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010話『革の匂い』

 大通りから少し路地に入ったところに、周りの建物より二倍くらい大きな建物が建っていた。


「さぁ、着いたぞ。知る人ぞ知る武器屋だ」


 翻訳レンズを通して見ると

『ロッド オブ ヴァーミリオン』と書いてある。


「朱色の杖?」


 扉は分厚い木の板で、鉄のまわりぶちが鋲で留めてある。まさに、ファンタジーの武器屋だ!


 ラスティがバーン! と勢いよく扉を開け放つと、俺の期待を裏切らない光景が、目に飛び込んできた。

 剣や槍が種類ごとに立て掛けられ、鎧もその形に合わせて、木で出来た鎧掛けに着せてある。


「これだよ、これっ!」


 目を輝かせながら店内へ。剣コーナーへ向かうと、タブラが背負ってるくらいの、大きな剣も並んでいる。頬擦りするほど近くで見ると、手入れ用の油の匂いまで漂ってくるようだ。


「そっちの武器は良い物だ。基本的に攻撃力が高いものは重い。切れ味を極めたものは高い」


 分相応だと(あん)に言われているのだろうが、そんなことは関係ない。

 ここに来るまでに、魔法もお金がないと使えなかったり、魔物食べてたり、ギルドは市役所だし……だいぶファンタジーの概念を壊されてるから、浸れるくらいファンタジーがドバドバしているこの環境を楽しみたいんだ!


「あらん、これは貴方には無理ね」


 急に背後から聞こえた野太い声の方を振り向くと、男らしい体つきの男性が、ピンクのぴっちりとした服を着て、化粧をバッチリ決め込んで、頬擦りしそうなほど近付いていた。


「ぎいゃー!!」


 人の形はしているが、俺の知らないこの世界のモンスターかも知れない。

 屈めていた腰を戻すと2メートル近くあるだろう。赤い髪を短く刈った頭は、天井に届きそうなほどだった。


「あんら! 可愛い顔して失礼なこと」


 そしてオネェ言葉。突っ込みどころは多いのだが、まだモンスターの可能性も捨てきれない。


「ローズ、ご無沙汰していたね」

「あら? タブラっち、おひさー、ラスティちゃんもね!」


 ラスティが笑顔で手を振り返している。

「この方は店のオーナーだよ、これからもお世話になる事になるだろう」


「よろしくね」

 とウインクしながら手を出されたので、とりあえず握手してみた、力強い!

 ピンクの服の下から腹筋が割れているのがわかる。


「今日は、トキヒコの装備を探しに来たんだ」

「そうなのね、新しいパーティーの子?」

「事情があってね、暫く面倒を見る事になりそうだ」


 親しげに話している、敵意はなさそうだ。はじめはビックリしたが、物腰も柔らかく優しそうなモンス……人だ。


「職は決めたの?」

「いや、適正が分からないから、取り敢えず剣を探してる」

「決まってないならそれがいいわね」

「1000エンくらいで一式見繕ってくれ」

「わかったわ」


 そういうと、腰をクネクネさせながら店の奥へ消えていき、一振りの両刃剣を持ってきた。


「まずはブロードソードがいいと思うわ」


 両手で手渡された剣を受け取った。もっとズシッとするかと思ったが、案外そうでもない。これも魔素のお陰なのだろうか?


「そのくらいだったら振り回すのも簡単だろ?」


 問題ないとタブラに頷いていると、頭から鎧を被せられた。


「そして、最初はレザーアーマーね!」


 アーマーは肩と、全面、背面が縫い合わされたシンプルな物だった。うで部分は装備が別になっており、動きに支障をきたさない作りになっているようだ。

 この世界のでも、初心者はレザーアーマーからってのはセオリーなんですね……

 新品の革の匂いがぷーんとする。思ったより軽く、厚手の革ジャンを着ている感覚だ。


「おい、これは高級品じゃないか」

「いいのいいの、タブラのパーティって、ラスティちゃん以外に居なかったじゃない? タブラが目を掛けるなんて、きっと凄い子だと思っちゃうわよ……それに」


 思わせ振りに話を区切りながら、頭から足の先までなめ回すように観賞してくる。


「それに。タブラのお供で守護神がクロノスって言うんだから、何かしてくれそうな雰囲気満々じゃないのよ!」


 大阪のおばちゃんみたいに、肩をバチンと叩きながら楽しそうに言っている、結構痛い。


「でも、クロノスって剣の戦闘に関係あります?」


 そう、ずっと疑問だったのだけど

 炎の精霊なら、剣に宿って炎属性攻撃とか、鎧に宿って炎耐性とか、使い道は有りそうだが。『時間』を司る守護神は剣の戦闘に置いて、どんなメリットがあるのかと。


 タブラとローズさんは顔を見合わせてから

「さぁ?」

 と言った。


「時間を止めたり出来ませんかね」

「時間を止めるって事は、自分も動けないだろう?」

「自分だけ動けたりとか」

「魔法といってもそんなに都合よくいかないよ。万が一そういった魔法があるとして、空気も止まってるから結局身動き出来ないんじゃないか?」


 くそう、そんなにうまくいかないか!


「もちろん、守護神のレベルを上げれば何かしら有効なスキルを使えるようになるかもしれない。しかし、クロノスは数が少なく、凡例(はんれい)も少ないから、どんなスキルが発動するのか知る者が居ないんだよ」


 がっくりと落ち込む俺を見て、話題を変えに掛かったタブラが言う。


「ところで、そのレザーアーマーはとても良い品だ。表面は手触りのいい火ネズミの革で出来ているが、間にワイバーンの革を挟んである。火への耐性も高いが、ワイバーンの革はちょっとやそっとの刃物も通さないぞ」


 加護に頼らずとも戦えるということなのか。気を取り直していこう。

しかし、革の鎧と言っても、色々あるんだな。


「普通に買ったら、その装備だけで1200エンは下らないだろう」


 高級品だ!

「良いんですか、こんな良いもの」

「いいのいいの、その代わり次に来たときは驚かないでね」


 またもやバチコーンとウインクをしながら、楽しそうに他の装備を集めてくれる。他には簡単な手甲、紐で縛れる革の靴、ヘルメットみたいな革の兜。こんな感じでどんどん揃っていく。


「ポーチや水筒もお願いする」

「わかったわよん」


 これらも革製品。


「ベルトに鞘を付けて、と。はい完成したわよ」


 全身革だらけ……


 革の匂いが凄いことになってる。

 どこからどう見ても初心者ハンター。

 どこからどう匂っても初心者ハンターだ。


 周りの目が恥ずかしいくらい、THE初心者だ。


 みんながご満悦に見ていると、ダサいなんて言えないよ……

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