第二章 彼女がいる日常(5)
「「「いただきまーす」」」
挨拶をすると俺は早速みのりの作ってくれたかに玉に手を出した。と思ったのだが、俺の箸は空を切った。
「おい、何するんだよ」
なぜなら、俺が箸を伸ばそうとした瞬間に、麻衣の奴がお皿をうごかしたからである。
「これを食べなさい」
そういって麻衣が俺の目の前に肉じゃがを押し出してきた。
「なんでだよ」
「べ、別にいいでしょ。なんとなくよ」
そんなにこいつは俺に、あまりものを食わせたいのだろうか。
俺はそんなことを思いつつ、このまま逆らっててもらちが明かないのは目に見えているので押し出された肉じゃがのさらに橋を伸ばした。
あまりこいつの料理には申し訳ないけど手を出したくなかったんだが。子供のころのトラウマがあるんだよな…。
「…」
「どう?」
「うまい」
「それだけ?」
「いや、うまいものはうまいとしか言いようがないだろ。でも、ジャガイモにもちゃんと味がしみ込んで
てすごい。てか、本当にこれお前が作ったの?」
「あ、当たり前でしょ! バカ」
「いやだって、お前が子供の時に作ったクッキーのことを思ったらそりゃなー」
「あれは…。ちょっと失敗しただけだったのよ」
そう、実は俺がこいつの料理を食べるのは初めてじゃないのである。あれはまだ俺が昔の家、つまり麻衣の実家の近くに住んでいたころの話である。
もう、なぜそれをしようとしたのか覚えてはいないが、その日俺と麻衣は一緒にクッキーを作ることになったのだ。
「哲君! できたよーーー」
「おぉ、見た目はなかなかだな」
「えへへ。はい、あーん」
俺は差し出されたクッキーを口に含んだ。
「哲君甘いのが好きだから砂糖をたっくさんいれたんだ~」
次の瞬間、強烈な苦みと塩味、その他に何かの味がしたのだがそこで俺の意識は途絶えた。
あれ以来、俺は麻衣の作る料理は決して口にすることはなかったのだ。
「ちょっとね…」
「もう、いいじゃない昔の話は」
「それもそうだな」
そういって、気のせいじゃないのを確かめるためにもう一回に肉じゃがに手を伸ばした。
そう、決して食べたいからではない。
しかし、それはまたもや阻止されることとなる。
「じゃあじゃあ、次は私のをどうぞ」
そういってかに玉を俺の口に押し込んできたのはご存知みのりちゃんである。
「んぐっ」
俺は一瞬それに驚いたが、料理を味わうことにした。
「うん、やっぱりみのりの料理は最高だな」
「うふふ、ありがとうございます」♪
俺の言葉を聞くと、みのりはうれしそうにほほ笑んだ。
「っ!」
そんな不意の笑顔にドキッとしてしまう俺がいた。
まったく、人生何が起こるかわからないな。
「ん? どうかなさいましたか」
「いや、なんでもないよ」
「…」
そういって俺はごまかすように食事を再開した。そのような行動を何とも言えない感じで見る麻衣の視線に今の俺は気づくことはなかった。
初めての作品なので読んでいただけるだけで感謝です。
それと、しばらくは二回投稿をやってみようと思います。よろしくお願いします。




