購買はすぐ売り切れる
「あ」
「どうしたのよ、万?」
「弁当忘れた…」
そろそろ紫陽花が咲いてくる6月。時刻はお昼。ご飯の時間だ。
「購買に行ってくればいいんじゃないの?」
「この時間じゃなあ…。もう売り切れてるだろ」
俺は時計をちらりと見る。1時…。だめだこりゃ。
「はぁ〜あ。今日は昼抜きか…」
俺ががっくりと落ちこんだその時。教室が急にざわめき出した。
「うわっ、誰だあの子!」
「やべー…。すっげー美少女…」
「うおっ、まぶしっ!」
俺はドアの方を見る。そこには…。
「失礼します。お兄ちゃん…幸神さんは居ますか?」
水色のボサボサな髪とQの字の様なジト目。頭にはゴーグル。手には俺の弁当。その少女の名は…。
「こころ!」
俺の従兄妹、智神 こころだった。
「あ、お兄ちゃん。叔母さんが忘れ物って。」
「おう、ありがとうな」
俺はこころの頭をくしゃくしゃに撫でる。無表情だった顔が少し緩んだ。
「幸神…。お前、あの子の兄だったのか」
「良いなあ美少女の妹…」
「ラノベの主人公か」
「妹じゃないぞ。従兄妹だ」
「「「あんま変わんねーよ!!」」」
男のクラスメイトに羨ましがられる。まあ、自慢の従兄妹だからな。羨ましい気持ちも分かる。
「な、誰よあの子…」
「『中央高の眠り姫』よ。可愛いからって図に乗ってるんじゃないの?」
「やだあ。クスクス」
反対に女子には不人気な様だ。俺は女子の視線を遮る様に立つ。滅茶苦茶睨まれた。怖い。
「うわー凄い美人さんだね。真照ちゃんには劣るけど。…真照ちゃん?」
「な、あ…」
真照は開いた口が塞がらない程驚いて居た。この前自分とどちらが美しいか聞いて来た時に思い描いていたものよりも上だったのだろうか。
「幸神は普通の顔立ちなのにな。従兄妹はあんなに美少女なのか」
「連絡先教えてくれよ」
「うるせえやい」
俺だって自覚してはいるよ!似てないって!こころの方が美人過ぎるって!
「じゃあ、わたしはこれで…。失礼しました。」
「あ、待って!」
驚きから立ち直った真照がこころに声をかける。こころは驚いた様に振り返った。
「ええと…。何?」
「あ、アンタ、万の従兄妹なのよね?」
「そうだよ?」
「今、部活入ってるかしら!?」
「入ってないよ?」
どうしてそんな事を聞くのか分からないと言わんばかりの顔をしてこてりと首を傾げるこころ。
「こころ、アンタ…『人助け部』に入らない!?万もいるわよ!」
「『人助け部』…?」
「そうよ。人の悩みを聞いて解決する部活よ!」
真照が期待の眼差しでこころの目をみる。目がキラッキラしてやがる。
「…わたし、すぐ眠くなっちゃうから部活はあんまり出来ないよ?」
「構わないわよ!」
こころは困った様に眉尻を下げる。逆に真照の眉毛は角度が上がった。
「…真照さん?で良いんだっけ?神力は、何?」
「えっ、近いわね…。神力は鑑定よ。見るだけで分かるわ」
今度はこころが眉を上げて真照に近づいてコソコソ話し始めた。真照の眉尻が下がる。
確かに神力の話は人前で話さない方が良いだろう。厨二病と思われかねない。
真照の話を聞いたこころは目をきらりと光らせた。
「お兄ちゃんに聞いてると思うけれど、わたし、スパイに追われていたりするの。見れば分かるなら、いたら教えてくれる?それが入部の条件。」
「え、わ、分かったわ。良いのね?」
「うん。」
こころは口元をほころばせて頷いた。真照もそれにつられて笑う。
「やったわ!4人目!あと1人で5人よ!」
こうして、こころが加わった。
「じゃあね、お兄ちゃん。」
「おう、後でな」
こころが教室をあとにする。こころの教室は1ーAだ。
俺はようやく昼飯が食べられる事に浮かれていた。だからか。
「本当にーー。本当に似てるよ。照彦ーー」
こころが知るはずのない名を呟いている事に、気がつかなかった。
一応こころの目を絵にしてみました。




