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第2話 事の起こり

※※※※※※※※※※

下記注意書きに不安を覚える方は、お戻りになられる事をご提案させて頂きます。

・一人称。

・無駄な長文。

・世界観説明。

※※※※※※※※※※


※見切り発車の投稿の為、先に進めることを優先しております。

その為誤字脱字や文法の間違いなどがある場合がございますが、コメントなどでお知らせいただけると幸いです。

「まずはしっかり準備しないとな」

 

 森の入り口の手前、目の前に立つ彼女に時間をもらい、苔むした切り株に座った俺は、持っていた荷物を一度地面に置いた。

 まずは、()()()()()持ってきたボストンバッグと、リュックの中身を広げていく。

 彼女は所在無さげに俺の作業を見つめていた。

 こっちに来て、直ぐに進みたいのはやまやまだが、準備はしっかりしないといろいろ面倒なことになる。

 やがて、持ってきたバッグの中身をすべて出し終えると、次の作業として、頭の中で()()()()()を紐解いていく。


「よっ……と」

 

 目的のものが見つかり、そのまま使用する。そして、右手を宙へ差し込むように前へ伸ばした。

 その先にはちょうど彼女がいて、俺の行動に対して両手で頭を守る体勢を取った。

 しかし、俺の腕は彼女の予想に反して、少し手前で消えてしまった。俺の部屋からこちらに来る時のように、境界から先に押し入れた腕が無くなっているように見えるだろう。

 そのまま肩近くまで突っ込んで、目的の物を掴み取ると、それを引き抜いた。

 出てきたのは、古びた皮で出てきたリュックやカバンだ。現代の縫製ではなく、もっと雑で、形も簡素な物。

 先程驚かせてしまった事を謝ったあとに、広げていた道具たちをそれぞれ大小のリュックに分けて入れていく。


「よし、出来た」


 道具入れ終えたリュックが二つ。

 その他には、中身の入っていない肩掛けカバンと、俺用のナタがある。

 どれも使用感の強い、現代人から見ると技術的に古いものばかりだ。


「品川、これ背負えるか?」


 ニつのリュックの内、小さい方を持ち上げて彼女――品川奏(しながわかえで)に差し出す。

 品川は、リュックを素直に受け取ったものの、その表情には疑問が浮かんでいた。

 それはそうだろう。常識に考えてありえないことばかりが起こっている。


「聞きたいことがいっぱいあると思う。でもまずは目的地に着きたいから、質問は向かいがてら答えるよ」

 

 言って、立ち上がる。

 と、一つ忘れていたことを思い出した。

 

「すまん、足軽く上げてくれるか?」

 

 俺の言葉に、品川が素直に応じる。

 上げられた品川の足。正確には履いている新品のトレッキングシューズに、肩掛けカバンに入れておいた麻布を巻き付けていく。

 包帯のように丸めてあった横幅十センチ程の布で靴を覆い隠し、もう片足も同じように巻くと、今度は自分の靴にも巻いた。

 作業が終わり、今度こそ切り株から立ち上がる。


「よし、お待たせ。森は薄暗いけど、俺がついてるから安心して欲しい」

 

 頼りない見た目を自負している頼りない俺の言葉ではあるが、見下ろす俺の目をしっかり見てからゆっくりと頷いた。

 

 

 森の中を進む俺と品川。

 俺が先頭を切って、伸びる枝をナタで切り払って進む。

 この前に来たときに一度邪魔な枝なんかは切っておいたんだが、どうもこっちの世界の植物は、成長速度も早いらしい。

 

「大丈夫、ですか?」

「ん? ああ、余裕余裕」


 努めて明るく返事を返す。実際余裕ではあるし、少しでも品川の不安を消してやりたかったからだ。

 

「あの、――良かったら、話の続き、聞いても良いでしょうか……」


 おっかなびっくりといった品川の問いに、まず何から話そうかと思索する。

 まず、大前提からいこう。

 

「俺、この世界――トルアラの魔王なんだ」


 少し開けた空間に出たあと、背中越しに品川を視界に収めて口を開く。

 品川はそんな俺の言葉をしっかりと受け止めたようだったが、理解には至らなかったらしい。

 頭の中で順序立てて、どうすれば理解してもらえるかを考える。

 

「そうだなあ、確か二年ほど前になるっけ――」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その日は、一日休みに使える日だった。

 外はあいにくの雨で、普段通勤にも使用しているロードバイクでの散策にも出る気が起きず、代わりに整備をしようと、契約しているレンタルコンテナに足を運んだ。

 安価ながら自宅から近く、普段使わない荷物なんかも置けるため、結構重宝している。

 コンテナ内に入って濡れた体を拭くと、押してきたバイクを逆さにした。

 まずはタイヤの調子の確認をしていく。

 前輪を終え、後輪の調子を見ているときだ。

 自前の大光量ライトで照らすコンテナ内が、妙に明るいことに気がついた。

 集中すると周りのことが疎かになる俺ではあるが、そんな俺でも気がつくほどに明るくなっていた。

 それはまるで、遮光カーテンを引いた日中で、突然カーテンを開いたときのような、急激な変化だった。

 

「いよっす!」

 

 そんな、底抜けに明るい脳天気な呼びかけが背中にかけられ、反射的に振り向いた。

 目の前には目深にフードを被った、表情はおろか、顔立ちもはっきりしない一人の男。そして周囲には見慣れたはずの荷物などが消え去り、ただ白一色の空間があった。

 

「なんっ、――何だこれっ!?」

 

 真っ白い空間は影一つなく、ともすれば浮いているようにも感じた。下を向くが、影一つもない。

 

駿天号(しゅんてんごう)っは!?」

 

 唯一の趣味であり、ここまで金も時間も掛けてきた愛用のロードバイクである駿天号の所在を確認する。


「おーい。この状況の確認よりも先に、別のことが心配って、肝座ってんなぁ」

「黙れ。一生乗り続けるって決めてんだよ。無くなってんのはあんたの仕業か?」


 体前にあったはずの駿天号は影も形も見当たらず、睨めつけるように背中の男に振り向いた。

 

「くくっ。流石は異世界の俺」


 肩を揺らして笑う男。

 よく見れば、その姿は普通ではなかった。

 正確にはその服装。相変わらず顔は影が落ちて判別できないが、男が来ているのは深い黒のローブ。時代錯誤の秘密結社のような、現代社会に似つかわしくない格好だった。

 ん? まてよ。なんか変な事を言ってなかったか?

 

「ちょっと頼みがあんだけどさー、マジヤバなんで助けてくんない?」

「気安いなおい! じゃなくて、アンタ、今なんて……」

 

 状況と見た目に全くそぐわない男の軽口に、思わずツッコミを入れる。

 

「だーかーらー、かなり切羽詰まってんのよ、俺ってば」

「そうじゃなくて、異世界とかなんとか……。あと、二人称変だったろ」

「あーあー、そういう事ね! おーけーおーけー時間ないのはマジなんで、チャチャッと理解してもらうわ」


 何に理解を示したのかよくわからないが、何度か大きく首を縦に降ると、男はこちらに近づいて、俺の額を指で突いた。

 明転する視界。

 触れられた額から流れ込むナニカ。

 突然起こった変化に気持ちが悪くなり、思わず口を塞ぐように手を当てた。


「おっけ? 話聞いてくれる?」

「あ、ああ。わかったよ。()()()()()

 

 込み上げる吐き気を抑えながら、涙で滲んだ視界で男を捉える。

 男は、親指だけを立てた拳、サムズアップをこちらに突き出していた。

 

 

 男が行ったのは、知識を強制的に流し込む()()で、そのおかげでいろいろなことが理解できた。

 トルアラという異世界がある事。

 『同位体』と男が呼んでいる、魂の形とやらが全く一緒の存在が俺であること。

 そして……。

 

「改めて自己紹介。トルアラの魔王でっす!」

「……事実だってわかってるけど、そのテンションはどうにかならないか?」

「えー、だってー。これが俺だし、俺は俺だし、環境が違えば性格も変わるっしょ!」


 同位体という、魂の形が同じ存在であろうと、性格は環境によって作られる。道理と言えば道理だった。


「それで? トルアラって異世界も、俺とお前が同じ存在ってことも解った。けど、一般人の俺にどうしろと」

「トルアラがね、滅びそうなんだ。主に俺のせいで♪」

 

 あっけらかんと言う魔王。

 要約するとこうだ。

 トルアラを救う為を救う唯一の方法を組み上げた先代魔王と、それを引き継いで完成させた今代の魔王である異世界の俺。

 遂に救世の法を完成させた目の前の男は、役目が終わった事に浮かれて、自分を消滅させようとした。

 しかし、魔王が不在となっても、トルアラのすべての生命が生き永らえさせるためにはまだ時間がかかる事をすっかり忘れていたのだ。

 

「……馬鹿だろ、お前」

「あー! バカって言ったほうがもっと馬鹿なんですぅー」

「うっさい、子供かっ! ――と言うか、魔王なんだろ? 魔法でなんとかならないのか?」

 

 イメージだが、魔王ならば何でもできそうな気がする。自分を消滅させようとしたと言うが、それを無かったことに出来ないのか。

 そんな問いに、魔王は「無理」とはっきり答えた。


「まぁまぁ、これを見ておくんなまし」


 言って、魔王が指を鳴らす。

 脳裏に一つの情景が浮かんだ。

 そこは古びた石造りの一室で、生活感のある家具の上には得体のしれない肉片が浮かぶ瓶や沢山の本などが積み上がっていた。

 その部屋の中央。やはり石で出来た床に描かれた魔法陣の中に魔王と同じローブを着た、俺の姿が有った。

 髪型や、その浮かべている表情――何故か恍惚とした笑みだった――は俺自身と結びつかないが、見た瞬間にこれは俺で、同時に目の前の男だと理解できる。

 その俺こと魔王は消えかかっていた。

 物理的に足元は既に無く、みぞおち辺りまでが青白く粒子に変質して周囲に掻き消えようとしていた。


「これが俺! 実際のリアルタイムよん!」

「……たしかに無理だな」


 魔王は、消えかかっているその際になって、まだ魔王が存在していないと、これまでの全てが無駄になることに気づいたという。

 慌てた魔王は魔法によって時間を止め、瞬時に魔王としての全てを継承できる存在である『同位体』を探し求め、俺にたどり着いたのだった。


「なので頼んます! 助けてプリーズ! これ、時間動かしたら一秒くらいで俺消えちゃうのおお! 練り上げた消滅結界だから、解除出来ないいぃ〜!」

「助けてったってなぁ。俺にだって生活あるし」

「そこをなんとか! 何だったらこっちで魔王らしく振る舞って遊んだっていいから! ハーレムとか興味ない? 美少女いっぱい侍らせるのって、なんていうか、男の夢、ってヤツじゃん?」

「興味ない」

「ウッソだー! 悪魔っ娘にネコ耳エルフになんでもござれよ? つるペタパラダイスにごしょーたいよ!? これで喜ばないなんて、お前正気かっ!?」


 俺の足にすがりつく魔王がまくし立てる言葉に、俺は引き剥がそうとしていた腕の力を抜いた。

 

「貴様……変態ロリコン野郎か」

「あたぼーよ! 平坦こそ我が望む世界!」


 小さく拳を握って言い放つ魔王の頭に拳を降らせた。


「――どうやらオマエとは相容れないらしいな」

「えっウソ、お前巨乳派? はぁ〜分かってねえなあ。幼い蕾を慈しみ愛でるのこそ至高だろうに。あ、同意があれば触れるのもアリね……って、ウソウソ待って! 趣味思考は人それぞれだから! 世界を救うには貴方の力が必要なんですぅ〜!!」


 なんだかんだの問答の末、結局俺は引き受けることにした。魔王自身はどうでも良かったが、存在を知った世界と、そこで生きる全ての存在が滅びるとあっては、首を縦に振らざるを得なかった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「とまあ、こんな経緯でね」

 

 流石に性癖云々は話さなかったが、魔王との初遭遇を語って聞かせた。

 

「それで……何をしないと、いけないんですか?」

「なんにもする必要はないんだってさ」


 きょとんとする品川。確かに、消滅する魔王の代わりに何かをしなければならないように聞こえるのも無理はない。

 魔王としての俺の役割は、()()()()()()()()。正確には、定期的に来る事だ。

 トルアラの全ての生命は『魔力』がある場所でないと死ぬという。

 魔王とは魔力を統べる王であり、この世界の地中深くに湧く魔力を汲み上げる事の唯一の存在で、魔王がいるからこそ地上に魔力が満ちる。

 歴代の魔王はその汲み上げた魔力を世界に巡らすことで生命を守ってきた。

 しかし、魔王は代を重ねる度に、魔力を汲み上げることは出来ても、それを世界に巡らす力が弱くなったのだ。

 それでは魔王から遠い地で生きる生命は滅びてしまう。

 そんな最中、先代の魔王――俺にとっては先々代――は、隔世的に強い魔力操作の力を持って生まれた。

 今世は良くても、また魔力操作が滞ってしまえば世界が破滅することを憂いた先々代は、魔王に寄らない理論を確立する。

 それが、世界を救う方法だ。

 簡単に言ってしまえば、魔王自身が居なくても魔力を吹き上げる装置の作成。

 ただし、これではその装置から遠い生命は滅びてしまう。

 そこで、僅かな魔力でも生きていけるように交配を行ったのだ。

 魔族と呼ばれる生命がいて、彼らはとても高い魔力への親和性を持つ。

 これは人類に近しい種だけでなく、動物や植物等の全ての種に存在して、言わば同じ種の中で魔力への親和性が高いものを『魔族』と呼ぶが、これは親和性を持たないものとの区別でしかない。

 それら魔族と交配していく事によって、今やすべての生命が程度の差はあれ魔力への親和性を持つに至った。

 俺に課せられた作業は、「装置から汲み上がった魔力が世界に充満する間、従来通りの方法で魔力を巡らせる」事。

 ちなみにこれは魔王の力を受け継いだことによって自動的に行える為、俺は本当にこの世界に居れば良いだけだ。

 

「でも……ずっと……居なきゃいけないとか……」


 不安そうにする品川に、苦笑しながら、昨日もその前も向こうの世界で会っていた事を伝えると、その事実を思い出したらしく俯いた。表情は見えないものの、黒髪から覗いた耳が僅かに赤く染まっている。

 

「俺らで言う所の一週間に一度、それも一時間くらいでいいんだってさ。来れなかったら翌週までにもうちょっと多いくらいこっちに居れば十分らしい」

 

 お手軽にもほどがある。

 品川もそう感じたらしく、なんとも言えない顔をしていた。

 

「そんな訳で、当初は本当に二時間くらい来てすぐ帰ってたんだけど、少し前に勿体無いなって思ってさ。大自然でのんびり過ごすのもいいかなって始めたのがキャンプで、その最初に来たのが今向かってる場所ってわけ」

 

 本当は仕事のストレスの癒やしを求めたのだが、それはわざわざ言う必要は無いだろう。

 向けた視線の先には、陽光の反射にきらめく湖面と、切り開かれた僅かな空地が、樹々の隙間から覗いていた。

 

「よし、品川。よく聞け、いいか? あそこをキャンプ地とする!」


 予定地を指差して、良くは知らない聞きかじりながら耳に残っていた言葉を使ってみる。

 それに対して、品川は不思議そうな表情で首をひねっていた。

 どうやら、俺はスベったらしい。

お読み頂きありがとうございます!

次回は早めに。数日中には投稿出来ると思います。頑張ります。

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