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75. 異世界におけるニンゲンの設定

犬属の坊ちゃんエトヴァルトは、依頼に関して流水の如く文句や不満を言っていたが、結局レン達‘異邦の銀翼’はエトヴァルト達の馬車の護衛を始めた。


アップコップ中央都市まで残り半日ほどの行程である。


レン達は豪華な馬車に乗り込み仮に怪異等の害をなす存在が現れた際にはレン達が撃退する手筈になった。


「傭兵の分際でこのビエナート家の馬車に乗車できる幸運を、神獣に感謝しろよな!」

黄金色の椅子に敷かれた真っ赤な布に座りながらエトヴァルトがそう言った。


護衛の内の二人が狼へと獣化すると、残りの一人が彼らに馬車に連結したハーネスのような紐を装着させる。

どうやら、狼属の二人が馬車を牽引するようだった。


(馬車ならぬ“狼”車)

どうやら大型の種属が獣化すれば馬車を引けるようだ。


「おい、女。貴様何処で治癒源技を習ったんだよ、まさか学院か?」


レイの治療の様子をチラチラと気にしながらエトヴァルトが尋ねてくる。

金髪から生えた茶色い犬耳がピンと立っていた。


「――えぇ」

「貴様の顔はストールズでは見たことが無いが、、、」


(今の言い方だと、”学院”ってストールズ中央学院を示す言葉なのかな?)


レンがエトヴァルトの様子と言い方からそう推測した。


「誤解させたわ―――ごめんなさい。正確に言うとアルテカンフの田舎の村にある小さな教会の学校の特別講義で教わったわ」


訝しげなエトヴァルトに対して、レイが顔を向けずに嘘を言い放つ。


(おぉ。レイさんがちゃんと“設定”を言っている)



レンとレイは異世界から召喚されたニンゲンであることを隠している。


(わざわざ異世界人です、って言うことでも無いし、なにより何処にヤナやニコラスや仮面の男たちやその関係者、さらには勲者達の一派がいるかもわからない)


現状、このエルデ・クエーレの地においてレン達がニンゲンであることを知っているのはディルクと、アルテカンフ領主カルメンとその執事。


怪異事件や怪異化の首謀者であるヤナ達。


フランカやゲラルトが所属している王領王都王宮第7小隊の隊員と、そして勲者達となる。


加えて、レン達と同じように召喚された残り3人のニンゲン達だ。


(こっちが把握していなくても相手がこちらをニンゲンって知っているケースも想定しておくべきかな)



レン達が傭兵団‘異邦の銀翼’を起ち上げ傭兵活動を始めて1か月弱経った。


幸か不幸かこの期間フランカ達騎士隊やヤナ達と出会うことはなかった。


(自分たちのことを探していて見つからないのか、それとも――――)



傭兵団の結成の際の身分証明書作成の為に、公的な書類に個人情報の幾つかを記載する必要があったため、レン達は相談し自らの“設定”を作った。


レンとレイはタージア州アルテカンフ領の小さな村出身で幼馴染。

親族は既に死んでおり、村にある神獣教の教会で生活していたが中位の源技能を発現できることを知り傭兵都市であるアルテカンフに職を求めて訪れる。


これが3人で相談した設定になる。


始めは「自分とレイさんって少なくとも4歳以上離れてるから幼馴染設定は無理があるんじゃ?」とレンが突っ込みを入れたが「はぁ?お前が大人に見えるわけねーから書類には18歳って書いとけ―――いや、二人とも16歳でも、、、」「16歳!?絶対嫌だ!!」「レン気にする必要ないわ。私から見たらあなたは成人済みに見える。こっちの世界のヒトの体格が良すぎるのよ」

という会話を経てレンが18歳、レイは元々の年齢である16歳と書類には記載した。


そしてディルクからのアドバイスを受けて、レンとレイの種属は鳥属に決定した。

獣耳や尻尾が生えている種属や、顔が特徴的な爬虫類系の種属はニンゲンの見た目的に不適当である。


鳥属の身体的特徴は髪型と羽だが、種類によっては人化した際にそれらが目立たないものもあり、ディルクが知っている中では最も違和感がないとのことだ。



先ほどは思わぬエトヴァルトの言葉に若干の綻びが生じたが、レイが上手く凌いでいた。


(どう足掻いても完全なネイティブにはなれないから、多少の違和感は仕方がない)


レンがそう考えていると、レイがエトヴァルトとの会話を広げていた。


「その言い方からするとあなたはストールズ中央学院の学生なのかしら?」

「そうだ。騎士科初等部に所属している」


(ストールズ中央学院騎士科ってデリアさんがいるところだった筈。そういえばゲムゼワルドでデリアさんがストールズの学生だって言った時、イリスさんは直ぐに統治層なのですか?って確認してたけど、、、)


「ねぇ。あなた、貴――統治層なの?」

傷ついた護衛隊長を再度看ていたレイが、さらにエトヴァルトに問いかけた。


「ふんっ!僕のビエナート家は王領の内政部における主席書記官を何人も輩出している王領きっての名門!現当主である父上の爵位は伯爵だ!」

エトヴァルトが胸を張りながら力強く答える。


(地球と同じなら、爵位は公爵、侯爵、伯爵、男爵、騎士爵か。それに加えて特別枠として“勲者”ってとこかな)

レンはそう予測した。


「―――それってどれくらい偉いの?」

爵位だけではその凄さが掴めなかったレイがさらにエトヴァルトに尋ねた。


「これだから学の浅い愚民は。伯爵は上から3番目の位だ。本来ならお前如き下賤の者が話しかけることすらできない立場の存在なんだよ!」



(なんだかんだお坊ちゃんの相手はレイさんに任せておけば良さそうだな)


そう判断したレンは、馬車の後ろの方に腰かけていたディルクの方へと向かった。


「ディルク。念の為聞いておきたいんだけど、平民が統治層に話しかけたら法律に触れるの?」


「馬鹿言うな。そんな法は無い――ただ、統治層の中には平民を見下していたり、憐れんでいたり、ヒトとして見ていないやつも少なからずいる。そういう意味では相手の身分は気にしておいた方が無難だな」


「そっか、っていうかディルクも統治層なんだよね、爵位とかあるの?」


「俺自体には無いぜ。だが第9勲“女帝”の現筆頭騎士である俺の身内は、伯爵だな―――ってか今更だがダリウスもカルメンも統治層で爵位持ちだぞ」


(やっぱダリウスさんは社会的地位のあるヒトだったんだな)


ダリウスの大らかで包容力のある親しみやすい姿と、憎悪に満ちた目で剣をレンに振りおろす姿、2つの姿をレンは思いだし若干ブルーな気持ちになった。





――――――――――




アップコップ中央都市までは怪異が現れることも無く、何の問題も無く着いた。


怪異との戦闘で負傷した隊長も、アップコップに着くころには大分回復していた。


街の簡易問を抜けた馬車置き場までがレン達の護衛地点であるため、依頼はここで終了となる。



「本当に助かった。君たちには感謝しきれてもしきれない、これも神獣の導きだろう」


停車した馬車の車輪際で回復した護衛隊長がそう言うと、分厚く荒れた手の平を拳にして右胸置きながら感謝の言葉を述べてくる。


(神獣の導き、ねぇ)


「これが報酬になる」

そして金貨3枚をディルクに渡してきた。


「多すぎじゃないか?半日程度の護衛依頼なら良くて金貨1 枚程度だろうに」

「突発的な依頼だった。それに加え怪異の撃退、受け取ってくれ―――そうだ、これも返しておこう」

そして隊長はさらに先ほどの怪異の核をレンへと渡してくる。


「いいの?」

レイが馬車の上で優雅に座っているエトヴァルトに視線を向けながら聞いた。

エトヴァルトはこちら見ずに従者の猫属の女性と話している。


「エトヴァルト様は忘れているだろうし仮に覚えていても問題は無い」

隊長が苦笑いを浮かべながら言った。



「レイくん。エトヴァルト様と話してくれて―――ありがとう」



隊長のその言葉を最後にレン達はエトヴァルト達と別れ、廃村からの貴重品回収依頼の報告をすべく、アップコップの傭兵連合へと歩を進めた。





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