ところで、君は寒いのに裸で寝るのが趣味なのか?」
「え?」
「トキヒコ、服着てなかったよ」
まさかの発言をするラスティの方を向くが、目線が合わない。首をもたげて、その視線の先を探ると……丸出しのアレ!
いやいや! 成人男性が全裸でお姫様だっこって、あり得ない羞恥だ! 手で隠そうにも動けない、せめて見てくれるなと目で訴えるも、ラスティが顔に当ててる手は隙間だらけだ。
「見えてますよね?」
「見てないですよ」
「せめて、顔を背けて言ってください」
「寒くないの?」
「寒いってば!」
と言ったあと、色々有りすぎ脳の熱が上がりすぎてヒューズがとんだ。
そのままブラックアウトしていく意識のなか、ふと思ったのが。
これが俺の冒険譚の一ページ目になるのはやめて欲しいなって事。
流石にフルチンじゃ締まらないだろ?
チ○コ出してごめんなさい。
でも18禁じゃないよね?




