第三章 歪み(4)
「終わった…」
本日のすべての試験が終了し、俺はそんな言葉をこぼしていた。
「おいおい、どうしたよ。お前今日は二時間だろ?」
そう声をかけてきたのは一だった。
「いや、いろいろと終った感じだ」
実際のところ本当に微妙なところである。ちゃんと前々から勉強していたおかげで最悪の事態、可能性がゼロの絶望的な状況にならずに済んだことは幸いだが、合格ラインぎりぎりと言ったところである。
「そいつ、一週間日程勘違いしていたらしいわよ」
そう言いながらこちらに来たのは麻衣である。
「はぁ? 勘違いってお前大丈夫かよ」
一は、けなしてくる麻依とは逆に俺の状況を聞くとすぐに 心配をしてくれる。なんていいやつなんだ。
それにくらべて…。
「ふん、心配する必要なんてないわよ内海くん。全部コイツの自業自得なんだから。それに、私が朝秘密兵器を貸してあげたんだから心配いらないわ」
これである。
そういいながら麻衣は「どうよ」と言わんばかりに胸を張って腕を組む。
む、そんなに胸を張られると視線のやり場に困るからやめてほしい。
「秘密兵器って、お前が貸してくれたやつ次の日の教科のやつだったんだが」
「なっ!」
俺がそのことを伝えると、麻衣はさっきの態度とは打って変わって明らかに狼狽した態度を示す。
「そ、それはあれよ。わざとよ」
そういって再び平静を装う。
「はい?」
「人っていうのは希望を見たあとにそれが消えると普通よりもっと絶望に代わるの。だから違うのを渡し
たのよ」
な、なんだと。なんて最低な考えをもってやがるんだこいつ。てか、まだなんかぶつぶつ言ってるし。
「あぁ、もう。何してるのよ私。ただ間違えちゃっただけなのにこれじゃ…」
「麻衣、そんなぼそぼそ言われても聞こえないんだが」
「う、うっさいわね。ひとり言よ、ひとり言」
なんなんだよ、まったく。これだから女子っていうのはよく分からん。
「じゃ、とりああえずこれ返すよ」
もやもやする気持ちを抑えつつ、俺はカバンから今朝、麻衣が嫌がらせで渡してきたノートを麻衣の目
の前に出す。
すると、最初は普通に受け取ろうとした麻衣だったが何を思いついたのか急に顔をぱぁっと明るくしてこちらを向く。
ん? なんだ。
「ど、どうせまだ明日の勉強も終わってないんだろうからこれは貸したままにしといてあげる。感謝しなさい。ふっ、これで完璧だわ」
「お、おう。それならありがたく借りとく。けど、どういう風野吹き回しだよ。さっきは嫌がらせしたくせに今度はこんな」
「な、何でもないわよ。なんとなくよ、何となく」
そういいながら顔を赤くする麻衣。
本当に何なんだよ。まぁ、貸してくれるのはありがたいが。
「じゃ、今日もう哲終わりでしょ。帰るわよ」
そういい放つと先に教室を出て行ってしまう。俺は麻衣の考えていることがよくわからず、一のほうを見る。
「なぁ、一。あいつどうしたんだ」
俺がそんなことを聞くと、一は俺に呆れた目を向けながらこう言ってきた。
「お前、それ本気で言ってんならお前を殴りたいぞ」
そういうと、「お前も大概にしろよ」と言い残し一も教室を出ていく。
俺はもう訳が分からなくなってしまったので考えることを止めることにし、麻衣のことを追いかけるのであった。
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




