第三章 歪み(5)
翌朝、目を覚ますと体は昨日とは打って変わってとても軽くなっていた。右腕以外は。
「あ、おはようございます」
すると、俺が起きたことで起きてしまったのかみのりが目を覚ました。ここ二日はずっと眠りっぱなしなので今日もみのりより早く起きたようだ。
「体調はどうですか」
「もうすっかり良くなりましたよ。みのりのおかげです」
「それはよかったです。すぐにご飯作りますね」
そういうと、みのりは立ち上がって台所へと向かう。そして、俺は大学へと行く準備のために自分の部屋へと向かった。一瞬熱を測っとこうかと思ったが、もしあった場合、しかもそれがみのりにばれるとまた一日中寝させられるのでやめておくことにした。
ん? ちょっと待てよ。今日って何日だ。
その時、俺はある恐るべき重大なことに気が付いた。
俺はあることを願いながら恐る恐る自分の部屋の筑への上にあるデジタル時計に目をやり、日付を確認する。
「七月三十日」
「…」
「‥‥‥‥‥…」
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
今、俺に起こっている状況を説明しよう。
俺は今日を七月二十三日だと思っていた。そして今日は七月三十日。テスト開始日…。七月三十日。
「おわった…」
てか、もう驚きすぎて逆に落ち着いてしまった。
俺が衝撃の事実に気付いてしまい、顔面蒼白となっていると後ろから階段をものすごい勢いで駆け上る音がし、バァァァァァンと勢いよく部屋のドアが開く。
「哲人さん! どうしましたか」
その開いたドアからは、走ってきたせいか息をぜぇぜぇ切らしながらこちらを心配そうに見るみのりの姿があった。
「あぁ、大丈夫ですよ…」
「そ、そうですか」
「はい。もう、どうしようもないんで。あ、あははは…」
俺はそういうと再び気分が深海まで落ちるのであった。
「ててて哲人さぁぁぁん」
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あの後、なんとか気持ちを奮い立たしてご飯を食べ、大学へと向かった。
みのりには余程俺が深刻な顔をしていたのかとても心配されて「大学までお送りします」なんて言われたけど、さすがにそれはまずいし俺の中ではもう区切りが一応ついていたので丁重にお断りした。
「おはよう、哲」
大学の駐輪場に自転車を止めて歩き出そうとしたとき、後ろから麻衣の声がしたので後ろを振り返る。
「おはよう…」
「て、哲っ! どうしたのその顔」
すると、俺の顔を見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ、ちょっとテストの日程を勘違いしてて、ただ勉強が全部終わってないだけだよ」
「あんたバカじゃないの? 何やってんのよ。本当にバカね」
「まぁ、一応前々から備えて勉強はしてたから何とかなるかなぁ、なんて…」
そういうと麻衣はあきれたようにため息をつき、憐みの目を向けてきた。
「自業自得ね。まぁ、せいぜい頑張りなさいよ」
そういうと俺を追い越して前を歩いていく。と思ったが、二散歩いったところで立ち止まりカバンの中
をまさぐり始めた。
何をしているんだろうと眺めていると、カバンから取り出したものを俺の前に突き出してきた。
「これ、今日のテストで出そうなところまとめたやつ」
「えっ」
いきなりのことに俺は困惑した態度をとる。
「は、早く受け取りなさいよね。別にあんたがかわいそうだからとかで渡すんじゃないから。私はもう全部覚え終わってたから荷物軽くしたくて渡すだけなんだから」
何なんだそのトンデモ理論は。てか、荷物だと思っているなら家において来い。
「あぁ、ありがと。ありがたく使わせてもらうよ」
「そ、そう。じゃあ、またあとでね」
そういうとすぐに駆けて行ってしまった。
麻衣が読解ってしまったので俺は貸してもらったものを確認しようと手元に目をやる。
「…。これ明日の試験の奴じゃねぇか!」
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




