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『エンジェルフェザー』ようこそ既視感ファンタジーへ!  作者: T-time
第3章5節 タブラ=ラサ=タイム
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100話『許容できない死』

 錆釘はもうタブラの呼び掛けに答えることはない。

 木や花のように、ただそこに有るだけのものになってしまった。


 死とは悲しいものだ。

 人間を観察するようになって、いくつかの死を見ることがあった。

 死にゆく本人は最後まで抗い、のたうち回り「死にたくない」と叫ぶ。

 回りのものもそれを悲しみ、どうにかお助けくださいと神に祈る。


 それが当たり前だと思っていたからだ。


 何故、錆釘は死ぬ前に笑ったんだ……

 笑えるのは生きてこそだろう。


 500年生きてきた……いや、不死であるタブラには、死を喜びで迎えるその感情が、理解できるはずがなかった。


 人は、終わりがあるからこそ強く生きることが出来る。

 自分の生きてきた意味を実感できたとき……死んでもいいと思える瞬間さえ持ち合わせる生き物だ。


 そんなものを理解するには、タブラにはまだ時間が足りなかった。



 死を許容できなかったのだ。



 タブラは青い血を、錆釘の中に戻そうと試みる。

『スネイクリバー』

 地面に吸い込まれかけた血液が、一つの小さなうねりになる。緻密な作業で不純物は取り除かれていた。

 それをそのまま傷口から押し込む。

 だが動かない。


 タブラには見えていた。

 血液は戻っても、蓄えられていた魔素は戻ってきていない。


 魔力の塊であるタブラは、自分の体をその血液に溶かし混みはじめた。


 普通の人間には無理な事だっただろうが、神を降ろせる青い血は、それを可能にさせたのだ。

 魔法の力で血管を流れる血と一緒に、タブラの体が流れていく。


 ついに最後の欠片までが、その青い血へと溶かされ……錆釘と一心同体になる。


 この体を生かさなければ。


 次に心臓を動かし、血液を送る。

 五臓六腑に血が行き渡り、まるで生きている人間と同じように体が機能するのがわかった。


 やったぞ! 成功だ!


 錆釘の蘇生に成功した。





 しかし、彼が喋る事はなかった。

 タブラは彼の奥深く『心』と呼ばれる器官を探した。

 どこにあるかもわからないその器官にこそ、錆釘が居るのだ。



 だがいくら体の中を調べても見つかる事はなかった。



 そのうち、雨が降ってきたのを肌で感じた。


 今まではタブラの体は全てを素通りしていたから。雨粒の当たる感覚に酷く驚いた。寝転がる地面の感覚に初めて気付いた。


 これが、体。


 折角体を治したのに風邪を引いてはいけないと思い、体を起こして立ち上がる。

 動きは体が覚えているが、新鮮な感覚なのは間違いない。

 一つ一つの感覚に感動しながらも、錆釘の体を守るのに必死だった。



 その時、虫の知らせのような小さな不安に駆られて、回りを見渡す。


 天使の死体がない。


 魔法で吹き飛ばしたあと、どこにいったのだろう。


 小さな不安は、やがて芽を出し、大きな不安へと一気に成長した。


「あいつ、里を!!」


 怒りにまかせてそう口に出した時には、地図を頼りに走り出していた。

 初めて声を発した喜びがかき消える程に、怒りに満ちていた。



 この世界には、死と生がある。


 その天秤は、儚くも自分の価値観に委ねられている。


 錆釘が天使を殺そうとしたのは、仲間の安寧のため。

 天使が錆釘を殺そうとしたのは、プライドのため。

 俺が天使を殺そうとしたのは、錆釘の命のため。


 それぞれの勝手な価値観で相手の命を奪う。

 これが心理なのだろうか?


 そんな事を考えながら、丸一日走り続けた。

 錆釘の体は、疲れを知らない。

 溶け込んだ大量の魔素が体を動かしているだけなのだから。


 走れ、走れ。

 俺は大事なものを託されたんだ!

 何のために錆釘は命を投げ出したんだ!


 走れ!


 そんな思いとは裏腹に、隠れ里は無惨な姿を晒していた。


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