001話『目覚め』
既存のファンタジーを踏襲しながらも。
親近感の沸く設定で、読み進めるにつれてきっとあなたもこの世界で冒険をしてみたくなるような作品として書いています。
また、この世界がどうして作られたのかという謎の解明や、支配する大きな力に立ち向かっていく主人公を、読者の皆様と一緒に応援して行きたいと思っています。
それでは、長くなりますが『エンジェルフェザー』の世界へお付き合いください。
寒さを感じて 少しずつ覚醒を始めた。
体はとてもだるく、寝過ごした朝のようだ。布団があったら引っ張り上げて二度寝を決め込みたかったが、手探りで探しても毛布は見つからない。
――ガシャン!
その音に、一気に意識がハッキリし始める。
ガラスが割れるような音がしたが、まさか泥棒か?
焦って体を起こそうとするも、力が入らない。金縛りとは少し違う、足が痺れて力が入らないような感覚だった。
体が動かない分、視界から情報を得るためにキョロキョロと辺りの様子をうかがった。
仰向けで見ていた天井が、少しずつ焦点を合わせ始めると、うすぼんやりとした光が、この部屋の輪郭だけを照らしている。
天井はかなり高く、自分の部屋ではないのがわかる。
だが、何故こんなところで寝ているのか検討も付かない。背中に感じられる冷たい感覚も、今の俺には説明出来そうにない。
「こ……こは……」
咳き込みそうになりながら無意識に呟く。
「目を覚ましたんだね! 今動けるようにしてあげる」
俺の小さな自問自答が聞こえたのだろう。
期待していなかった返答に驚いたものの、恐怖は無かった。何故ならその声は屈託無い響きで、到底俺に対して敵意があるとは思えなかったからだ。
―命の泉よ その雫よ
一滴をもって その力を与えたまえ―
『癒しの水泡』
何やら歌うような旋律で言葉を紡ぎ、俺の足元に手をかざす少女。
その手がぼんやりと青白い光を放つと、少女の顔を優しく浮かび上がらせた。
よく見ると、まだ高校生くらいの少女だ。茶色っぽいマントを羽織っており、青い髪を二つに結ってツインテールにしている。
幻想的なその光景につい見とれてしまう。
ガシャン!
と後方でまたガラスの割れるような音がする。振り向こうとしても、体が固定されて動かない。
「動いちゃだめ! 今動くと凍ってる足が砕けちゃうよ?」
少女の焦った声に動きを止めた。
どうやら俺の下半身は凍りついているらしい。砕けるってのは勘弁だ。
足の感覚に集中すると、少女に手をかざされている部分が、だんだんと暖かくなってくるのがわかる。同時に身体全体の感覚も、ゆっくり戻ってきているみたいだった。
「まだ動けそうにないか?」
先ほどガラスの割れる様な音がした方向から、今度は男の声がする。そちらを確認したいが、まだ体の言うことが効かない。目を向けるだけでは見えない位置から、砂の上を激しく動き回る、ジャリジャリとした足音が聞こえる。
「もう少し、掛かりそう」
どうやらこの少女の知り合いのようだが。
「……あの、状況が判らないんですが?」
俺の問いかけに、青髪少女は驚いたようにこっちを見た。
「キミ、日本語判るの?」
「え? ええ、日本人ですから……」
俺は昔から、平凡な顔立ちだと言われてきた。
特にモテる訳でもないが、嫌悪感も抱かれない、クラスのどこに居てもおかしくない容姿。
身長は172cmで日本人男子の平均程度、髪だって黒髪だ。もちろん外国人だと思われるような事は一度も無かったのだが……
むしろ、驚き顔の少女の目は青く透き通っていて、日本人かは甚だ疑問だ。
て言うか、青い髪って何人なんだよ! と思ったが、判らないことが多すぎて突っ込むに突っ込めない。
「お兄ちゃん、こっちは終わったよ!」
足の解凍が終わったらしく、青髪の少女は俺の背後の男性に呼び掛けた。
「よし、ここはもういい。彼を連れて先に行ってくれ」
小さく頷いた少女は、俺の上半身を起こしながら「肩に手を回してくれる?」と優しく囁いてきた。
そう言われても、いきなり可愛い女の子に密着するのは躊躇われる。断って自分で立とうとしたのだが、全くもって力が入らない。
「無理でしょ? ほら捕まって」
そう言うと、一見華奢に見えた少女は、俺を軽々と担ぎ上『お姫様だっこ』で走り始めたのだ。
成人男性が女の子にお姫様だっこのシチュエーションって何!?
混乱と恥ずかしさから気を逸らすように、少女の行く先から目を背ければ、後方に黒服の男が見えた。
男は、宙に浮いた青白い人形のような物体に囲まれていた。それはフワフワと漂いながら、青白く光っている。この部屋をうっすらと照らしていたのはこの物体だったのか……と思った瞬間。
男に向かって突進を繰りだした。
黒服の男はと言うと手に背丈ほどの武器を持ち、軽々と振り回している。その一撃が青白い塊を切り裂いた瞬間。『ガシャン!』とガラスが砕けるような音が響き、消えて行く――
その様子を眺めながら、俺は深い暗闇の中に運ばれていくのだった。