第四章 夏の訪れ(4)
「お前らふざけんなよ」
俺は前を歩く幼馴染と、後輩に怒りをぶつける。
「まぁまぁ、良いじゃんちょっとくらい減るもんじゃないし」
「減るわ。俺の財布の中身が!」
結局、あの後俺は全員分のお金を払うことになってしまった。
みのりはもちろんいいとして、なぜ俺がこいつら二人分のかいけんもしなければならないのだ。俺が断ろうとすると「女の子にお金払わせるつもり」「先輩最低です」とか大声で言うから、周りから変な目で見られちゃったじゃねぇか。周囲の人を味方につけるとは何て卑怯な。ぐぬぬ。
「すみません。私がいっぱい食べちゃったからですよね」
「いいんですよみのりは」
まぁ、確かにいっぱい食べてたけどな。カルボナーラに若鳥のグリル、ご飯、パンツェッタのピザ。二人分くらい食べてるよな。というか、まだ頼もうとしてたからさすがに止めたけど、本気のみのりの食欲がやばい。
「みのりってあんなに食べる人だったんだね…」
俺も驚いていたのだが、それ以上に二人はもっと驚いていた。
でも、あんなに食べても太らないみのりの体はどうなっているんだろうか。
「それで、この後はどうしますか」
そういったのは鈴木である。
「そうだな、まだまだ時間もあるけど」
「じゃ、ちょっとミオンに行かない?」
そんな提案を麻衣が急に言ってきた。
「今からか?」
俺が少し面倒くさかったので考えていると。
「いいじゃないですか。行きましょう先輩」
「私も行きたいです」
そうやってほかの二人も同調してきてしまったのでもう、俺の意見は絶対に通らないと確信したのだった。
「この服とかかわいいわね」
「こんなのもどうですか」
「いいわねそれ」
「先輩方、これを見てください」
「「おぉーー‼」」
見ての通りこのありさまである。店に着いてすぐ、女性陣は服屋へと直行しそれからずっとこのようにあれがいいだの、これがいいだのといろいろ楽しみながら話している。
ちなみに俺はというと、その間ずっと三人の後をついていくだけである。もう一時間くらいこうしてい
る。
はぁ、座りたい。
「俺、ちょっとトイレ行ってくるから」
「あ、はい」
俺はそういってこの状況から抜け出す。
まぁ、トイレに行きたいのは本当なのでトイレにはいくから別に悪くない。決してトイレを出たところにベンチがあるから座わっちゃうのも俺が悪いわけではない。
そんなことを考えながらトイレに向かっていた俺だったが、ある店の前で足を止めた。そして、少し考えた後、吸い込まれるようにその店へと入っていたのだった。
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「おーい、もうそろそろ帰らないと花火が始まっちまうぞ」
トイレから戻った俺は、まだショッピングを続けていた浴衣三人娘に声をかける。
「もうそんな時間」
俺の言ったことに反応し、麻衣は慌てて時計を見る。
時刻は午後の四時半。
「なんだ、まだこんな時間じゃない」
するとそんなことをぬかしやがった。
「まだ、じゃなくてもうだ」
「もう少しだけ、もう少しだけだから」と駄々をこねる麻衣を無理やり引っ張ていきなんとか店を出
た。残りの二人が駄々をこねなかったのは幸いといえよう。
まぁ、もしみのりがそんなことをしたら夕飯を減らすって言えば多分大丈夫だろうけど。
そんなこんなでもう一度祭り会場へ戻ってきた俺たちは、今度こそ会場へと向かうのであった。
「あ、私あれやりたい。みのりさんも行きましょう」
「あ、はい」
そういって金魚すくいの方へ走って行ってしまう鈴木とみのり。
だが、一瞬みのりが立ち止まりこちらを見る。
「どうかしたか」
「いえ、なんにも」
そういってまた走り出してしまった。そのみのりの目は何か煮え切らないような感じがしていたが、俺がそれに気づくことはなかった…。
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




