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第3話 一休みと魔法について

※※※※※※※※※※

下記注意書きに不安を覚える方は、お戻りになられる事をご提案させて頂きます。

・一人称。

・無駄な長文。

・喫煙描写

・世界観説明。

※※※※※※※※※※


※見切り発車の投稿の為、先に進めることを優先しております。

その為誤字脱字や文法の間違いなどがある場合がございますが、コメントなどでお知らせいただけると幸いです。

 到着したキャンプ地で、まず行ったのは各種設営だった。

 椅子は前回と同じく尻を包むようなお気に入りのもの。俺は自分の分を組み立て、品川には彼女のリュックに入れておいた同タイプの物を自分で組み立てさせた。

 当初、案の定悪戦苦闘していたが、俺の説明を受けて組み立てた椅子に座ると、心なしか嬉しそうにしていた。

 初心者ながら俺が汲み取ったキャンプの醍醐味と言う奴は、生活圏から離れた自然の中で手間を楽しむことだと思っている。

 この娘に必要なものは沢山あるが、その中の一つがこのような未知の体験だと思うから、これからも色々なことを経験させてやりたい。


 湖畔を右手に置きつつ椅子を設置し、正面には天板を丸めて収容できるタイプのテーブルを置き、その向かいには品川の椅子を置いた。

 テーブルセットと湖の間には、ステンレスで作られた逆ピラミッド型の器のような器具。

 これは、地面の上で直接火を起こさないようにする為の焚き火台で、地中の生物に配慮するためらしい。その他便利な機能もついており、器の内部で燃える薪の上に網を乗せて調理に使うことができる。

 以前忘れていたテント張りも各自で行ってある。とはいえ、テント張りは全てが未経験の品川には流石に荷が重かったらしく、俺も手伝ったが。

 日中はまだ暖かいが夜は流石に冷えるのでテント内にはインナーマットも敷いてあり、更に品川用に用意した寝袋は、マイナス三十度以上の土地でも耐えられるという謳い文句の物。これで就寝中に凍えさせることは無いはずだ。

 ――俺のテントに用意した寝袋は、三千円に届かないいわゆるお得品だが、品川の体調には替えられないので良しとする。


 しばし椅子に座ってのんびりしていると、焚き火台に置いていたポットの口から湯気が吹き出し始めた。

 本格的に次の作業に入る前に、温かい物が飲みたかったので沸かしておいたのだ。

 

「品川ー? お湯が沸いたぞー!」


 大声で品川を呼ぶ。

 品川は森の際と湖畔の間から姿を表した。


「何してたんだ?」

「お魚……見てました。初めて見る、から……」


 感情のあまり籠もらない声色だが、ある程度人となりを知っているので、彼女が結構楽しんでいるのがわかる。


「そっか。水が綺麗だからよく見えるよな。でも魚が居るのは遠かったんじゃないのか?」

「木の下に生えていた草、撒きました。……ご飯と思って来てくれた、のに、悪いことしちゃいました……」

「じゃあ、今度は餌付けしてみるのも良いかもしれないな。品川も魚が近くで見れて、魚も餌が食べられて両得だ」

 

 提案に、一瞬目を輝かせた品川だったが、すぐに眉根を寄せる。嫌そうな表情だった。

 

「虫……苦手で……済みません」

「ははっ、魚の餌にも種類があってな。練り餌っていうのが有るんだ」


 簡単な説明をしてやると、品川は安心したように表情を緩めた。それでも遠慮する素振りを見せたが、多少強引に買うことを伝える。そこまでしてようやく品川は遠慮を引っ込めた。

 次回のキャンプに練り餌を持ってくるのを忘れないようにしないと。念の為、釣り竿も買っておこうか。


「さて。俺はコーヒーにするけど、品川は何が飲みたい? コーヒーが駄目なら紅茶もあるぞ?」

「あ……えっと……。――はい。同じのでお願いします……」


 コーヒーを選んだことに少し驚きを覚えながら、準備を整える。

 先に品川の分を淹れて、彼女の前に置いた。


「金属だから取っ手以外を持つと熱いんで、気を付けなさい」


 注意を促し、続いて自分の分の用意をしつつ、品川を盗み見る。

 品川は言われた通りに取っ手だけを持ち、何度もコーヒーに息を吹いてからようやくカップに口を付けた。

 僅かに聞こえた啜る音とともに、拒否感を示すように顔をしかめる。


「どうだ? こういう自然の中で飲むコーヒーもなかなかいいもんだろ?」

「はい……」

「少し肌寒くなってくると温かい飲み物が嬉しくてなあ」

「はい……」

「コーヒーはブラックが一番好きなんだ」

「はい……」

「苦いの苦手だろ?」

「はい……あっ⁉」


 流れで返事をした品川が泣きそうな表情を作った。

 その反応に俺は苦笑を禁じ得ない。


「品川ー? 前にも言ったが、そこまで自分を殺さなくていいんだ。嫌なものは嫌。そりゃ当然だ。お前は無理をする必要なんてないし、もっと我儘言っていいんだぞ? 特に俺にはさ」

「すみ、ません……」

「まあ、まだ時間も短いからな。追々慣れていってくれれば良い」

 

 引っ込み思案では片付けられない消極さではあるが、先程の魚の鑑賞の話もある。好きなものを自分の中に持っているのが分かっているので、時間と俺の努力でなんとかなると信じておこう。


「品川。甘い方が良いか?」

「あの……」

「品川の好みを教えてくれ。甘いのが好きか?」

「……はい」

「聞こえないぞ〜? 甘いコーヒーが飲みたいか!」

「はい」

「もう一回! 砂糖たっぷりのミルクコーヒーが飲みたいのか!?」

「はいっ」

「まだまだ! 砂糖でドロドロの歯が溶けるようなコーヒーを飲みたいのか!!」

「あの……それはちょっと……」

「ちなみに俺もそれは飲みたくない! メタボが怖いからな!」

 

 引っ掛けと、堂々とはしごを外した言葉に、品川が少しだけ吹き出した。

 してやった感に満足すると、荷物から何本ものスティックシュガーと粉ミルクの入った透明の袋を取り出して、品川に渡した。


「遠慮せずに、好きに使っていいぞ」

「ありがとうございます」


 礼を口にした品川が、味を調整しながら砂糖とミルクを入れていく。再びコーヒーに口を付けた品川は嬉しそうに目尻を下げた。

 そんな品川の表情を尻目に、淹れ終わったコーヒーを一口。


「あー、悪い。タバコ吸っても平気か?」


 ブラックコーヒーを飲むと、無性にタバコを体が欲する。値上げをされようと、周囲に蔑まれようと、これだけは辞められない。ましてや、大自然でのキャンプに来て、コーヒーを飲んでいる今の状況で、タバコを吸わないなんて片手落ちもいいところだ。

 品川がマグカップに口を付けつつ頷いたのをみて、心の中で安堵する。

 断られたら次策として用意したミルクコーヒーで我慢するつもりだったが、正直助かった。四十歳手前の男には、過度な糖分危険なのだ。

 とは言え、未成年への煙害は考慮に入れる必要がある。

 脳内で適当な方法を検索すると、ちょうどいいのが見つかった。

 そのまま念じると、大気が緩やかに螺旋を描きながら立ち上り始める。

 ズボンのポケットから取り出した箱からタバコを一本取り出して、それを咥えてから()()()()()()()()端に近付けた。

 チリチリとタバコ葉が燃える音を楽しみながら、口内に煙を溜めて、口を離して再び息を吸い込む。

 鈍い痛みにも似た刺激に心地良さを得ながら、上に向かってゆっくりと息を吐き出すと、タバコの火種から立ち昇る青の混じった煙と、吐き出された白煙が混じり合い、大きく旋回しながら昇っていった。


「あの……それって」

 

 コーヒーを飲みながら俺を見ていた品川が、カップをテーブルに置いた。


「ああ、いわゆる魔法って奴だな」

「やっぱり……。森に入る前にも魔法袋(マジックバッグ)使ってましたよね?」


 納得と行った感じに頷く品川に、少し驚いた。

 

「ん? 品川は魔法の事知ってるのか?」

「あ、いえ。青少年を対象にしたお話の中によく出てくるんです。図書室にも結構種類があって……」

「なるほど、人の想像って凄いな。ちなみにこれは『便利な収納の方法』って言うらしいぞ」

「なんか……、魔法って言う感じのしない名前ですね」

 

 確かに言うとおりだ。たまたまやってて付け流していたアニメなんかでは、解りやすく「ファイヤーアロー」だの、「ウインドカッター」とか言っていた気がする。


「そもそも、魔法自体地球には無いからなぁ」

「……でも、この世界には有るんですよね?」

「確かにそうなんだが、俺の場合使い方が特殊なんだ」

 

 魔力を扱う方法を引き継いではいるが、その方法に慣れ親しんでいるわけではない。

 自動的に魔力を汲み上げて世界に広げるのは自動でも、能動的に使うには面倒な手順が必要だった。

 それは例えるなら、昔のコンピューターを扱うのに似ている。まっさらな状態から大まかな分類を思い浮かべて、それがヒットしたら更に中分類、小分類とふるいに掛けていき、ようやく実際に実行できる方法――魔法が見つかるといった仕組みだ。

 ただ、助かる点として、別の項目からでも求めていた方法が見つかるようになっている事だろうか。


「さっき使った魔法を例に取ると、煙をどうにかするために、『風』を取っ掛かりに調べることもできれば、『隠す』って項目からも探せるみたいだな。元は『風を使って匂いが広がらないようにする方法』らしい」

「……確かに、手間がかかりそう、です。――でも、さっき火が指先から出てましたけど、あれは早かった、ですよね……?」

「ああ。方法が有るのをきちんと知っていて、使い方を覚えておけば、大幅に時間の短縮になるんだ。火を付けたのは『空気を燃やして小さな火を灯す方法』って言うんだが、覚えやすいように『ライター』って名付けたら、次回以降はライターって念じるだけで火が付くようになったんだよ」

 

 これはただ名付ければ良いという簡単なものではなく、目的の現象が発現するまでの手順をきちんと理解しておかないと、うまく行かない。

 ライターであれば、

1.可燃性の気体が指先から吹き出す。

2.小さな火花が一瞬生まれる。

3.気体が引火する。

 という状況を流れで覚えることでようやく一まとまりの方法として発現する。

 この手間があるせいで、便利な収納の方法――品川が言うところの魔法袋(マジックバッグ)がまだ短縮出来ていないのだ。


「あの……魔王の事をお聞きした時に、『魔力を世界全体に広げる』って言ってましたけど……」

「うん。今も実際に広げてるし、『魔力の流れと濃さを見る方法』で見れるよ。邪魔だから消してるけど」


 視線を忙しなく動かしながら、品川がこちらを見やる。


「……と言う事は、魔力はこの世界なら、どこにでも有って。それが……魔法を使うためのエネルギーで……」

「正解だ。魔力があれば魔法は使えるよ」


 言いづらそうに言葉を紡ぐ品川。

 これはひょっとして、あれだろうか。

 品川を正面から見据えながら、次の言葉を待つ。

 意を決したのか、俯いていた顔を勢いよく上げた品川の目には、これまでのどこか諦めが混じった色の中に、僅かな期待が込められていた。

 

「わっ、私にも、使える、んで、しょうかっ?」


 つっかえながら言い切った品川に、大きく頷いてみせた。


「もちろん使えるようになる。けど――」


 否定に繋がる接続詞に、品川が不安そうに眉を歪める。

 そんな彼女に苦笑を浮かべながら、口を開いた。


「さっき言ったように、魔力に対しての親和性が品川には無い。だから、凄い魔法は使えないが、それでも良いか?」

「はいっ」


 今日一番の、いや、俺が知る品川の中で一番大きな声だった。

 

「ちなみに、周囲に漂う魔力を使うのが『魔術』。親和性の高い生物が体内に取り込んだ魔力を使うのが『魔法』で、両方を組み合わせたのを『魔導』って言うらしい。だから、品川は「魔術使い」って事になるな」

「魔術使い……。はい、よろしくお願いします」

 

 嬉しそうにはにかむ品川が年相応に見えて、こちらまで嬉しくなった。

 

 その時だった。

 子犬の鳴き声のような音が風に混ざって薄く響く。

 嬉しそうだった品川の顔が真っ赤に染まり、その顔を隠すように俯かせた。

 それに呼応するように今度は俺の腹の虫がなる。俺のは低い大型犬のような音だった。


「一区切り付いたことだし、飯にするか!」


 居たたまれない空気を払拭するように、大きな声を出す。

 耳まで真っ赤にした品川は、小さく首を縦に動かした。

お読みいただきありがとうございました!

簡単な描写では不安で何もかも投げ捨てたくなる病に蝕まれておりますので、どうしても描写が長くなります。

逆に簡素にすると心情面だけしか描写しなくなるという両極端な仕様が私でして。

心地よくご覧頂ける文章を模索したいと思います。


次回更新は近日中に。早く二人の環境を説明し終えて、異世界でのんびりしたいものです。頑張ります!

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