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019『黒衣の魔法使い』

「黒衣の魔法使いだ」


 会話を遮るように、ある男が呟いた。

いつの間にか集まってきていたストレンジャー達に、その呟きは伝染した。

「黒衣の……」

「あんな魔法みたこと無いぞ」

「何倍がけすれば呪龍を一撃で殺れるんだ?」


 ザワザワと、しかしそれは一概に尊敬や感謝の気持ちとは感じ取れなかった。むしろ畏怖や疑念といった、負の感情のように感じた。


「さて!」

 声を張って一括。

 タブラの声が響くと辺りはシンとなった。


「今回の呪龍(じゅりゅう)だが、以前からマークしていた、ジョロモに恨みのある者の、クーデターである可能性が高い。首謀者はそこにある洞窟で、数日かけて呪龍召喚の準備をしていたようだ。」


 そこにある洞窟というのは、ベアウルフが居ると報告した洞窟だった。


「今回は術が完成する前に発見し、不完全なままでの呪龍召喚となったと見られる。」



 後で聴いた話だが。

 俺がギルドに報告した後に、新たに上級依頼が追加されたようで、それを受けたストレンジャーが、この洞窟を探索したところ、レジスタンスと鉢合わせしたという。

 急いでノロシリングを上げたのが、タブラ達が起きた一発目。そして、そのストレンジャーは急いでレジスタンス討伐に目標を切り替えた。

 レジスタンス側は、不完全な儀式を切り札に出来ずにいたが、継続不可能な程に押し込まれたため、不完全でも召喚するという選択肢を選ばざるおえなかったという事だった。


「残念ながらレジスタンスを拘束する事はできなかった。最後の一人も自決し、血肉を呪龍に捧げたと聞いている」


 つまり情報は殆ど無いと言うことだろう。

 実行犯すら捕まえられず、本丸への捜査は難しい。


「しかし、呪龍を街に入れずに仕留めたのは不幸中の幸いだ、皆の健闘に感謝する」


 うんうんと頷くストレンジャーの中から、くぐもった声が怒りの色を帯びて発せられる。


「何が幸いなの?」


 左胸を押さえた、甲冑の女性が苦しそうに一歩踏み出す。

 そのプレートアーマーは大きく凹んでいる。


「私の旦那は呪龍に殺されたわ」

 大きく目をみひらき、輪の中心に居るタブラへ食って掛かった。


「それはお気の毒に」

 しかし意に介さないという風に返事をする。全く心はこもっていない。さも当然のように吐き捨てた。


「貴方、黒衣の魔法使いと呼ばれてるそうね」

「さぁ? 自分でそう名のったことは一度もないが?」


 茶化すように両手を横に上げる


「もっと早く詠唱出来たんじゃないの?」


「貴女の言い分は分かるが、勝算無しに戦えば死んでも仕方ない。今回の呪龍はこれでも不完全品。完璧な状態で呼び出されたら、貴女のその左胸も残ってなかったかもしれませんよ?」


 肉親を殺され、感情を抑えきれない女性に対して、冷たく言い放つ。


「そんなの、分かってるけど」

 取り付く島の無さに女性は座り込んで、地面を何度も叩いている。


「むしろ、感謝すべきはこの八橋時彦ですよ」


「えっ、俺ですか?」

 勝手にふらないでくれ!


「昨日この山の探索クエストで、異変を察知してくれたお陰で、呪龍の完成前に叩くことが出来た。貴女だけでも生きていることに感謝するといい」


 むちゃくちゃな理論だ。

 もちろん女性の方も、これがただの八つ当たりだと分かっているだろうが、それもで気持ちのぶつけどころというものがあるだろう。こうやって上からそれを叩きのめすやり方は違うと思う。


「死んじゃった人は可愛そうだけど、もっと沢山の人が貴方と同じ気持ちになるのを、貴女の大事な人は止めてくれたの。胸を張ってギルドに帰りましょう?」


 ラスティは女性に寄り添い、そう声を掛けた。

 女性は、小さく頷いて泣き始めた。



 場も白け、思い思いに解散を始めるストレンジャー達。

 降りる自分達と入れ違いに、ギルドの始末部隊が山を登ってゆく。




「あの人の旦那さんは、残念でしたね」

 帰りの道すがら、あえて俺はそう口にした。


 俺はあのタブラの対応が気にくわなかったのだ。

 あんな言い方は無いだろうと思う。


 それにあの女性の言葉通り、もう少し早く魔法を使えば、もっと被害は少なかったかもしれない。



「そうかな?自業自得だと思うが」

 いつもと変わらない調子でそんなことをいう。

 確かに彼は、日常で会話する際も、感情としての喜怒哀楽は極めて薄いように感じていた。


「そんな言い方無いでしょう?」

 この世界では『死』は当たり前なことかも知れないが、先程の女性や、回復できない死傷者に向けたラスティの表情は、自分達の知っている感覚と遜色無いと感じていた。


 だからこそタブラだけが死を軽んじている気がしてならないのだ。


「さっきの言い方だって、まずは相手の気持ちを汲んであげなくちゃいけないでしょう」


「そう言うもんなのか?」

 訳が分からないという風に首をかしげる。


「自業自得だなんて言われても本人は納得できませんよ」


 伝わらない、命の大切さが。


「呪龍戦闘は参加者全員にその討伐配当金が出る。参加しさえすれば、だ。だからこそ、レベルに見合わない者が参加する。その結果、死んでしまうこともあるだろう。自業自得じゃないか」


 そういうのじゃない!


「しかも、私たちと同じ、初動で参加していたというなら、ギルドか何かで飲んでいたのだろう。最初のノロシで駆けつけたが、酒の力で気が大きくなって居たんじゃないか?」


「そういう状況の話ではないんです、感情論ですよ!」

 この人は俺の命の恩人だ、こんな事を言う立場ではないのだが、自分のイライラが抑えられなかった。


「感情論というのは、苦手だ」

 少し困ったような素振りは見せるが、それでも淡々としている。この温度差も、のれんに腕押しを感じさせる。


「分かりました、言いすぎました。しばらく距離を置かせてください!」


 人間同士分かり会えない事はあるだろう。

 しかし、それが価値観の根底であれば尚更問題だ。

 しばらく自分一人で考えたい。


 彼らの返事を聞くまでもなく、俺は足早に街へと走り出した。

 これ以上タブラとこの話を続けると、彼の事が嫌いになりそうだったからだ。


 それに、「黒衣の魔法使い」と言うときの彼らの反応は、決してドラゴン退治のヒーローへ向けられたものではなかった。

 俺が知らないだけで悪人なのかもしれない。

 だが、今は考えたくはない。


 街へ入ると建物と建物の間に潜り込んで、寝逃げする事にした。

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