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81. 男について考えたJKT

レイの背より遥かに高いところにある薄紅色のステンドグラスから入る太陽の光は、静寂さの中で神秘さを演出するように祭壇を照らしていた。


「確かに、ここが一番澄んでる」


フェルティグの町の中に入った時よりも強く清廉さと神々しさを醸し出す教会で、心地よさをレイは感じた。


教会は町の中で一番大きな建物であり、レイ達が今いる中央の礼拝堂以外にも、多数の部屋がある。さらには居住スペースも併設されているようだった。


祭壇の脇には麒麟に似た巨大な銅像が設置されており、汚れの一片も無く礼拝堂の景色を映し出すほどにピカピカに磨かれている。


「あれが、町長が言ってた源具のようね」

レイがその銅像を指差すと、各々が散らしていた視線をそこへと向けた。


「あの神獣の像が?」アガタが不思議そうに言う。

「ほー、立派な神獣像じゃねえか」

ディルクが感心しながら神獣像の方へと飛んで行ったので、レイ達も追うように歩き始めた。


背丈は5mを超えるほどであり、鹿のようにすらりとした体と、鋭い牙を持つ龍の顔を合わせ持つ獣の像だ。頭部からは鋭い2本の三又の角が生えている。


神獣の像は、今にも雄々しい咆哮と共に空へと飛んでいくかのような躍動感がある。両翼を広げ、厳めしい顔を天へと向けていた。


「うん。これはすごい。今まで見てきたどの源具や守護源技の源技陣よりも高密度の光源粒子を感じる」

レンが銅像の下でまじまじと観察しながら、感心したように言った。


「不思議な感覚。圧迫感があるのに、それが柔らかく包んでくるかのように穏やかだわ―――っと?」

神獣像の周りを歩きながらそうコメントしたとき、レイは翼の根元に置かれた小刀に気が付く。


そして無意識のままそれを手に取ろうとした時だった。


「あれ?お姉ちゃんたち何してるの?」

レイは伸ばした手を戻し、その声の先に目を向けると祭壇奥の扉の所にフリーダが立っていた。

フリーダは小さな両手で銀色の四角いお盆を持っており、その上には水差しと葉っぱ、包帯が乗っている。足元にはニャーと呼ばれていた猫がついていた。


「私たちはここの源具を見に来たの。あなたは?」

フリーダはレイの問いかけに、にっこりと笑うと、


「ここはフリーダの家だよ!今から怪我をした人に薬を持っていくの!」


「家ってここ教会だろ?」ディルクが疑問を浮かべた顔をする。

「教会で、フリーダ達の家で、集会所で、学校で、診療所なの!」

フリーダがニコニコ笑いながら楽しそうに答えた。それを表現するかのように小麦色の犬耳が後ろに寝るように倒れていた。


「源具も見たし、私も怪我人の所に行こうかしら―――フリーダちゃん。私、治癒源技が使えるの。一緒にいってもいい?」

レイは腰を曲げてフリーダの目線に合わせると穏やかに聞いた。


そのレイの言葉を聞くや、フリーダはうん!っと満面の笑顔を浮かべレイの手を引き始める。


「そうだね。破源子持ちのレイさんの治癒源技は怪異から受けた傷に有効だし―――自分も後ちょっとこの神獣像を調べてから、そっちに行くよ。治療に使ってた源鉱石の充源ができるかもしれないからね」


「お兄ちゃんも来て来て!使えない石がいっぱい転がってるよ!」


「そっかぁ。じゃあ自分も役に立てると思うよ」

レンもフリーダに対して穏やかに答えた。


「それなら俺とアガタ達で町の様子を見て回るとするか。アガタ、テヲいいか?」

「はい!私も折角だからこの町の色んなところを見たいです!」「―――」

ディルクの提案にアガタがすぐさま賛成し、その隣でテヲも小さく頷いた。


「じゃあ、遅くとも二刻後にはここに戻ってくる」

そう言って、ディルクとアガタ、テヲは教会の外へと向かっていった。



「お姉ちゃん!こっちだよ!」


アガタに腕を引っ張られながら、レイも奥の部屋へと歩き始めた。




―――――――――――――――



(妹が居たらこんな感じなのかしら?)


怪我人が寝かされている部屋へと行くまでの短い道中、レイはフリーダから質問攻めにあっていた。


お姉ちゃん何歳?家族はいるの?好きな食べ物は?等の一般的な質問から、

なんで治癒源技能を使えるの?なんで傭兵団をやっているの?なんで家族といっしょにいないの?といった少し答えづらい質問と、会話が尽きることはなかった。


パーソナルスペースが狭いことを自覚しているレイではあったが、フリーダが幼いこともあってか不思議と不快な気持ちになることもなく、会話を楽しむことができた。


「お兄ちゃんとの関係は?」


だがフリーダからのその質問に対しては、レイは口が止まってしまう。

そのレイの様子を見てか、フリーダの顔がにやけている。


(レンとの関係?)

改めて聞かれるとうまく言葉にできない。


同郷のヒト。少し遠い関係に思える。

友人。友達関係とも何かが違う気がする。

仲間。確かにそうだが、少しふわふわしている気がする。

同志。そんな高尚な目的を共に掲げているつもりはない。

相棒。ディルクが拗ねそうだ。


「ごめんなさい。上手い言葉が思いつかないわ」


「じゃぁ、お兄ちゃんと一緒にいてどう思う?」

フリーダがさらに聞いてくる。


「そうね………楽、かしら。基本的に穏やかで、変に私のことを女性扱いしないし、差別と区別を理解しているからこっちも気をつかわずに済む。普段の会話もすべてを説明しなくてもお互い言いたいことがわかるし、戦闘の時も同じ。でも、考え方や戦闘の型は全然違うからお互い補える。そういう意味では、都合の良い存在?なのかしら」



「…………なんか、思ってたのと、違う」


フリーダが不満そうに小さくポツリと呟いた。



「もー。お姉ちゃん、少しは男のヒトってものを意識してみたら?」

フリーダがぷりぷりしているのを見ながら、レイは言われたことについて考えてみる。


(周りの男のヒト、か。父親は酔っぱらって半裸で玄関で寝ている姿が真っ先に思い浮かんだけど、あれは駄目な例よね。祖父はヒステリックな姿しか出てこないし。源技能の師匠は、恩人であると同時にいずれ絶対に超えるべき壁。―――悠斗、は)


「…………ユート」

アルテカンフから逃げる際にディルクの背の上で繋がった電話をレイは思い出す。


あれ以来ユートと連絡は取れていない。日本では源者がレイ達の探索に動いているらしいが、具体的にどうなっているのか全く分からない。


必死にレイのことを読んできたユートの声を思い出すと、胸が締め付けられる気がする。こちらの世界に吸い込まれる直前まで握っていた幼馴染の手を思い出すと、切ない気持ちになる。


「―――早く、帰りたい」レイの口から無意識にその言葉が零れた。


「……お姉ちゃん?」

先ほどまでの楽しそうな様子は潜めて、フリーダは心配そうに呼び掛けてきた。




――――――――――――――




「いやぁ!嬢ちゃんの源技は凄いなぁ!!あんなに血が止まらなかった俺の傷が、あっちゅーまに治るだなんて!」

獣人化している猪属の中年男性が大きすぎる声で興奮した声を上げている。


「傷口を薄く閉じただけだから、後2,3日は安静にしてて」

その男性の毛深く太い腕に包帯を巻きながら、レイはそう注意する。


「でも実際にすげえよ!怪異にやられたおいちゃんの腹の傷も治すんだもん!」

窓に一番近い寝台で寝ている豹属の若い男性も猪属の男に続いて声を上げた。


教会内の怪我人が集められた部屋には、怪異の襲撃で傷を負った5人の住人が寝台の上で横になっていた。


フリーダに連れられて部屋に入ったときは、顔色が悪く臥せっている彼らがいた。

傷口に巻かれた包帯は取り換えられた直後だったのか白さを保っていたが、フリーダ曰く、暫くすると血が滲みそれが治まる様子が無いとのことだったので、レイは直ぐに治療に取り掛かった。


戦闘中は創成したリカーブボウから‘癒しの矢’で対象を射ることで治癒をしている。だが今回はなるべく怪我人の負担を減らすため、レイは手のひらから治癒源技を発現し、ゆっくりとその光を患部に当て治療をおこなった。


一人一人治してくたびにフリーダがすごいすごい!と素直な声を上げていた。



「―――で。そこで倒れている奴は大丈夫なのか?」

先ほどまで歓声を上げていた猪属の男性は、冷めた様子で床に伏せている青年、レンを指さした。


「……なん、とか。でも、そろそろ―――」

レンが顔も上げずに絞り出すような声を漏らしている。


「レンさん!次はこの照明用の源鉱石と着火の源具の充源をお願いします!」

エプロンを付けた中年女性が勢いよく扉を開けながら入室してくる。


そして、伏せているレンの前に拳大ほどの大きさの薄黄色の石を数個と、サッカーボールぐらいの赤色の球を置いた。


先ほどからこの部屋で繰り返されている光景だ。


レイが二人目の治療に取り掛かった時、神獣像の観察を終えたレンが合流した。


そしてレンは部屋の隅に無造作に放置されていた水色の石やら薄緑の石、(レン曰く消毒用の綺麗な水と換気のために風を発現するものらしい)を手に取ると、充源を始めた。


その途中、怪我人の男性の妻が様子を見に来ることがあり、レンが充源している姿を見られてしまった。

そして主婦の強固な伝達網によりそのことがあっという間に町の皆に広がり、町中の源粒子の切れた源具や源鉱石が椀子蕎麦の如く供給されることになった。


「おい、おまえ。ちょっとは遠慮ってものをだな……」

充源により疲れ果てたレンの様子を気の毒に思ったのか、女性の夫が苦言を呈そうとしたが、

「いいじゃないか!この子たちの為にもなるんだし!」

とパワフルな妻の言葉に夫の言葉が消されてしまう。


フリーダは倒れこんだレンを銀色のお盆で突ついている。ニャーは伏せっているレンが怖いのかなるべく離れたところで座っていた。


「でもお姉ちゃんも、お兄ちゃんも凄いね!!」

突くことに飽きたらしいフリーダがレイの方を見ながら称賛してきた。


「そう?ありがとう」レイはその言葉に笑顔を浮かべた。



「ねぇ、お姉ちゃんたちに――――お願いがあるんだけど」





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