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フェリシニアの花嫁  作者: 古都里
第二章
12/17

一 アリステアとケセルトン

 尼僧院に向かっていたソニアは至急、呼び戻された。


 フェリシニアの王都シニアリードで『ソニアの侍女リチェル』としてソニアの財産を整理していた彼女は、鳩が飛んできたその日のうちに密かに王城へと戻った。

 戻ったリチェルは、楽園の扉を開けソニアに戻る。


 二度と戻らぬと決めた場所に、ほんの数日で戻る事になるとは思わなかった。

 だが今必要なのはソニアの力なのだという。

 それ以上の説明はなかった。


 だが、あの誇り高いアーケイディスの取る行動にしては普通の状況ではまずありえない事であった。


「アーシュ様……」


 囁くような声音が、楽園に響いた。


 楽園で、アーケイディスが妃たちと戯れるのは一番奥のホールだ。

 ソニアは急ぎそちらに向かう。

 奥の扉の前に、二人の女騎士が立っていたが、ソニアの顔を見るとすぐさま扉を開けた。


「「ソニア様!!」」


 妾妃達が叫んだ。安堵の溜息と共に。

 妾妃達に取り囲まれてアーケイディスもいる。憔悴しきった顔で、まるで人形のような。


「ケセルトン様は? ケセルトン様は何処に?」


 ソニアはあたりをきょろきょろと見回し、そして呼び戻された理由を知る。


「──ケセルトン様はおわしませぬ」


 ミスティリカが低い声で言った。


「一体誰が楽園からケセルトン様を連れ出せたというのです?」


「ソニア……長い黒髪の娘で、ケセルトンを自在に連れ出せるのは誰だと思う? まだ少女のようだったが、その者は口がきけぬそうなのだ」


 アーケイディスの言葉にソニアは目を見開いた。


「まさか……アーシュ様はわたくしをお疑いですか?」


 だから呼ばれたのかと疑ったソニアであったが、だが、アーケイディスはゆっくりと首を振った。


「そなたが余を裏切る事はありえぬ。そなたは余を裏切るくらいなら死を選ぶ。そんな事、解らいでか」


「では……?」


 ソニアは顔をしかめた。


「ケティという名の紅い瞳の女が、産み月間近の姉が心配なのでレントに帰ると、その黒髪の娘と共に城を出たそうだ、門番に確かめ緘口令を引いた」


 足元に子猫がまとわりついた。その猫の名はケティというのではなかったか。


「自ら城を出られたのですか? ケセルトン様は」


 アーケイディスは、今度は否定も肯定もしなかった。


「解らぬ。ただ机に『砂漠の薔薇』があった。それに、黒髪の女の正体も解らぬ」


「誰かに唆されたか、質を取られたか……でしょうね。黒髪の女の正体がわからぬ以上推測でしか言えませぬが……国境は封鎖なさいましたか? 門番が紅い瞳の娘を見たのは何時です?」


「無論。白子アルビノは一切通すなと国境の関所には早馬を飛ばした。門番が紅い瞳の女を見たのは十四時前だという」


 アーケイディスの言葉に、ソニアは首を振った。アーケイディスの足元に座ると、彼の手を握り、言う。


「関所の役人が染めた髪と銀髪を見分けられるでしょうか。肌の色など化粧で幾らでも隠せます。瞳の色だとて色硝子の眼鏡をかければ目立ちませぬ。白子を通すなではなく、一切の人間を通すなとご命令を。その時間に発ったのなら、ケセルトン様を城外に誘った者の移動手段によっては間に合わぬかもしれませぬが……間に合うと信じましょう」


「迂闊であったわ。そのように命を発しよう。ソニア、そなたは未だ正妃の座にある。付いてきてくれるな」


 そこまで言ってアーケイディスは一つの事に気付いたらしい。先程までの暗い顔に比べ少し明るい顔をする。


「そうよ、ソニア、ソシエルが帰ってきておるぞ。サーディシエントの謀反、娘による国王の弑逆を伝える為に馬を飛ばしてきてくれたわ」


「サーディシエントの姫は悪魔ですわ。父親の頚動脈を食い千切ったそうですの」


 ミスティリカが言う。


「悪魔が可哀想ですわ、悪魔とて己の親は大事にするでしょう」


 そう言ったのはエンディア。


「それだけではありませんのよ。己の情人まで殺したとか……怖い話ですわね」


 マジェーンが心底恐ろしげに呟いた。

 

「でも今は何処ぞの赤子に夢中だとか。赤子を玩具にしなければいいのですが」


 ティーローゼの声に憂いが混じる。


 ケセルトンの娘をサーディシエントのアリステアが可愛がっていたというのはアーケイディスから聞いていて、ソニアは知っている。恐らくはその赤子であろう。


 ケセルトン様、貴女は一体今何処にどうしていらっしゃるの?


「ソニア、ソシエルがサーディシエントに戻る前に会っておけ。今宵、また発つ。戦が始まるのはそなたも知っておろう」


「ええ」


 ソニアは簡潔に答えた。

 尼僧院で尼となり世俗とのかかわりを絶とうと思った彼女であったが、長らく王妃という立場にあった以上、様々な情報に敏感になっている。


 それにアーケイディスがケセルトンを娶ったのは、いつか起きる戦争の際に備えての事だと知らぬ者は誰もいない。戦争など起きぬに越した事は無いが、もし仮に起こった時に国内が二分するような状況を防ぐ為、ケセルトンは求められた。


 あのお方も不憫なお方。


「ソシエルはこんな夜に発ちますの?」


 ソニアの言葉にアーケイディスは頷いた。


「あれは忠臣よ。もしケセルトンが国境を越え、サーディシエントに運ばれた際にすぐに動けるようにと今宵発つと言いおった。一日位は身体を休めよというたが聞かぬ。雑務を終えたら此方にリーンディが伝えに来るであろう」


「……何故、ソシエル如きがケセルトン様の失踪を存じているのですか? いえ、アーシュ様、一体どれ程の人間がこの事柄について知っているのですか?」


 低い声でアーケイディスに問いかけながら、ソニアの頭が忙しく働き出す。


 妾妃達が知っているのは、まぁ仕方の無い事だ。彼女らは小鳥なのだから。

 だが、一介の諜報部員であるソシエルが何故?


 リーンディは解るのだ。彼女は女官長であるのだから当然だとも言えた。


 しかしソシエルは? 第四諜報部部長、だが所詮は諜報部員ではないか。

 アーケイディスはそんなにぽんぽんと情報を漏らす男ではなかったと思うのだが。


 恋狂いか? それとも?


「ソシエルがケセルトンに挨拶をしたいと申し出てな、それでリーンディにケセルトンを呼びに行かせたのだ。そうすると部屋の何処にもいなかったと。楽園中を探し回ったが見つからずその事をリーンディは奏上した。それ故ソシエルは知っておるのだ」


「リーンディ。愚かな。その様な大事を一介の諜報部員であるソシエルの前で奏上するなどと」


 ソニアの美しい眉が寄せられる。


 アーケイディスは此処にリーンディがいなくて良かったと本気で思った。

 女は、怒らせると怖い。


「ソシエルはそなたの弟ぞ。余の外戚だ。もっと高い地位を与えても問題ない男、聞かれたとて問題ないであろう」


「その様な考え方はお慎み下さい。ソシエルは己の分におうた仕事をしているのです。出世を望むのなら真面目に仕事を勤め上げ、国の役に立てば良いのです。さもなくば手柄を上げれば良いのです」


 眉間の皺を消さない王妃にアーケイディスは精一杯言う。


「今回のアリステア王女……否、女王の凶行の報告は手柄であった」


「アーシュ様はソシエルに甘すぎます」


「そなたが厳しすぎるのだ」


 一蹴されたアーケイディスは、それ以上言い募っても負ける事が見えていたのであろう、一瞬目を伏せた後、ソニアを見つめた。


「とりあえず命を発しよう。ソシエルにはちゃんと会ってやれ。そなたの唯一の肉親であろう、ソニア?」


「そうですわね……」


「しばらくは滞在してくれ。頼む。そなたの部屋はまだそのままぞ」


「陛下がお許しくださるのならば、わたくしはケセルトン様が帰られるまで逗留いたします。尼僧にあこがれるリチェルではなく、王妃ソニアとして」


 そのソニアの言葉を待っていたのはアーケイディスだけではなかった。

 妾妃達も顔を見合わせ、ほっとした様子を見せる。


 ソニア様がいらっしゃれば大丈夫。


 その思いは時にソニアには重過ぎるものであったけれども、愚痴や弱音を吐かない彼女に、皆は大樹に背をもたれさせるような安心感を覚えるのであった。

 ソニアは黙って小鳥達と大事な王を守る為にしなる枝のように腕を広げ、それらを受け入れる。


 リーンディがソシエルの出立を告げに楽園までやってきたのはその直後の事であった。




◆◆◆

 時計の針を巻き戻す。


 ケティとアーダは馬の背に乗っていた。砂漠に入ると駱駝を買うのだとアーダは、否、ソシエルは言った。


 城から出て、暫く南に向かい、喉が渇いたと思ったケティ、つまりはケセルトンに差し出されたのは皮袋に入った葡萄酒であった。


「安酒ですので城でお飲みになられている酒とは比ぶべくもありませんが。渇きは癒せましょう」


「すまない。有難く頂く」


 ケセルトンはそっと口をつけた。

 その酒は独特の味がした。飲めば飲むほど喉が渇く気がして、貴重な水分である事がわかっているのに一気に飲み干してしまって、気を失い、子供の頃のように落馬した。

 

 己の不覚を恥じる暇すらなかった。

 毒という毒に身体を慣らしていたつもりだが、アーダが、ソシエルがケセルトンに飲ませたのはただの毒入りの葡萄酒ではなく、仕込まれていた毒は魔女が調合した特殊なそれ。

 おまけにケセルトンは心の底からソニアと同じ面差しのソシエルを信じていたのである。


 あっさりとケセルトンは意識を手放した。


 そして、今、彼女は猿轡をかまされ、全身を拘束され酒樽の中にいる。ケセルトンは耳に綿を詰められ目隠しまでされていた為、状況が全くわからない。


 その間ソシエルは時間との勝負とばかりに為すべき事を為していた。


 ケセルトンが落馬した後、彼女を拘束して酒樽に詰め、城に戻り何事も無かったかのような顔で新しいお妃様にご挨拶申し上げたいと王に奏上し、瑣末事を始末して、それからまた城を出て。


 全て計画通り。


 ケセルトンはソシエルが戻る少し前まで眠っていたのだが、持ち上げられて荷車に載せられようとしたときに気が付いた。

 暴れる事が出来ない。ほんの僅かも身体を動かすことが出来ない。


 一体どうなっている?


 視覚も聴覚も奪われた。ただ嗅覚は残っている。触感も。

 葡萄酒の匂いが離れない、ケセルトンは荷車に載せられたことは知らぬがガタゴトと揺れるたびに身体を打ち付ける壁は青銅でも鉄でもなく木である事は解る。


 酒樽に詰められたか。

 ケセルトンの冷静な部分はそう判断した。

 しかし、薬を盛られた事は解るがソシエルがそうしなくてはいけない理由が解らない。


 自分は何処へかどわかされようとしているのだろう?


 ソシエルは急いで旅をしていた。急がなくてはならないが、国境を越える時に少しも怪しまれてはならない。

 砂漠を越える旅は長くかかる。だが、川の流れに身を任せるとフェリシニアからサーディシエントは案外、近い。流れがきついのでサーディシエントからは使えない一方通行の道だが。


 国境でソシエルは王の札を見せ、商人セイシルと名乗って川を下った。ワインが入った樽がつまれ、その中にケセルトンの入った樽もあった。


 セイシルはソシエルのもう一つの名前である。

 セイシル・ニアシア。

 酒屋として成功し、フェリシニアとサーディシエントを行ったりきたりする生活をし、この度、戦の機運が高まってきたので、フェリシニアからサーディシエントを抜け、ユナバラという小さな国で戦が終わるまで隠遁する、それがソシエル、否、セイシルの素性として用意された脚本であった。


 酒屋という職業を選んだのは樽に好きなものを詰めて運搬できるからだが、今回の事を考えると本当に自分の選択は正しかったとソシエルは思うのであった。今回、スピードを優先するために酒樽は七つしか積んでいない。最後の商売にサーディシエントに極上のワインを納め、女王戴冠を祝うのだと言ってやった。


 そして、それこそが嘘で塗り固められたソシエルの唯一の真実であった。


 アリステア様。


 二十二のソシエルは三つ年上のアリステアの虜であった。

 気が触れた女王。狂気の女王。親殺しの女王。血まみれの女王。


 何とでも言うがいい。

 今だけだ、好き勝手いえるのは。いざアリステア様が戦場に立てば、皆あのお方の偉大さに気付き膝を折るであろう。


 後宮を楽園だなどと呼び、女の膝枕で政治をするアーケイディスなどとは違うのだ。


 くくと、ソシエルは笑った。


 国境は封鎖されたはずなのに王の札を持つ自分は自由に行き来が出来る。


 アリステア様は私の用意した贈り物を気に入ってくださるだろうか?

 ケセルトン、レントの戦乙女にして、今、最も王の心を捉えている娘。


 本来ならソニアをさらってくるはずだった。

 だが、ソニアは療養中だということで会う事が出来なかったのだ。だから王に出立の挨拶をする際に隣に姉がいて驚いたのである。ソニアの方が喜ばせられるかも知れぬと思うが、攫いなおすのは無理である事も解っていた。


 諦めてケセルトンを運ぶ。ケセルトンは美しい女だ。いたぶる楽しみも格別であろうから、きっとアリステア様はお許し下さるに違いない。


 川から、サーディシエントの国境を越える。そして再び陸路へ。

 アリステア様、ソシエルの真心を御覧下さい!!




◆◆◆

 ケセルトンが目を覚ましたときに、彼女は天井から吊り下げられていた。


 つい先刻まで馬車に揺られていた様な気がするのだがな……そう思いながら記憶を辿る。


 他人がいないところで何度か水をかぶせられ、皮袋から水を飲む事を許された。酒樽から引きずり出された時に今ならこの男を殺して自由を得られるかと思いはしたが昼間は灼熱、夜は凍える寒さの砂漠の道中、酒樽の中で延々輸送されるというそれは恐ろしく体力を削ってくれた上に、ソシエルの縛り方はケセルトンをして縄抜けが不可能な程の技量だった。

 お陰様で身体中血が十分にいきわたらぬのか痺れがひどく、ケセルトンは機会を待つ事にしたのだ。


 殺すつもりならとっくに殺せている。何か私には価値があるらしい。急がなくてもいい。確実に首謀者を壊して殺す。


 ケセルトンはそう思って耐えて……そして行き着いたのがサーディシエントの地下にある拷問場だったのだ。


 身体中の戒めは解かれ、頭上で手をひとくくりにされ吊り下げられ、量の足には鎖が、鎖の先には足を持ち上げられなくさせる為だろう、鉄球が繋がれれている。


 レントの娘を、いや、ケセルトンを捉えるというには随分お粗末な拘束だった。

 

 だが、約三日間、そうだ、たった三日間だ、三日間の旅でケセルトンは消耗しきっていた。水を飲むと、また猿轡をかませられようとしたので、せめてもの仕返しにソシエルの指をかんだら酷く殴られた。痛いのには慣れていたし、それで声を上げるような無様な事もしない。


 レントの娘を拷問で支配しようなどと、片腹痛い。


 それでも、日のあるうちは蒸し器、夜は凍える氷室のような酒樽の中でがんがん揺られに揺られまくった旅でケセルトンは弱っていた。

 ついでにいうと、三日間、ケセルトンは何も食べていない。


 それでも、ケセルトンは足を動かそうと力を籠めてみた。

 動かす事は容易かった。だが、蹴りを放ったり足で羽交い絞めにしたりするのは無理そうだ。


 そしてこの匂い。

 血の匂い、腐った肉の匂い、鉄錆の匂い。


 悪趣味な拷問場だ。

 自分と同じように吊り下げられたものが沢山いた。

 既に息を止めた者も、まだ足掻いている者もいた。


 人の死体は見慣れている、拷問場も見慣れている。だから驚かない。

 だが、決して良い気分はしない。


 此処が野外でなくて良かったとケセルトンは思った。茨の鞭より日光のほうがケセルトンには恐ろしい。


 その時、遠くから床に響く高い踵の靴独特の足音が響いてきた。

 意識のあるものは身をこわばらせ、また時には叫び声をあげて助けてくれと哀願する。


 拷問官は女なのだろうか?

 大理石に響く踵の音だけでなく、衣擦れの音までが聞こえてきた。


 そして現れたるは美しい女。

 

 歌うように笑う、この場には場違いな女の声が響き、この拷問場で生き残っている幾人かは泣きながらお助け下さいと神に祈り始める。


 女はそんな者達に興味は無いようだった。

 女が興味を抱くのは……ケセルトンのようだ。


「お前は忠義者ね。本当に忠義者ね。わたくしの為にちゃあーんと、新しい妃とやらを連れてきてくれるのですもの」


 これがアリステアか、と、ケセルトンはなんとなく見当をつけた。

 派手に着飾った舞台女優のような女だった。美しいが、品のある女ではなかった。


 白粉の匂いが、この場所には如何にも不似合いで。

 赤い唇が、白い顔の中で自己主張していた。自然な赤ではなく口紅の赤。

 

 ソシエルはその後ろを黙って付いてくる。

 まるで王子のように着飾って、孔雀の羽で作った巨大な扇でアリステアを扇いでいる。


 ケセルトンはにっこりと笑ってみせる。


 アリステアは一瞬、息を呑んだ。


 吊り下げられて笑うものなど初めて見たわ。


「初めまして、アリステア女王陛下」


「お前、馬鹿なの?」


 アリステアは単刀直入に問うた。


「見て御覧なさいな、ここの死体達を。お前もこの者達の仲間入りをするのよ?」


「だが、まだ生きている。私はフェリシニアの妃の一人として、生きている間は貴女に礼儀を忘れないつもりだ。アーケイディスの恥になるのは嫌だから」


「貴女、本当にあの男が好きなの?」


「答えは是。ただし、婚姻自体は全くの政です、女王陛下」


「ソシエル、可愛い小鳥を有難う。そこの鞭を取って頂戴。それからこの娘を裸にむいて」


 淡々と、アリステアが、命じる。


「ソシエル!!」


 ケセルトンは紅い瞳をかっと見開いてソシエルを睨みつけた。

 ソシエルの動きが一瞬止まる。


「そなたが姉上はそなたの裏切りをご存知なのか否か、答えよ!」


「ひっ!!」


 怯えた声を出すソシエルを、アリステアは平手打ちにした。ぱしん、と乾いた音がする。


「知るわけ無いじゃない。あの女はわたくしなんかよりよほど冷酷。自らの弟でもわたくしと通じていると知れば殺すわ。釈明の機会も与えずにね」


「まるでご自分が父王に釈明の機会を与えた上での凶行だったように仰る」


 ケセルトンの言葉に、アリステアは高笑いし、ソシエルの手から鞭をひったくる。


「口のきき方にお気をつけなさい!!」










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