エピローグ(2)
「やばい…。すごい吐きそう」
俺は今、麻衣の実家の玄関前へと来ている。
麻衣の親にはあらかじめ麻衣から連絡がそれとなくされている。
「しっかりしてよぉ。初めて会う人じゃないんだから」
そう、麻衣の両親とは俺が引っ越すまでに面識がある。それだけに、なんというか緊張する。
だが、ずっとここで立ち尽くしているわけにはいないのでインターホンに手を伸ばす。
『ピンポーン』
「はーい」
すると、玄関を開けて一人の女性が顔を出す。麻衣の母親だ。
「こんにちは明美さん」
「まぁ、大きくなたわねぇ。とりあえず上がって頂戴」
俺と麻衣は促されるまま中へと入る。そして、和室へと案内された。
そこには既に父親の大樹さんが胡坐をかいて座っていた。
「やぁやぁ、久しぶりじゃないか哲君」
「お久しぶりです」
その間に明美さんが大樹さんの横へと回る。
「あの。これ、つまらないものですが」
俺はそういって手土産を渡す。
「別にいいのに、ありがとねぇ」
明美さんは俺から箱を受け取る。
「えっと、本日はお忙しいところありがとうございます。娘s…」
と、そこまで俺がネットで調べてきた挨拶を述べていると大樹さんがそれをふさいできた。
「あぁ、麻衣と付き合ってるんだってな。まぁ、小さいころからよく遊んでいたからな、そんな気はして
いたぞ。うん、頼んだぞ哲君」
これにより、俺がせっかく入念に調べてきた情報がすべて無駄になってしまった。
「あ、はい。ありがとうございます」
俺はとにかくお礼を言う。だが、話はこれで終わりではない。むしろこれからが本番といっていいかもしれない。
俺は麻衣に視線で合図を送る。
それを確認した麻衣は部屋から出て外へ。
「あれ、麻衣はどこに行ったのかしら」
そう明美さんが口にするが、過ぎに麻衣が戻ってくる。そして、その後ろには先ほどまでとは違いもう一人。
「あら、麻衣。そちらの方は?」
「彼女は大友みのり。哲のもう一人の恋人よ」
「初めまして、大友みのりです。よろしくお願いします」
みのりが二人に対し挨拶をするが…。
「…」
「…」
固まったままの二人。そして、最初に大樹さん、お義父さんが動く。
ゆっくりと立ち上がり、俺の方へと黙ったまま歩いてくる。
次の瞬間、俺の目の前には拳があった。
「ぐっ」
俺は後ろの壁に叩き付けられ、そのまま床に倒れる。その俺に、大樹さんは馬乗りになり、胸ぐらを掴むと再び拳を振り下ろす。そしてもう一回、もう一回と殴り続けてくる。
「やめてお父さん」
それを麻衣が止めようとする。
「麻衣、お前は黙ってろ。こんな人でなしに育っていたとはな。やはりお前に麻衣はやらん」
そういいながら拳を振るい続ける。
俺はもうろうとする意識の中、何とか痛みに耐えて意識を保とうとする。
「やめてって、本当に、死んじゃうから」
なんとか止めようと麻衣が振り下ろそうとしている腕にしがみつく。
「離せ、麻衣」
しかし、麻衣は必死に押せている。だが…。
「こんな奴殺してやる」
「っ…」
その言葉を聞いた瞬間に、麻衣の雰囲気が変わった。
「…ないで」
「ん?」
「ふざけないでっ」
麻衣はそう叫んだ。
「簡単に人を殺すなんて言わないで。本当に人を殺すっていうことがわかってるの。どういうことかわ
かってるの」
その麻衣の変わりように、大樹さんの怒気がそがれる。
「いや、別に本当に殺すわけじゃなくてだな…」
大樹さんは誤解をとこうと弁明をする。だが、麻衣は意を決した顔をした。
麻衣の奴、まさか。
「お、い。やめ、ろ」
俺は声を絞り出す。だが…。
「私の方なの。本当は私の方が人でなしなの。私は、私は哲を、刺して殺しかけてしまったの」
「ど、どういう、ことだ、麻衣」
突然の麻衣の告白に、先ほどまでの怒気は一切なくなっていた。
「私は、このみのりちゃんと哲が仲良くなっていくのが許せなくて、殺そうとした。でも、その途中で止
めに入ってきた哲を刺してしまった。一時は危険な状態にもなった」
「そ、そんな…」
明美さんは信じられないという顔で麻衣の告白を聞いている。
「それでも、哲は私のことを許してくれた。受け止めてくれた。だから、私はどんなことがあろうと哲に
ついていく。何を言われようと哲に。ううん、哲たちとともに生きていく。たとえ、お父さんとお母さん
に認めてもらえなくても…」
麻衣のその宣言を聞き、大樹さんは俺の胸倉を離す。
俺は駆け寄ってきた麻衣に介抱されながら上体を起こす。
そして、大樹さんは馬乗りになっていた俺からおり、少し離れる。そして、膝をつき、頭を下げた。
「すまなかった」
「な、なんでお義父さんが謝るんですか」
俺は慌てて頭を上げるように促す。
「うちの娘がとんでもないことをしてしまったなんて。本当にすまない」
「いえ、それはもう過ぎたことですから。それに、二人も恋人を作った俺に非がありますから、もうやめ
てください」
そこまで言うと、大樹さんは頭を上げる。
「ありがとう。しかし、私はとても認めることはできない」
そこまで言い「ただ…」と続ける。
「麻衣が、納得しているならばもう何も言わん」
「お父さん…」
それを聞いた麻衣は瞳を濡らす。
「哲君…。娘を、頼んだよ」
「はい。必ず幸せにして見せます」
こうして、正式に麻衣は俺の恋人。いや、婚約者となった。
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。
PS ・ 誤字の指摘ありがとうございました。




