第五章 終末(4)
しばらくの間、私は目の前で起きたことに頭が追い付かず呆然と立ち尽くしていた。
「ガチャン」
麻衣が包丁を落としたことにより止まっていた時間が動き出した。
「きゅ、救急車を」
そう口にしながら麻衣を見るが完全に放心してしまい私の言葉は全く届いてないように思えた。
しかしことは一刻を争う。急いで机の上に置いてあった携帯から119番をする。
「はい、119番です」
「あ、あの友達がさされて、血が出て、えっと、あのとにかく救急車をお願いします」
私はなんとか焦りと混乱する気持ちをできるだけ抑えて状況を伝える。その後、場所をオペレーターに
伝え、救急車が到着するまでの間オペレーターの指示に従い応急処置と哲人さんの容体を伝えていく。
麻衣はというと未だ自分のしてしまったことに驚き呆然としていた…。
約五分後救急車が到着し、私も車に飛び乗った。麻衣も手を引っ張ると抵抗せずそのままついてきたの
で一緒に病院へ向かう。
「哲人さん…」
小さい声で名前を読んでみる。でも、いつものようにその声にこたえてくれる彼の顔は血の気が引いて
青くなり、口からは気道を確保するためのチューブが伸びている。
しばらくして、隣町の大きな病院へと到着した。
「十九歳男性、意識レベル三百、腹部への…」
流れるような動きで院内へと運ばれていく。私達もその後を追い、「救急」と書かれた扉をくぐる。
「お二人はここでお待ちください」
救命のナースの人が私たちを止め、手術室へと入っていく。
私は閉じた手術室ドアを見つめ、ただただ哲人さんの無事だけを祈った。
しばらく手術室近くの待機所のベンチに座り待っていると、とある男女が現れた。
その見た目はだいたい五十台前後というところだろうか。どちらも額に汗を浮かべ、走ってきたのか息が上がっていた。
するとちょうどナースの女性が部屋から出てきた。だが、私が席を立ちあがり詰め寄る寄りの早くナースの人に詰め寄る人がいた。先ほど訪れた二人組の男女だ。
「息子は、哲人は無事なんですか!」
そう声をあげたのは女性の方だった。
私はその内容から彼女らが哲人さんの両親であると判断し、直接話を聞きたい気持ちを抑え数歩後ろで耳を傾ける。
「お二人はご両親ですね」
「はい」
慌てて詰め寄った哲人さんの母親の肩を落ち着かせるように父親の方が引き戻しながら答える。
その返事を聞くと、ナースは神妙な面月になり告げる。
「実を言いますと、大変危険な状態です」
「そんな…」
それを聞いた母親が崩れ落ちそうになるのを抱きとめる。
「出血量がひどく、血液が足りません。データを確認いたしましたところ、ご子息様は特別な血液型、Rh型ということがわかりました。そして、今現在その型の輸血のストックがございません。そのために血液を提供していただきたいのですが」
そのことを聞いた私は一瞬血の気が引く思いだったが、すぐにあることを思い出し目の間前の哲人の両
親に目をやる。
(よかった…)
そう思った私だったが、二人の表情を見て不安が一気に増す。そして、次の瞬間その不安は絶望へと変わった。
「そんな…」
最初に、母親が声を上げる。そして、父親がナースに告げた。
「わ、私たちは血液を提供できません。実は…
――― 哲人は私たちの実の子供ではないのです ―――
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




