第四章 夏の訪れ(5)
「迷子になるなよ」
しかし、俺の声は届いていないのか返事もせず走り去ってしまう。
「まったく」
「まぁ、大丈夫でしょ。子供じゃないんだし」
すると、あいつらとは一緒に行かず隣にいたままだった麻衣が声をかけてくる。
「まだ子供のほうが信用があるな」
俺は心配な目で二人が走り去っていったほうに目をやる。
すると、隣にいた麻衣が俺の服をクイと引っ張ってきたので目線をそちらに移す。
「どうしたんだ」
「ねぇ、哲。二人もどっかいちゃったし、二人で回らない?」
そんなことを言ってきた。何を言ってるんだこいつは。
「逆に、お前は俺を一人で回らせる気だったのか」
「そ、そういうことじゃないわよ! ばか」
なんだよ、そういう意味じゃねぇのかよ。意味が分からん。
そんなことを思いながら一、二歩踏み出すと、麻衣がついてきてないことに気が付く。
「どうしたんだ」
そういいながら後ろを向くと、何やら顔を赤くした麻衣が左手を前に出していた。
「なんだ、この手」
「ほ、ほら。この人込みだからもしはぐれたりすると厄介だから、繋いでたほうがいいかなって」
そういって恥ずかしがりながら斜め下を向く。
そんなに恥ずかしいならつながなくてもいいだろうにと、そんなことを思ってしまう。
「べつに構わないけどよ」
俺は別に断る理由もないので普通に麻衣の手を取る。
「ほら、早くいくぞ」
そして、前に進もうと足を踏み出そうとしたのだが。
「わ、私哲とててててを繋いで、なななんんてしあ、しあw」
「麻衣! 何ぶつぶつ言ってんだお前。なんで動かねぇんだよ」
すると、俺の声にようやく気付いたのか、はっとなって顔を上げる。
「な、何でもないよ」
そういってパタパタと足音を鳴らし隣に来る。隣に舞が来たのを確認すると、俺はまた歩きだす。
「ねぇ、私はあれやりたい」
しばらく歩き、麻衣が射的の出店を指さす。
射的か。こういう場所に来ると、なんでこんなにお金とられなあかんねやって思っちゃうけど…。ま、久しぶりの祭りだしお金のことは忘れよう。
「じゃ、やるか」
俺たちは出店へと向かう。
「すみません、二人分お願いします」
「はいよ、六百円ね」
「はい」
俺は二人分のお金を支払い、コルクを受け取り半分を麻衣に渡す。
「ありがと…」
そういって少し変な間が空く。
「どうした」
「ん、何でもない」
「そうか」
「もう、こういうことをさりげなくするんだから」
「ん? なんか言ったか」
「な、何でもない」
「早くやるわよ。やるからには勝負よ。たくさん落としたほうが勝ちね。勝った方がジュース奢る。わ
かった」
そういうと、目の前に並んでいる的に狙いをつける。
まったく、そう簡単に当たるわけないのにそんなこと言いやがって。しょうがねぇな、俺が手本を見せてやるか。
と、思っていたのだが。
バン。バン。バン。
俺が銃に弾を詰め、構えようとすると信じられないことが起きていた。
「お、おい。麻衣、何やってんだ」
「何って、射的以外何があるのよ」
俺が見たのは麻衣が次々と的に命中させ、景品を落としている姿である。全部で七発中六発命中。五つ景品を落としていた。
「お前、なんでそんなにうまいの」
すると、麻衣はきょとんとした顔で…。
「うまいも何も、ただ当てるだけじゃない」
そう平然と述べてきた。
な、なんだと…。こいつ、平然と言いやがって。しかもそれを何の悪気もなく言ってくるからさらに腹が立つ。よし、こうなったら俺もやってやるぞぉぉぉ‼
「ふ、お前ができるなら俺だって」
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




