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旅の始まり ギルドの大陸 サウスガント大陸

「夢じゃなかった...か」

 目を開けて最初に映ったのは鬱蒼と生い茂る木々。その隙間から日の光が差し込む。周囲には目印になるものがなく。永遠と木々が立ち並ぶ。右手には降魔の剣。そしてユーリの背後には


「えっ、アク...リア?」



 ある日の朝、城下町の上り坂には初等学生たちが登校するため、上り坂を歩いていた。


 「おそいよー」

 「そんなんじゃ遅刻しちゃうよ」

 「もういいよ。置いてこーぜ」

 私は生まれつき体が弱く、運動が苦手だった。最初のうちは気を遣って歩く速度を合わせてくれていた友達も徐々に減っていき、私を置いていった。でも仕方がない。体が弱い私がいけないのだから。


 「ほら、引っ張ってってやるから。俺たちも行こうぜ」

 ただ1人、私を置いていかずに手を引っ張ってくれる男の子がいた。


 「でも、私に合わせていたら遅刻しちゃうよ?」

 だから先に行って。きっと君もいずれは私から離れて行ってしまうから。


 「その時はその時。でも遅刻はしない。俺がさせない。だからお前も、俺が遅刻しそうだったら手を貸してくれよな。アクリア」

 それが私の中にあるユーリとの最初の思い出。



 「うぅっ」

 なんだか眩しい。日の光が俺の顔に当たる。どうやらもう朝らしい。帝高練ていこうれん生である俺は帝国付属高等訓練校ていこくふぞくこうとうくんれんこうに登校しなくてはいけない。別に義務ではないのだが、無職というのも格好がつかない。そんな理由で騎士学科に通う。今日も1日、退屈な毎日が始まる、はずだった。


 「夢じゃなかった...か」

 目を開けて最初に映ったのは鬱蒼と生い茂る木々。その隙間から日の光が差し込む。周囲には目印になるものがなく。永遠と木々が立ち並ぶ。


 「ここはどこだ?」

 頭が働かない。確か、王宮に行って王様に謁見した。その後ブローデに連れられてどこかに行き、ネロクと剣を交え、ヴァイデリッヒが目の前に現れた。いったい何で。記憶が断片的に蘇る。


 「アクリア?」

 そうだ。確かアクリアがネロクに魔力を生む道具にされようとしていた。それを止めようと俺はネロクを討った。でも結局は間に合わず、アクリアの精神は肉体と乖離し、剣に収まってしまった。その剣は(降魔のこうまのつるぎ)と言い、魔力を吸収し、宿すことが出来るらしい。つまり、精神が魔力と一体化したアクリアはこの剣の中にいる。


 「アクリアッ!」

 右手に握っていた剣を抱き寄せる。そこには温かみはなく、ひんやりとした感触が伝わる。


 「絶対に元通りにして見せる。絶対に!」

 アクリアに誓う為、自分を鼓舞する為にあえて声に出して言う。もちろんアクリアからの返事はない。その時。


 ガサッ


 「誰だ!」

 突如後ろの物陰から生き物の気配がした。両手で抱え込んでいた(降魔の剣)を背中に掛け、後ろを振り返りながら元から装備していた量産型の剣を左脇から抜き放つ。そこには


 「えっ、アク...リア?」

 アクリアが立っていた。銀髪を肩まで伸ばしていて、上は左胸に帝国シンボルが付いた真っ白なブラウス、首には赤色のリボン、下は茶色の長さはひざ上と少し短いスカートを着ている。最後に会ったアクリアの特徴そのままだった。そして


 「やっぱり、精神はこの中…か」

 アクリアの体は確かにそこに立っていた。しかし目は虚ろなままだった。どういうわけかアクリアの体は精神がない状態でも動いている。理屈は分からない。精神が肉体を呼んでいるのだろうか。

 「分からないことだらけだ。でも行動するしかない。行こう、アクリア」

 もちろん返事はない。俺はアクリアの右手を握り少し引っ張る。するとアクリアの足が1歩2歩と歩み始める。


 「よし。取りあえずこの森を抜けよう」

 


 「民家だ」

 歩き始めて何時間が経っただろうか。どこかも分からない森をひたすら歩き、日が落ち始めた頃、ようやく一軒の民家を発見した。周囲に同じような民家はない。


 「すみません。誰かいませんか。すみません」

 民家の扉をノックする。家に泊めてもらうためだ。俺は野宿でもいい。訓練で慣れているからだ。もちろんアクリアも同じような訓練を受けているだろうがこの状態で野宿させるわけにはいかない。


 「誰だぁ?こんな時間にぃ」

 幸い、民家には人が住んでいた。扉を開け出てきたのは特徴的な訛りをもった老人だった。60代後半といったところか。腰が曲がっているせいで身長は150センチ程度。頭は剥げており、薄汚れた白いワイシャツとダボダボの黒スラックスを穿いている。服の上からも体がやせ細っているのが分かる。


 「突然すみません。あの、今晩泊めていただけませんか。1日だけでいいんです。せめてこの子だけでも...」

 交渉に焦りは禁物だ。相手に不信感を与えてしまう。分かっていてもやっと見つけた民家を逃すまいと早口になってしまう。老人はこちらを品定めするように俺とアクリアを見てくる。そして


 「ええよ。お入り」

 老人は扉を開け放ち、俺たちを中へ招き入れる。アクリアの手を引き、家の中に入る。


 老人は1人暮らしだった。部屋の中央には木製の縦1メートル横2メートルのテーブル。そのテーブルに沿うように4つの椅子が。左奥が調理場となっているのだろうか。竈には火がついており、釜に被せられている釜蓋が沸々と揺れている。左奥にはシングルベッドが壁に沿って置いてある。そのベッドの足元には3本の斧が置いてある。


 「さぁそっこに座って。もうすぐご飯が出来っからぁの」

 老人は俺たちの素性も聞かずに食卓に招く。


 「いいえ、そこまでお世話になるわけには」

 寝床を貸してくれるだけでもありがたい。それに加えてご飯も頂くのは気が引ける。


 「そんなこと言わんでえぇがらぁー。食べてけぇ」

 出てきたのは雑穀米と焼き魚というシンプルな食事。正直魚は苦手だったが、そんなことは言っていられない。1度は断ったが実は無性に腹が減っていた。


 「いただきます」

 箸を取り、ご飯をかき込む。いつもは感じない米の甘さが染み渡る。焼き魚も塩だけというシンプルな味付けだが今はそれが良い。


 「そちらのお嬢さんは食べないのけぇ?」

 老人が俺の左に座るアクリアを見て聞いてきた。そう言えばそうだ。心神喪失状態にあるアクリアは食事をとれるのか。


 「アクリア?ほら、フォークを持って」

 取りあえずフォークを持たせてみる。すると


 「良かった。食べてる」

 剣に精神が入っていて、肉体は空っぽな筈のアクリアが手を動かし、ご飯を食べ始めたのだ。どうやら基本的な本能は残っているらしい。


 「あんたらアヴァタイト帝国の人間だぁな。どうしてこんなところにきているんけぇ?」

 ご飯が終わり、食器を片付けた後、老人が聞いてきた。


 どうして分かったのか、と一瞬思ったが、老人の視線は俺の左胸に向いている。そこにはアヴァタイト帝国のシンボルマークが着いていた。これでは自分の身元をしゃべりながら歩いているようなものである。それと老人の言葉で分かったことが1つ。


 「ここはアヴァタイト帝国領ではないんですか」

 ヴァイデリッヒに飛ばされてきたためここがどこか分からない。今更だが現在地を知るため、老人に聞く。


 「なぁにいってるんだぁ?もちろんここは帝国領ではねぇよぉ。それどころかユーロシオ大陸でもねぇでさ」

 その言葉に俺は驚きが顔に出てしまう。帝国領内に飛ばさなかったのは分かる。俺はアクリアを帝国から奪った。いわば罪人である。そのため帝国の手が届く帝国領内には飛ばされないだろうと思っていたがまさか大陸外に飛ばされるとは。


 「すいません。俺たち、知らぬ間にここにいて。どこなんですか」

 怪しまれると分かりつつも、この言い方以外思いつかなかったのでこのまま聞いてみる。老人は少し戸惑った顔になったが


 「ここはサウスガント大陸でさぁ」

 老人が戸惑いつつも答えてくれた。その答えに動揺を隠せない。サウスガント大陸と言えばユーロシオ大陸の南東にある大陸で、大小さまざまな帝国が統治するユーロシオ大陸とは対照的に、サウスガント大陸は主にギルドと呼ばれる自衛団体が大陸を統治している。帝国がないため法が存在せず、代わりにギルド条約が存在するが、その条約も曖昧な点が多いと聞く。


 「あの、おじいさん、もう1つ、この大陸に魔法研究をしている施設ってありませんか?」

 俺には治療系魔法の知識はない。そのためアクリアを治すためには専門の施設か人物に会わなければならないのだが


 「ふぅっむ、この大陸はギルドで構成されてるからのぉ。そのようなまとまった研究をしている施設はないけぇ。それにお前さんたち、アヴァタイト帝国の人間だぁろ。魔法に関してはアヴァタイトが1番進んでんじゃないけぇ」

 やはり無かったか。それにおじいさんの言う通りだ。アヴァタイト帝国は表向きには治癒目的として軍事に魔法を取り入れている。他にも治癒部隊を持っている国もある。だが、アヴァタイトの裏の顔、魔力を持つ女性から魔力を搾取し、攻撃魔法に転換する技術からして、他の国の比ではないくらい研究が進んでいるのだろう。


 「そう言えば、この大陸にも熱心に研究をしている人間がいたけぇのぉ」

 思い出したかのように言い出すおじいさん。

 

 「誰ですか。どこにいるんですか」

 可能性があるのならばどこにだって行く。


 「この家から見て北にあるヒーラリエざんの山頂に1人、魔力について研究している人間がいてのぉ。だがのぉなんて言うかとても変わり者らしいんだぁの」

 おじいさんはとても渋い顔をしている。だが関係ない。


 「本当ですか、ありがとうございます。明日行ってみます」

 その日はお言葉に甘え、一泊した。


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