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プロローグ『転生』

処女作です。

誤字脱字など指摘して貰えれば嬉しいです。

「勇者がこの城に侵入したそうですよ?ヘルスド様」


 魔王軍幹部兼魔王の秘書であるレイバーは、燃える様に赤い髪をサッと耳にかけ、自虐的な笑みを浮かべ呟いた。その透き通った綺麗な声は、無駄に広いこの空間にスーッと響き渡る。


「そうだなレイバー。俺も先程確認したよ」


 そう言って俺は、レイバーと似た様な表情で苦笑した。


「ヘルスド様。顔が引きつっておられますよ。この城の主である貴方様がそんな顔しては、部下である私も気が滅入ると言うものです」


 レイバーは俺を揶揄う様に目を細めた。だが、嫌悪感は無い。寧ろそれどころか、いつもどおり何も怯えること無く発言するレイバーを見て、俺は少し安堵してしまう。


「すまない。だが、なんてったって勇者だからな。敗北は見えている。」


「そうですね。力量的に見て、一騎打ちならばヘルスド様と勇者には天と地…程ではないですがゴブリンとオーガ程度の実力差がありますしね。

 第一にヘルスド様は後衛向きですから」


 非常に解りやすくない例えであるが、力量が有るのは確かだ。しかしまぁ、なんと言うのか。俺がゴブリンに例えられる日が来ようとは思いもしなかった。


「他大陸の魔王ならともかく、俺じゃあ勝敗は目に見えている。だから部下達を自主的に逃がし、残りたい者だけこの城に残ってもらったんだしな」


 事前に勇者が来る事は分かっていた。なので自主性で残りたい者は残り、逃げたい者は逃げていい。と言う事にした。

 先に言っとくが別に逃げた者を僻むつもりはない。部下達にもそう告げたしな。


「はい。ヘルスド様のそういう所は好感持てます」


 レイバーは笑顔でそう告げた。そしてなんとも言えない表情で自らの後ろに位置する大扉の方へと視線を流した。


「今も、城に残った勇敢な者達が戦っておられるのですね」


 そう言ってレイバーは扉の奥から漏れでる音を耳にし、静かに瞼を下ろす。


 肉が引き裂かれる音、魔法攻撃による爆撃音。そして、激痛に耐えきれなかった者達の断末魔。


 耳にこびり付くその音らは、徐々に時間が経つにつれて這い寄るように近ずいてくる。


「あぁ。本当にしょうがない奴らだ。

 さて、そろそろ俺達も準備しないとな」


 俺はそう言うと立派に佇む椅子から重い腰を上げ、びっしりとあちらこちら魔道具が付けられている、煌びやかな装備を装着する。


「ヘルスド様」


 装着されている魔道具を一つ一つ確認している中、レイバーの声が割り込んでくる。


「どうした?」


 視線を流すと、レイバーは妙に神妙な顔をしていた為、怪訝に眉を顰める。


「魔王である証。魔王の指輪を忘れております。」


「あぁ」


 何だ、そう言う事か。

 少し拍子抜けしてしまい、自然と抜けた声が漏れてしまう。

 俺はホッと胸を撫で下ろし、指輪を受け取ろうとレイバーに近寄る。


 レイバーは指輪を大事そうに手で包み、それを俺の方へと差し出す。


 指輪を受け取る為、俺が手に触れようとした瞬間。レイバーは途端に指輪を離し、その離した手をこちらに向けた。


「精神支配マインドコントロール!」


 そしてその伸ばしたレイバーの手からは淡い光が漏れる。

 俺はその不意打ちに驚く……ことは無く、平然と淡い光をの奥にある、レイバーの顔を見やる。


「やはりか、レイバー……すまないな」


 俺はレイバーと対称的な体勢で手を広げる。

 俺の言葉が耳に入ったのか、レイバーの目がパッと見開らいた。


「反射リフレクション!」


 レイバーの手から魔法が発動したすぐ後、俺は反射魔法を使用した。


「なっ!」


 全くの予想外だっただろう。レイバーは驚きの声を上げる。


「レイバー。お前がそれを使う事は読めていた。もし、俺が予め魔法展開していなかったのなら、お前の方が早く発動していただろう」


 俺はレイバーの体から力が抜けていくのを視界に写ながら、言葉にした。


 先程レイバーが使用した魔法は、精神支配マインドコントロールと言う。対象の意識を数時間思うがままに出来る魔法だ。


 最上位魔法。レイバーが得意とする精神系の魔法の最上位にあたる。

 だが、これもそれ程便利な魔法ではない。魔法発動は早いが、対象者と一定以上の信頼度が必要となってくる。いわば、信頼関係が高い程、成功しやすいのだ。


 もし、俺が反射リフレクションを発動していなかったら、今頃意識は闇の中だろう。



  さて、何故レイバーは俺に魔法を使ったのか。まぁその結果は読めている。


 レイバーは俺が決して勇者から逃げない事を分かっていた。だから、俺の精神を支配して逃がすつもりだったのだろう。

 決して裏切りなどはありえない。現に精神支配マインドコントロールがレイバーに効力を与えている以上、レイバーと俺に一定以上の信頼度があると言う訳だ。反逆を起こす気でいるのなら、信頼関係など存在しない。


 俺は時間を掛けて結論を再確認する。そして一息入れ、流れる様にレイバーに視線を向けた。


「記憶干渉メモリー・インタルフィアランス」


 レイバーの頭に手を置き、魔法を発動する。


「これで、お前の中で俺とお前の記憶ない。

 では、レイバー、サクリフェイスに命ずる。即刻、転移の魔道具を使って魔大陸へと立ち去れ」


 …


 レイバーは光のない眼差しで、颯爽と室内に綺麗に整理されている一つの魔道具を手に取る。


「それで飛べ」


 レイバーの反応は皆無。それでも理解はしているのか、魔道具を発動させる。


 これでいい。俺には残る責任がある。だがレイバー、お前にはない。

 できればお前の意思を尊重してやるつもりだったが……魔法を発動させたお前が悪いな。


「じゃあな。レイバー」


 そして俺は神々しい魔道具の光を、虚ろな目で見つめているレイバーに別れを告げた。




 レイバーが転移してから数分。巨大な大扉がまるで巨人が力任せに拳を振ったが如く、勢い良く開かれる。


「魔王ヘルスド!」


 今にも壊れそうな大扉の奥から姿を現したのはまだ年端もゆかぬ少年達だった。


「勇者か」


 俺は睨む様に勇者に視線を合わせる。


 鋭い目付きで睨まれた勇者の顔からは笑みが浮び上がる。そしてさらに勇者は小さく足を前に出し、俺の方へと剣を向けた。


「魔王ヘルスド。さぁ、決戦の時だ」


「随分と楽しそうじゃないか。地獄の空間ヘル・スペース」


 俺は両手を広げ、予め用意していた魔法を展開する。


「ははっ、やはり魔王とはこうじゃなきゃな!楽しくなってきやがった!」


 勇者は、勇者パーティーと俺を取り囲む様に展開されていく黒炎の壁を尻目に叫んだ。


「ふっ。勇者と思っていたが、どうやらただの戦闘狂だった様だ。逃げられない為に張った結界なのだが、これでは意味が無いな」


 高揚としている勇者を見て、俺は嘲笑うかの様にそう言った。


「なっ!勇者様は戦闘狂では有りません!勇者様は皆を救うため」


「なーに堅いこといってんのよ、アリア。多分こいつの中では救う事は底まで重要じゃないわよ」


「まぁ、そうだな。あれは勇者と言うかなんと言うか……武神。とでも言うべきか」


 俺の言葉に、白く輝く様な正服を見に纏っている神官の少女が反論する。そして、それを宥めるように大きな杖を持った魔道士の女性と体格の良い武闘家の男が発言した。


「安心しろアリア。救う事も大事だ。だが、それは二番手だ。僕にとって一番に重要な事は、強者と戦う事だ!」


 非常に狂った……いや偏った考え方だ。

 俺も似たような所がないとも断言できないが。


「四方や貴様見たいな輩が勇者とは。それでは世界は救われないぞ」


「世界も救ってみせるさ。でもその通過点として僕は多くの強いやつと戦う。勇者に選ばれた事は僕にとって奇跡のようなものだ。あぁ、マジで僕は幸運だ!」


 勇者は高まる気持ちを抑えられず、俺に飛びかかる。だが、安易に一直線上には突撃はしてこない。


 頭はおかしいが、勇者な事だけはあるな。こいつの動きが常人のそれを遥かに凌駕している。


 勇者の動きを観察している中、勇者はフェイントを混ぜながら俺との距離を確実に縮めてくる。


「黒煙ブラックスモーク」


 俺との距離が一定以下に達すると勇者は自身の眼前で、どす黒い煙を発現させる。


「ほう、どうやら魔法使いとの戦い方も熟知している様だな」


 勇者は答えない。

 当然俺は勇者の姿は見えないのだが、それ以上に近距離で魔法を発動した勇者の視界は、もはや煙で何も見えやしないだろう。

 それに周りには(黒煙)魔力の塊がある為、魔力感知も使えない。


 この魔法は遠距離を得意とする魔法使い相手時の初動の動き。目眩しで相手に位置を悟らずに接近する。そして厄介な所は発動主自身の(黒煙)魔力が触れている所は感覚的に察知可能な点だ。


「広範囲波動エクスパンシブウェーブ」


 手始めに邪魔な煙を晴らす為、広範囲の波動を放つ。


「巨大な煙の盾グレイトスモークシールド。強化、巨大化ギガント」


 勇者は即時に俺の波動を、巨大な盾を更に巨大化させ、煙全体を晴らさないように守る。


「なるほど。では、召喚。シャドーウルフ」


 俺は手元から多数の魔法陣を展開させる。


 そして、綺麗な円を描く紫色に光る魔法陣から、数々の漆黒の狼が召喚されていく。その数二十は下らない。


「グルルル」


 黒狼達は眉間に皺を寄せ喉を力強く鳴らす。まるで獲物を狩るのを今か今かと待ちわびているかの様に。


「いけ」


 その言葉に黒狼達は駆け出し、煙に紛れこむ。


 足止めだけなら統率力が高く、尚且つ素早いシャドーウルフがいい。それに、彼奴ならば黒煙に紛れる事もできる。


「黒き稲妻ヘル・サンダー、黒き業火ヘル・ファイヤ、黒き疾風ヘル・ウィング強化・広範囲エクスパンシブ」


 俺は黒煙の中に黒狼と同じく紛れこます様、暗黒の魔法を広範囲で発動する。

 そんな中、勇者はと言うと黒煙で何も見えやしないが、音から察するに黒狼を次々と切り倒している。


「完全なる補助フルアーマー、火耐性ファイヤプロテクション、雷耐性サンダープロテクション、風耐性ウィンドプロテクション」


 俺の詠唱を聞いていた様だ。勇者はすぐ様対応を施す。これで、先程発動した魔法は余り効力がない。


「なかなか、小賢しいじゃないか。ヘルスド」


 重圧の効いた声が響き渡る。それと同時にこの空間を支配していた黒煙が瞬時に晴れていき、勇者の姿が顕となった。


 小賢しい……か。ふん、こいつの言葉の裏が取れてしまう自分が嫌になりそうだ。

 それにしても、大分距離を縮められたな。この距離ではもう、魔道士の戦える領域では無くなっている。


「全く、どちらが小賢しいのやら。

 お前の言いたい事は分かっている。無論、次からは本気で行くつもりだ。死ぬ気は有るが、早々に幕閉めはしないのでな」


 今までのは手探り。俺も勇者も本気を出してはいない。


「そいつはどうも」


「ところで勇者よ。後ろの者達とは共闘はしないのか?」


 勇者と互いの技量を見合っていた中、戦闘が始まってから微動だにしない勇者パーティーに俺は違和感を覚えていた。


「僕一人で戦うと伝えてある。そして、残念なことに僕とお前の戦いについてこれない」


 何処か投げやりに、それでも仲間達には聞こえない大きさで勇者は呟いた。


「そうか、そうだな。懸命判断だ。

 では、俺は本気で行かせてもらうとしよう」


「あぁ、こいよ。ヘルスド!」


 これが最後だ。レイバーが居ない今、あれを使っても問題ない。

 負ける事は分かっているのだ。ならばせめて俺の全力で、部下達にカッコがつく死に方をするとしようか。



「……身体強化・魔神化モード・デビル」




 ………

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