第三章 歪み(4)
再び目を覚ますと、またもや頭には柔らかい感触を感じた。そして今回はすぐに理解することができた。
「みのり」
そう、膝枕であると。
「目が覚めましたか、哲人さん」
デジャブ。
そんなことを思いながら周りを見渡し、鈴木に目をやる。
「す、すみませんでした!」
そういって頭を下げる鈴木。
「いいよ、大して気にしてねぇから。それに、起きて目の前に男の顔があったら驚くのはしょうがねぇからな」
そういいながら頭をみのりの膝からおこす。
「そういえば親には連絡したのか」
「はい、普通にもう遅いから先輩の家に泊まりますって言ったら普通にオーケーされました」
「え、マジで」
「はい」
そんなに俺ってこいつの家から信用されているの? てか、こいつの親はいいのか本当に、不用心すぎるだろ。
「鈴木さんって、言っていたことと行動が真逆ですよね」
「な、それは大友さんが…」
そういいながら頭を上げて顔を赤くする鈴木。
「こういうことはいけないんじゃなかったんですか~?」
そして、そんな鈴木に対しさらにあおるようなことを言うみのり。
てか、何の話をしているんだ、こいつらは。
「というか、二人っていつの間にそんな仲良くなったんだ。昨日はほとんど話していなかっただろう」
「そうですね、ただお互いのことについて話しただけですよ」
うーん。人ってこんなに早く仲良くなれるものなのだろうか。麻衣の時もそうだがみのりってコミュ力高いんだな。
こんなにコミュ力があって容姿もいいんだからいじめられていたなんてとてもじゃないけど思えないな。
そんなことを思いながら、今も鈴木と戯れているみのりに視線をやる。すると、みのりとみのりと目が合った。その瞬間みのりに異変が起こる。
みのりは急に眼を見開いて、まるでずっと会えていなかった人に会えたかのような反応を示す。そして、震える声でこう告げた。
「お、にいちゃん…」
それだけ言うとみのりは意識を失って倒れてしまう。
「みのり!」
「大友さん!」
俺と鈴木は急いでみのりに駆け寄る。そして、俺はみのりの上半身を抱き上げて声をかける。
「みのり、しっかりしろ。みのり。みのり!」
すると、みのりは朝普通に起きたかのように目を覚ます。
「哲人さん…。あれ、私なんで」
目を覚ましたみのりは状況がいまいちつかめていないようだった。
「急に倒れたんですよ。覚えていないんですか」
「はい。でも、なんか急にぼぉーとして、目の前が暗くなったのは覚えてます」
「そうですか」
みのりの意識がしっかりしてきたのを確認すると、俺はみのりの状態を起こさせて座らせる。
「あの、本当に大丈夫ですか」
すると、すぐ隣で心配そうに見ていた鈴木が声をかける。
「はい、大丈夫ですよ。でも、なんででしょうか。貧血ですかね」
そう推察するみのりに俺は気になっていた一つの疑問を問いかける。
「みのり。倒れる前に何か言っていた記憶はありますか」
そう、あの倒れる前に確かに言っていた「お兄ちゃん」という言葉。あれはいったい。
「いいえ、何か言っていたのですか」
「いえ、一応の確認のために聞いただけです。ちなみに兄はいますか」
「どうしたんですかいきなり。私はずっと一人っ子ですよ」
「そうですか」
この様子だと本当に倒れる直前のことは覚えていないようだった。なので、これ以上何かあっても困るのであのことは黙っていることにした。そのことは後でしっかりと鈴木にも伝えた。
その後、先ほど倒れたのでみのりを寝かせていようとしたのだが、俺の熱を測ったところ今だに三十八度もあったので、直ちに布団に俺が寝かしつけられてしまった。
二人に移していないといいのだが。
鈴木はというと、俺に熱がまだあると聞くと「これ以上いたら先輩の風が長引きそうなので早めに失礼
します」と言って家へと帰っていった。
絶対にうつるのが嫌で帰りやがったなあいつ。
そして、昼と夜にみのりがご飯を持ってきてくれたのでそれを食べ、薬を飲みまた目を閉じ眠りに着いたのだった。
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。




