011話「緋色の杖」
「本当にこれだけで良いのか?」
といって袋の中から、大きめの角らしき物を出して、ローズさんに渡している。
「いいわよいいわよー」
手をヒラヒラさせながらそれを受け取っている。
そして、こっちには小瓶といくつかの紙を渡してきた。
「革の保管や管理の仕方を書いた説明書、大事に使ってね」
普通の革なら何となく分からないでもないが、火ネズミの革と言われると自信はない。
翻訳レンズを開いて説明書を読んでいると「貴方、目が悪いの?」と、聞かれた。
この世界では読める文字も無かったし、夜は外出もしなかったから気にしなかったが、もとの時代ではメガネを手放せない生活をしていた。
「目が悪いなんて珍しいわね」
「基本的に目を悪くするのは、細工屋か針仕事くらいだ、ハンターや町の人間、酪農家なんかはむしろとても目がいいよ」
まぁ、生活にスマホもテレビもないだろうしね。
「そうだわ、良かったら今度またうちに来なさいな。メガネを作っておいてあげるわ」
正直助かる、500年前は体の一部のように掛けていたから、掛けていない事に違和感がある。
「ついでに翻訳レンズで作ってあげるわ」
「それは助かります!」
読むたびに取り出すのは面倒だと思っていたのだ。
ローズさんの鑑定スキルのようなもので、視力を測ってもらった、あとは完成を待つだけだ。
「すまんな、色々と。また寄らせて貰うよ」
タブラは軽く手をあげると、さっさと扉に向かった。
「色々とありがとうございます」
俺は丁寧に頭を下げて店を出た。
「いいの買えたねトキ君」
門を出て賑やかな通りに出ると、手を後ろ手に組んでぴょんぴょん歩くラスティが、楽しそうに話しかけてくる。
ダサいと思ってるのは俺だけなんだろうな……
「私ね、お兄ちゃんと二人だけのパーティだったから、お友達増えるといいな、って思ってたんだー」
そっか……楽しいわけだ。
俺ももし、一人でこの世界で目覚めたら寂しすぎただろう。タブラやラスティが居ることが助けになっているのは明確だ。
「そう言えばパーティって固定じゃないんですか?」
「クエスト次第では、野良で組むこともあるし、回復役なんかは雇われで、一人で参加したりするよ」
ふむふむ、ケースバイケースなのか。
「それじゃ固定メンバーに、補助ってのが基本ですか?」
「レベル40を越えるパーティには完全固定が多いかな。そのくらいになると、息の合わない部外者はむしろ邪魔になりかねないからね」
今後はクエストなんかも受けることになっていくのだろうが、二人が熟練だからといって、なにも考えずに戦いには行けなさそうだな。
「ローズさんも昔はハンターだったんだよ!」
あの体格、引退後であの筋肉。当時はものすごいストレンジャーだったのだろう。容易に想像ができるら、
「レベルは70くらいだったかな、竜でもソロで倒せるぞ」
想像以上でしたっ!
顔みて悲鳴あげちゃったんですけど……
「ものすごい……魔法使いだったって聞くよ」
魔法使いかよっ!
筋肉、タッパ! 意味なーし!
「彼がパーティマスターで、店の名前はそのときのパーティ名そのまま付けているんだ」
たしか「ロット オブ ヴァーミリオン」
深紅の杖、炎系の守護魔法使いだろうか?
あの風貌で炎の魔法を繰り出すのを想像してみた……
クネクネ腰でピンクのピチピチ。
ダメだ、想像できない!
「名前の由来は、魔法が勿体ない相手は、持ってる杖でボコボコに撲殺していた様子からついたんだよ」
血まみれの杖……
「杖って攻撃力強いんですか?」
「いや、杖に攻撃力補正は無いね、筋力だけで殴ってた感じだな」
人間でも魔法使いでもない!
やはり、モンスターの可能性は捨てきれないぞ!
後日、笑顔でメガネを渡しに来てくれたのだが。
また顔を見て叫んでしまった。
「ぎゃー……」