ヒトリカクレンボ 後編
み け
「 つ 」
い た
「ぎゃぁあああっ!」
な、何ぞあれ!?
元は兎のぬいぐるみだったのだろう。長い耳が垂れている。
大正の女学生の様な服を着ているみたいだが、かなりボロボロだ。
さっきの火に巻き込まれたのか所々焼け焦げた跡がある。
手には機関銃。あからさまにこちらを狙っている。
それだけでは驚きはするが叫びはしない。
それなのに何故驚いたかと言うとーー。
パカァ…
兎のぬいぐるみの顔が縦に裂けたからだ。
その裂け目はまるで口の様に赤く、ギザギザの歯が覗いていた。
涎と思わしき液体がぽたり、ぽたりと垂れる。
SAN値削れそう。
「ヒッ…。」
あのこころですら顔を真っ青にするレベルの怖さだ。
あの容姿で「ホラゲの敵役です」と言われても納得できる。
「うう…。なんやったんや…?」
どうやら気絶していた造神先輩が目を覚ました様だ。
既に簀巻きでは無くなっている。
「逃げるぞ!」
「おろ?なんや急に手ぇ引っ張って」
俺達はまだ状況を上手く呑み込めていない造神先輩を引っ張って逃げ出した。
しかし、そうは問屋がおろさない。
兎のぬいぐるみが銃を構えて追いかけて来た。
しかも、発砲して来た。
ズドドドド!
地面に銃弾の形の穴が開く。
当たらなかったのは幸運以外の何物でもない。
「な、なんやアレ!?ぬいぐるみが動いとるで!?」
ようやく状況を理解した造神先輩が目を見開いた。
何だろうアレ。勝てる気がしない。
あ!真照の鑑定なら弱点とか分かるんじゃ…ってあれ、いない…。
ここで一つの神力に思い当たる。
夜神の神力だ。
「あんっのオセロ共ぉおおお!!」
隠れやがったな!
真照はともかく夜神は確信犯だ。
確かにこの状況において二手に分かれるのは良い選択肢かもしれない。
だが、追いかけられる身にもなってみろ!
SAN値直送だよ!
相変わらず兎のぬいぐるみは俺達を狙っている。
流石に幸運は続かない。
銃弾はその内当たるだろう。
そんな中、場違いな程にピカピカ輝いている物がある。
造神先輩の指輪だ。
指輪は銀色だが、一つだけ小さな紫色の宝石が付いている。
その指輪の宝石が光輝いていた。
思いっきり目立つ。
まさかぬいぐるみはそれで追いかけて来ている訳じゃ無いよな!?
「ちょ、その光止められ無いのか!?」
「無理や!救難信号やから!」
「救難信号なら仕方ないな!」
その救難信号が俺達を助ける所か窮地に落とし入れている!
あと九頭龍!納得するな!
「あと操作の仕方が分からへん」
あはー、と能天気に笑う造神先輩。
笑い事じゃ無い。
まあ指輪の使い方なんて分からないよな…。
刀みたいな明確な武器では無い。そもそも武器どころかアクセサリーだ。
どう使えと言うのか。
そこでこころが口を開く。
「お兄ちゃん…。ごめんなさい。」
一体どうしたんだ急に。
何か謝る事なんてあったか?
「ヒトリカクレンボ引き起こしたの…わたし。」
「はぁあああっ!?」
え、こころが?ヒトリカクレンボを?
「そんなに隠れんぼがしたかったのなら俺達に言えばいいのに…」
こころは頭がいいとはいえまだ十三歳。
普通なら中学一年生の歳だ。
まだまだ遊びたい盛りだろう。
「……。うん。そうすべきだったね。」
こころは少し悲しそうにそう言った。
「じゃあぬいぐるみが追いかけているのは術者のこころ…って訳か?随分危険な物を持たせたな」
「そうだね。わたしは機関銃を持たせた覚えはないけれど…。」
…じゃあどこからあの機関銃が出て来たんだよ。
この国では銃器は違法だからそこらへんに落ちている訳では無いとは思うんだがな。
「始め方が分かってるなら終わり方も分かるか?」
「もちろん。塩水を口に含んでぬいぐるみにかけて、『わたしの勝ち』って三回言った後に燃やせば終わる。でもそのためには銃器を封じてぬいぐるみを捕まえる事と塩水が必要。」
塩水はなんとかなるな。等価交換だ。
炎も生太刀の炎で大丈夫だな。
だが、問題は銃器を封じる事だ。
「銃器を封じるのはわたしがやるから良い。これはけじめだから…。」
「ほならワイは網を作るで。これで捕まえられるはずや」
造神先輩が拳を握る。
紫の光が散った後、その手には程よい大きさの網が握られていた。
それを見たこころが後ろを振り向いてぬいぐるみと対峙する。
その手には巻物が握られていた。
バッ、と巻物が開かれる。
それと同時に眩い水色の光が辺りを満たした。
「容貌醜き女神様 天孫様には逆らえぬ
岩のように永くある 象徴するはその命
岩司る 女神様ーー姉神 イワナガヒメ」
唱え終えた途端、ガゴッ!、という音がしてそれなりの大きさの岩が上から落ちて来た。
突然の出来事に一瞬ぬいぐるみの動きが止まった。
たかが一瞬、されど一瞬。
構えていた機関銃は乗って来た岩の重みに耐えきれず銃身がひしゃげた。
ぬいぐるみの機関銃がひしゃげた事を確認すると造神先輩が網を投げた。
ぬいぐるみはジタバタと暴れている。
その上に、塩水がこころの口からふりかけられる。
人によってはご褒美だな。
「わたしの勝ちわたしの勝ちわたしの勝ち!」
早口でこころはぬいぐるみに告げる。
ピタリとぬいぐるみは動かなくなった。
そのぬいぐるみ目掛けて炎に包まれた刀身が振るわれる。
ぬいぐるみは今までは一体何だったのかと問いたくなる位何の抵抗も無く燃えた。
そのぬいぐるみが灰となって燃え尽きた時、街中のぬいぐるみがまた元の様に動かなくなった。
まるで操り糸が切れてしまったかの様だった。
「終わったな」
こうして街を巻き込んだ大騒動は幕を閉じた。




