014話『始めてのパーティ』
「すみません、パーティの申請お願いします」
「はいよー、登録証だして」
片肘付いてめんどくさそうに手を出す受付嬢。さっきのテキパキとした対応とは正反対だ。ネームプレートには『チャコ』と書いてある。可視化の時の受付嬢の人だ。
「おっ? 君はクロノス君じゃん」
「その節はどうも。八橋時彦です」
さっきのだるそうな雰囲気が嘘のように話しかけてくる。
「で、クロノス君は今日は何の用かな?」
「八橋です、パーティを組みたいんですが」
チャコさんは興味深そうに、俺の後ろを覗き込んだ。
「パーティはそっちの子かい? いやぁ、大人しそうで可愛い子だねぇ、やるねぇ」
にやにやしながら見ないでくれ。俺に下心はないぞ?
「登録証です」
さっさと済ませてしまおう。フィオナちゃんも登録証をテーブルに出した。
「ん? 二人とも前衛職だけどいいの?」
チャコさんは不思議そうに聞いてくる。
「そうなの?」
俺もフィオナちゃんを見る。服装はローブ姿だし、魔法使いとかヒーラーだと思ってたんだけども。
「はい、そうなんです」
そう言いながらローブを少しめくると、背中側に両刃の大きな斧がチラッと見えた。チラッとだが、重さは20kgぐらいあるんじゃないか、と言うほどの大きさだ。
しかしそれよりもっと気になったのは、その装備。
肌の露出が激しく、豊満な胸と腰を守るだけの小さな装甲……つまりビキニアーマー!
釘付けになりそうだった俺は、慌ててチャコさんの方を向き直る。
「だ……大丈夫です、回復薬なんかは沢山あるので」
なんだかチャコさんはにやにやしながらこっちを見ている。
「おk、了解。そして完了! いっちょヤってこいクロノス君!」
そう言うと羽飾りを返しざまに、肩を強く叩かれた。
「八橋です」
何をヤって来ると思われてるのか。
さっさと依頼を受けて出掛けよう。
フジさんのところに戻ると早速クエストを紹介してくれた。こっちは話が早いし仕事も早い。
「どれも探索系のようですね」
少し残念そうにフィオナちゃんがこぼしている。確かにコレでは午前中とあまり代わり映えがしないが
「今度は二人で行くんだから退屈はしないさ」
俺のフォローに「それもそうですね」と笑顔を見せた。
いいなぁコレがパーティか。
「では、こちらの依頼はどうでしょうか?」
そう言って差し出されたのは、領地内の山岳方面の見回り依頼だった。
「岩肌や高低差の激しい土地です、モンスターの出現は殆どありませんが、落石や滑落などの危険があるため、お一人では参加できないクエストです」
そうか、万が一の場合に助ける事ができる仲間が必要ということか、それなら仕方ないな。
「基本的には午前中受けていただいた依頼と同じです。モンスター自体の発見は当然の事ながら、その兆候や余波を見てください」
「モンスターの爪痕、糞、死骸なんかも気を付けますね」
「よろしくお願いします。リーダーはどちらですか?」
それは決めていなかったが、フィオナちゃんをみると、やってほしそうにしている。
「では、俺がリーダーで」
「ではこちらのアイテムをお貸ししておきます」
そう言うと何やら腕輪のようなものを渡してきた。金色の装飾に、赤や青、緑の玉が埋め込まれている。
「これはノロシリングという魔法機構です」
名前で使い方わかったかも。
「それぞれの色に意味があり、その玉に魔力を込めて打ち出してください。
赤は緊急、強い敵に出会った時や、怪我で動けない時、ギルドか近くのストレンジャーが助けに来てくれます。
緑は回収、運べないモンスターを討伐した時や、未知のモンスターの死骸を見つけたときなど、ギルドの回収部隊が駆けつけて、適切な処理をしてくれます。
青は連絡、これはパーティメンバーで取り決めて頂ければ宜しいかと。」
てきぱきと説明してくれたお陰で、分かりやすくてすぐに理解できた。
「ノロシリングはずっと貸し出しですか?」
「道具屋で好きなデザインの物を購入できますよ」
「わかりました」
「では、お気を付けて」
よし。じゃぁ早速出発だ!
探索系の依頼は危険が少ないし、フィオナちゃんと一緒だったら暇をもて余すこともないだろう。とてもよい滑り出しじゃないか!
自然と顔が緩む……そうだ、俺はこの世界を満喫してやる。
平和な日常が続くのだって悪くないって思えてきた。
って、まだ危険な目に逢ってないだけなんだけどね……