筋肉部の大兎
「次は…体育館か」
暫く休んだ後、七不思議の探索に戻った。炎を纏った剣で切られたら死にそうなものだが、幸運にも傷は浅く、探索に戻る事が出来た。
「なぁ…筋肉部ってなんだ?」
俺は前々から思っていた疑問を夜神に告げる。聞いただけでは部活の内容が分からん。
「ええっとねぇ…僕も詳しくは知らないんだけれど、筋肉を…育てる部活?だとかなんだとか。要するに筋トレかなあ?」
「な…なんじゃそりゃ」
それは部活なのか?俺は筋肉ムキムキの人が沢山いる図を想像する。なんか…嫌だな。
「その筋肉部がなんで兎を育てたんだろうな?」
「さあ…?兎がひょろっちかったからじゃない?それを見て『なんだ!その体は!けしからん!鍛えてやる!』みたいな?」
「ええ…」
兎からしたら理不尽極まりない出来事だっただろう。だから恨んで今も出てくるのか?
体育館は1階の端にある。理科室、職員室、校長室も1階にあるが、体育館とは反対側だ。時間がかかるな。
幾らか歩いた後、体育館の前に着いた。重いドアを開ける。すると中から熱気がムワッと出てきた。
「う熱っ!?」
何だこれ!?サウナなんて生ぬるい物じゃない!熱湯スチームかってくらい熱い!
これは暫くドアを開けて置かないと進め無さそうだ。汗の酸っぱい匂いが漂う。
やがて煙幕みたいになっていた水蒸気が晴れて人影が見えて来る。
そこには…なんか、ロ○ー君人形みたいな奴がいた。顔は○ビー君並みにファンシーなのだが、体は…異常な程にムキムキしていた。ポージングを決めてこちらを見ている。ちなみに顔に血はついていない。服はオーバーオールではなくふんどし一丁。兎の定義を寝底から覆している。
「さ、幸神くん…。あれ、何…!?」
「知らねぇよ…。俺に聞くな」
夜神もそれを見て目を見開いて驚いている。俺も同感だ。
「初めまして、でござる…。某、ぴょん吉と申す者…。以後、よろしくでござる…」
外見の割に名前が可愛い!ギャップ萌え?いやいやいや、無い。
「某、この学校の七不思議の一つ、『筋肉部の大兎』を司る者…。お主らは、一体…?」
「おっ俺は1ーBの幸神 万です!」
「ぼ、僕は1ーBの夜神 月宵、です…」
「ふむ、そうでござるか…。よろしくでござる…」
「「は、はい」」
声に威圧がこもり過ぎていて思わず自己紹介してしまった。本人…と言うか本兎は自覚は無いだろうが。
「お主ら、見た所…入部希望者でござるな…?」
「「いえ、違います」」
間違ってもこんなクトゥル○も真っ青な奴と一緒の部活になんて入りたくない。
俺達は踵を返して帰ろうとする。確認し終わったし、良いよな?
「ちょと待つでござる…」
しかし、肩をぐわしと掴まれて逃げられなくされてしまった。うわ、手が湿っている…。肩がビショビショだ。
「まあ、茶でも飲んでけ、でござる…」
そう言って出されたのは、プロテインだった。
茶…。うん。茶だね。ココアの素敵な香りがするけど、茶だね。うん…。
「茶だけではなんでござる…。某の話でも聞いていくでござる…」
「いえ、良いです」とは言えない空気だった。ぴょん吉からオーラが出ていて、逆らったら殺されそうだった。
「某、昔はこの学校の飼育小屋で飼われていた一羽のただの兎だった…でござる」
あ、これ長くなるやつだ。
「キャベツを食べられれば良い、特に望みも無い。そんな兎だったでござる…」
あ、茶柱だ。ラッキー。
「そんなある日、某は恋をしたでござる…。可愛らしいメスの兎だったでござる…」
お、今日は満月か。青白く光っている。
「某は求婚したでござる…。しかし、振られてしまったでござる…。その兎は、筋肉ムキムキの力強いオスが好きだったのでござる…」
zzz…。
「当時の某はひょろひょろのヘナチョコだったでござる…。だから、好きなあの子に振り向いてもらう為に、筋肉部に入部したでござる…」
ちーず…。もぐむしゃあ…。
「最初は兎という事もあって困惑されたでござる…。しかし、幾多の試練を乗り越えるに連れて、仲は深まっていったのでござる…」
かまんべーるもいいが、ぶるーちーずもすてがたい…。
「その内、そのメスなんてどうでも良くなり、筋肉第一となったでござる…。聞いてるでござるか…?」
「おぼあっ!ききき、キイテルキイテル!ダイジョウブ!」
あっぶね!危うく寝る所だった!本当に聞いていたから、こっち見ないで?
俺の祈りが通じたのか、今度は夜神の方を見る。そしてビッ!と夜神を指差した。
「そして…お主!某が見て来た中で1番素質があるでござる!筋肉部の名にかけて、是非とも入部して貰いたいでござる!」
「えっ、ぼ、僕ぅ?」
夜神に筋肉部の素質?ムキムキになった夜神を想像してみる…。うーん。変!
急にぴょん吉の手が伸びて夜神を掴もうとする。
「ぬ!?面妖な!」
「危ない!いきなり何すんの!?」
それをひらりとかわす夜神。手には何か持っている。八尺瓊勾玉ではないな。
「お主を捕まえて入部届けを書かせるでござる!その為に捕まえようとしたでござる!」
「…ふーん?」
あ、夜神から笑みが消えた。
「つまり君は、目的の為ならば、何をしたって良いと言うんだね?」
「極論ではござるが、そうでござる!この世は弱肉強食でござる!」
「そっかあ。なら、手荒な真似になっちゃうけれど…はっ!」
そう言って夜神は何かを投げる。その何かは…注射器だった。
「ぬっ!?」
ドス!ドス!と言う音がして二本の注射器がぴょん吉に刺さる。そして倒れこむぴょん吉。一体何が…?
「ああ、それはね、麻酔だよ。死なない程度には調節してあるから大丈夫だよ。肉体を持っていたから効いたね。良かった良かった」
「お、おう…」
なんで麻酔なんか持ってんだよとは思うが、言わぬが花だ。
「僕も目的の為ならば何をしたって良いって言うタイプだけれどね。でも、基本的に相手がそういうタイプじゃ無かったら暴力は働かないよ。でも、今回は同じタイプだった。合意の上での結果さ」
手をパンパン鳴らして埃を払う動作をする。夜神は敵に回しちゃいけない奴だと思った。




