013話『一人では行けないところ』
ギルドは役場っぽくもあるが、戦闘で泥だらけになったストレンジャーを迎え入れる事ができる入り口もある。待合室には椅子だけではなくテーブルもあり、夜の営業には受付嬢が代わり、お酒などの提供も有るそうだ。
これぞファンタジーのギルドってもんだろう。
「八橋時彦です、領地内東の見回り依頼を完了しました」
肩に付けていた羽根飾りを外して渡すと、ギルドの受付嬢はその羽でボードを撫でると。
「はい、お疲れさまでした。異常はありませんでしたか?」
事務的に聞いてくる。
「ええ、川の異常も、鳥の鳴き声も異常ありませんでした」
「ありがとうございました、ではメガホーンを返却してください」
やっぱメガホンじゃん!
魔法機構を返しながら尋ねる。
「時間があるので、今から俺のレベル帯で受けれるクエストはありませんか?」
「少々お待ちください」
この受付嬢は機械的に仕事をこなしていく。
守護可視化をしてもらった受付嬢は、ざっくばらんでお調子者っぽかったけれど、やはりこちらの方が仕事ができる感じがする。
ネームプレートには『フジ』と書いてある。
「すみません、八橋様。現在出ている依頼は、参加条件が二人以上のものしか残っていませんね。失礼ですがパーティは組んでいないようなので、ご紹介できません」
「一人で、という訳にはいきませんよね?」
「怪我や、万が一死んでしまうこともある依頼ですので、許可できません」
機械的に仕事をこなすタイプの人は、こういう時に折れてはくれないな、仕方ない一旦引き下がろう。
しかし、自分からパーティを組んでくださいといえるほど、自分に実力もないし、話しかけるのもわりと苦手なんだけどなぁ……
辺りを見回すも、待合室で駄弁っているストレンジャーも、自分よりレベルがもっと高そうだ。
タブラやラスティの顔が浮かんだが、一緒にクエストに行かないのは、あまりにレベルの差がありすぎると、足手まといになるだけでなんの経験も積めないためだ。
「うーん、仕方ない今日は帰って寝るかな」
折角やる気が漲っていたのに残念だ。そんな肩を落としうなだれる俺の背後から声がした。
「あの、八橋時彦さんですよね?」
「え、はい」
振り返ってみると、緑の髪をお下げにした女の子が居た。
この声、喋り方……
「もしかして、フィオナちゃん?」
「はいっ、覚えてくれたんですね!」
嬉しそうに手を叩いて喜ぶフィオナちゃん。
「お話を聞いちゃったんですけど、パーティ組んでないんですか?」
と改めて聞いてくる。
「うん、恥ずかしながらそうなんだよ」
「恥ずかしいことありませんよ、私も一人なので」
そういいつつも顔を伏せて恥ずかしそうにしている。
――そうだ!
「良かったらこのクエストの間だけでもパーティを組んでもらえませんか?」
伏せていた顔をパッと上げて。
「よかった! 私からもお願いしようと思ってたんです」
そういうとニコッと嬉しそうに微笑む。
一人じゃないと心細くなくていい。
しかも、それが女の子となれば俄然やる気が出てくるのが男の子というものだ。さっきとはまた違う漲り方をしている俺の手を、いきなりフィオナちゃんが握ってきた!
「そうと決まれば申請しましょ」
ぐいっと手を引くフィオナちゃん、手を繋ぐのは付き合ってから派の俺としてはドキッとする。
距離感がちょっと近い感じだ。
パーティを組めればクエストの幅が広がるなぁ。
他にも色々、夢が広がるなぁ……
……やましいことは考えてませんよ?