定例会4
「失礼します。 風帝のルドラ・エルドレットです! 今日はよろしくお願いします。」
「風帝補佐官エウロス・ゴドウィンです。よろしくお願いします。」
マクレーンがアルベルトをどうにか言いくるめ、シュミットやエルネスティーヌと他愛もない会話をしていると(まあ、シュミットはほとんど会話に入ってこないのだが……)少しばかり緊張した面持ちの見た目大学生にしか見えない好青年と眼鏡をかけた背の高い男性がこの会議室に入ってきた。
ルドラ・エルドレット――好青年な彼は去年帝位についたばかりの第38代風帝だ。髪は金髪。ワックスを使って髪を少しばかり立たせている。緑色のローブを着用し綺麗なエメラルド色の瞳を持っているのが特徴的だ。他の帝達は30代前後が多いのだがエルドレットは25歳という若さで風帝に選ばれた。帝に選ばれる人間に年齢はあまり関係ないのだ。最も重要な要素は規格外の強さを持つ人間であるということである。そこを満たし尚且つ惑星の人々から認められれば帝という特別な地位につくことが出来るのだ。しかし、まだ帝という役職に慣れていないのか雰囲気からはとても彼が惑星を代表とする者には見えない。
そんな風帝を支えているのがエウロス・ゴドウィンである。身長190㎝という長身で眼鏡をかけており知的な雰囲気を醸し出している。髪は黒い色できっちり刈り揃えている。身体は細いが細すぎるというわけでもなくちょうどいい身体つきだ。彼は先代の風帝の時も補佐官に就いていたベテランである。そのこともあってか他の惑星の補佐官のフォローや指導を時たま行うこともある。帝達からも長く補佐官として勤めているからか信頼を獲られている。
簡単な挨拶を終え、自分の席に座るや否やエルドレットはマクレーンに声をかけた。
「マクレーンさんおはようございます。今日は早いですね。」
「おはようさん。いやー少しばかり早めにホテル出発しちゃってな。おかげで日本の美味しい料理を堪能し損ねたよ。」
「あーそれもったいないですね。この後すぐ帰国する予定ですか?」
「ああ、会議終わったら空港行ってラウンジで時間潰してその後は長時間空の旅だ。」
「空港は羽田空港ですか? 羽田だったら要人用ラウンジの無料ビュッフェが最近日本食メニューの種類増やしたらしいですよ。搭乗まで時間あるなら行ってみてはどうです?」
「おいそれ本当かよ!? ナイスな情報だ。タイミング良く今日は羽田空港から空の旅を予定してたんだ。時間も少しばかり空くと思うからちょっと行ってみるわ。」
「食べたら感想聞かせてくださいね!」
「分かってるって。情報ありがとなエルド。」
マクレーンの言葉に嬉しそうな様子を見せるエルドレット。彼は炎帝であるマクレーンをとても慕っていた。
エルドレットが帝位についてから2週間後に行われた定例会。初めて他の帝達との会議とのことでガチガチに緊張していた彼を見かねたコミュニケーションの塊であるマクレーンが優しく声をかけ巧みな話術で緊張を解いてくれたのだ。それ以来、エルドレットはマクレーンのことを慕い彼に良く話しかけるようになった。
「炎帝さん風帝さん、わたくしも実はせっかく地球の日本に来たということで日本で人気のあるお料理を食べていきたいと考えているのですが何か情報をお持ちではないかしら?」
マクレーンとエルドレットの会話にエルネスティーヌが加わり日本食の美味しいホテルやお店はどこにあるという日本食グルメオススメスポットは何処だという話題に切り替わった。相変わらずシュミットはほとんど会話に入ってこないが話を振られるときちんと答えてくれるので会話に参加したくないわけではないようだった。
マクレーンが持参したガイドブックを皆で回し見ながら気になる日本食料理でしばらく盛り上がっていると大きな音をたて会議室の扉が勢いよく開いた。そして順に6人の男女が入ってきた。
「がはは! 今日はやけに早いではないか小童ども!!」
一番乗りで入ってきたのは第34代雷帝――インドラ・トールヴァルトである。
身長2メートルを超え体重は110kg以上らしいがほとんどが筋肉なのだろう黄色いローブから見える太い両腕を見れば彼の身体は鍛え抜かれているということが予想できた。年齢は55歳で髪は短髪のオレンジ寄りの赤色で白髪などは見当たらない。顔の左部分に目から口元まで伸びる大きな傷があり威圧感があるが大概のことでは彼はほとんど怒らず豪快に笑い飛ばす明るい性格だ。帝達の中で一番の年長者で20年以上帝位につき金星の象徴として帝業を行っている。
「皆さんおはようございます。」
そしてその後ろから雷帝補佐官――ペルン・セドリックがトールヴァルトに隠れる形で入ってきた。
肩までかかる綺麗な金髪に細く整った顔立ちを持つ一見女性に見えるセドリックだがれっきとした男性である。年齢も25歳とエルドレットと同い年なのだが髪型と顔立ちのせいでよく女性に間違われるらしい。声を聴けばすぐに男性だと分かるが初対面でセドリックの声を聴いたことがない相手だと8割の確率で女性だと思われるらしく彼もそのことを気にしている。
「む、水帝や風帝がもう来ているのか。氷帝ともさっきそこで鉢合わせしちまったし一服はお預けだな。マック悪いが葉巻預かっておいてくれ会議が終わったら一服する。」
「了解ボス。」
次に会議室に入ってきたのは年齢30代後半ぐらいの二人の男性だった。一人はどうやら葉巻で一服しようとしていたらしい。
葉巻で一服しようと思っていた男性は第35代土帝――エンキ・ドミニクという名前の黒人男性だ。
髪は剃っているのかスキンヘッドでサングラスをかけている。そしてトールヴァルトほどではないが茶色のローブから見える腕には筋肉がくっきりと見え彼の身体もほとんどが筋肉であることが予想できる。身長も180㎝ほどありさながら軍人のようにも見える。葉巻をよく嗜んでいるようだが彼は女性や子供、嫌煙家の男性の前では吸わないことを心掛けている。
そしてドミニクから葉巻を預かった男性は土帝補佐官――ゲブ・マクスミリアーンである。
整った無精ひげを生やし、癖の強そうな金髪を持ち若干寝癖のようにも見える髪型になっている。眼鏡をかけているがファッション用の伊達メガネのようだ。茶色のローブをきちんと着用しているようだが見た目から寝起きの状態にしか見えない。しかし、彼のこの見た目をいつも通りなのか周りからは何も言われなかった。
「あらぁ、会議開始時刻まで少しばかり余裕があるというのに皆早いじゃない。カッレ早めに準備しておいた方がいいかもよぉ。」
「そうみたいですね。すぐに準備します。」
最後に入ってきたのは青色のローブを着用した男女だった。男性の方は会議室に入るとホログラム装置が設置されている場所に歩いていきそこで準備している補佐官たちに軽く挨拶していた。女性の方は今日の会議で自分が使う机の位置を確認しモデルがファッションショーで見せるようなウォーキングをしつつゆっくりと椅子に座った。
女性は第33代氷帝――スカジ・ヴィルヘルミーナという水帝並の美貌を持つ人物だ。
銀色に輝く宝石のような腰まで伸びたロングヘア―、そしてローブから覗く豊満な胸が彼女の魅惑を底上げしてる。透き通った白い肌に艶めかしい美しい顔をもち、彼女の微笑みは女神の微笑みだと言われている。
そんな彼女にカッレと呼ばれた男性は氷帝補佐官――ボレアス・カッレである。髪型は短髪でヴィルヘルミーナと同じ銀色の髪を持ち、深みのある顔立ちそして誰にでも優しい性格を兼ね備えているというハイスペックを持ち尚且つ補佐官を任されるほどの強さを持つということでマクレーンやシュミットそしてエルドレット並に人気がある。
会議室には天帝と地帝以外の帝そしてその補佐官が集結した。ここにいる者たちだけで太陽系で暮らしている人類のほぼ全てを相手にできると言われるほどの戦力だ。ここにさらに天帝そして彼らをまとめる地帝が加わるのだ。
「おいマクレーン。何の話で盛り上がっているんじゃ!」
「雷帝の爺さん相変わらず豪快だねー。いや実はね……」
盛り上がっているマクレーン達と机に置いてある数冊のガイドブック気になったのかトールヴァルトがマクレーンに声をかけたことをきっかけに帝達と補佐官を巻き込んでの日本食グルメオススメスポット探しがさらなる盛り上がりを見せた。
帝達は基本的にとても仲がいい。その一番の理由としては自分の住んでる惑星に自分と同じ立場の人間がいないからである。惑星ほぼ全ての民衆から敬われ尊敬の眼差しを向けられまるで神様のように崇拝される帝は民衆が失望しないように惑星の象徴であり続けないといけないのだ。正直、自分の住居とこの定例会以外で気が休まるところがないのだ。同じ悩みを抱える者同士が意気投合するのも頷ける。
それとどうやらマクレーンだけではなく他の帝も日本食を今回の来日ついでに堪能しておこうと思っていたらしい。ほとんどがガイドブックを見るために自分の席を立ち本を持っている帝の後ろからのぞき込むような形でガイドブックを見ていた。
トールヴァルトとドミニクそしてその補佐官マクスミリアーンはガイドブックでビールが合う日本食を真剣な眼差しで一緒に探しているし、ヴィルヘルミーナやエルネスティーヌそしてちゃっかり冥帝補佐官であるエレオノーレと弓月の女性陣は別のガイドブックの特集で組まれていた「女性にオススメ! 最近のヘルシー鍋は肌にも潤いをもたらす!」のページを見ている。すでに美しい肌を持っているというのにさらに綺麗になろうとしているのだろうか。
この話題の発起人であるマクレーンはエルドレットと二人の補佐官セドリックとカッレのと共に日本特産のブランド牛のページを見ながら「食いてー」と小さく嘆いていた。
そんな光景に炎帝補佐官アルベルトと風帝補佐官でベテランのゴドウィンがため息をついた。
「会議前なのにこんな状態でいいのでしょうかね……」
「マクレーン様がガイドブックを持ってきたのが一番の原因ですね……すいません」
そんな二人を見て話題に加わらず静観していたシュミットがあきれた様子で皆を見ている二人を見てほんの一瞬だけ苦笑したが彼も実は日本食について興味があったのでマクレーンのところに行き後ろから本を覗き込んだ。