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再開 相対 そして絶望

「ユーリ、今なら間に合う。君の幼馴染、アクリアを救うんだ。全てを敵に回してでも」ブローデの言葉でアクリアの危機を知るユーリは王宮50階へ向かう。そこにいたのはアクリアと魔法工学科3年筆頭ネロク・バイグスだった。...「私を殺して。そうすればユーリは助かるから」

俺はアリーシャがいた部屋を飛び出し、妖精の扉へと向かう。手にはブローデが持っていた金色の鍵と剣が握られている。ブローデを残したままだが気にはしてられない。


 「開け!」

 妖精の扉に鍵を押し付ける。力の強さが開く速さに関係ないと知っていても力が入ってしまう。とても長い時間が過ぎたような気がする。数秒後、扉が開くと同時に体をねじ込む。


 「50階!」

 行き先を伝える。浮遊感が消え、体が緩やか落下していく。それが俺に言い知れぬ恐怖を与えてきた。ブローデの姉と同じように宝石に閉じ込められ、魔力を搾り取られるアクリア。そんな光景が脳裏に浮かぶ。それが更に不安を煽る。数十秒後、再び体に浮遊感が生まれ、扉が開く。扉を出ると同時に吐瀉物をまき散らしてしまう。


 「うっ、アクリアっ」

 そこもアリーシャがいた階同様、細長い廊下があり、その先には扉がある。足がもつれながらも全速力で扉の前へ行く。鍵はずっと手に握りしめたままだ。鍵を扉へ突きつける。その衝撃に耐えらえなかったのか金色の鍵が折れる。だがどうでもいい。もう扉は開いた。


 「アクリア!」

 幼馴染の名前を叫びながら部屋に駆け込む。そこには常軌を逸した光景が広がっていた。


 「何だよこれ…」

 この部屋はアリーシャがいた部屋よりも広い。中央には円柱が立っており、そこから無数の線が繋がっていた。その先を辿ると。


 「ふざけるなっ」

 白いワンピースを着た女性が球状の宝石に閉じ込められ眠っていた。それも1人2人ではない。数えるのも恐ろしいほどの球状の宝石が中央の円柱を取り囲む。誰も彼もが女性で年齢は18歳くらい。帝国付属高等訓練校を卒業し、これから帝国の為に働こうとしていた治癒学科生たちだろう。

 

 「アクリアッ。アクリアッ!」

 部屋を走り回りアクリアを探す。だが見つからない。いっそこの球状の宝石を全て切り倒したらと思い始めてしまう。だがこの宝石に閉じ込められた女性たちも望んでこうなったわけではない。そんな焦りと罪悪感が更に俺の視野を狭くする。


 「-リ!」

 「アクリア!?」

 今聞こえた。確かに聞こえた。


 「ユーリ!」

 「アクリア!」

 いつも頼んでもいないのに起こしにくる幼馴染の声が。うっとおしいと思っていた声が今は無性に聞きたい。


 「どこだアクリア!」

 「ユーリ!」

 声は俺の右から聞こえた。そこは入り口からすぐのところだった。それだけ俺の視野は狭まっていたということだ。


 「アクリア!」

 アクリアの元に駆け寄ろうと足に力を入れようとした。その時。


 「それ以上近づくなよユーリ・ナイク」

 突如、球状の宝石の物陰から1人の男が現れアクリアの隣に立つ。


 「お前は…ネロク・バイグス!」

 ネロク・バイグス。身長175センチのやせ形で頬は痩せこけており、黒髪をオールバックにしている。右手には木の杖を持っている。全体的に弱々しい印象を受けるが釣り目の奥の鋭い眼光が全てを覆していた。彼こそが治癒魔法を使う女性の補助となる機材を作ることを学ぶ魔法工学科3年の筆頭である。つまりは


 「アクリアを離せ!」

 アクリアを魔力を生み出す道具にしようとしている張本人である。


 「駄目だよ、ユーリ君。そんなことをしたら僕は殺されてしまう。それに僕は今とてもうれしいんだ。やっと彼女を手に入れることが出来る」

 ネロクがアクリアを引き寄せる。アクリアは小さな悲鳴を上げる。


 「ネロク!」


 「君のことをずっと見てきたんだよ。各学科代表会議の時、君に会えることが僕の生きがいだった。いつか話したいと思っていた。触れたいと思ってた。その願いが今叶うんだ。こんなにうれしいことはない!」

 狂っている。コイツ、これから自分が何をするのかわかっているのか?


 「でも君は僕の方なんか見てくれない。だから君を永遠に僕のものにするために、今から君を宝石に変えてあげる。僕の為だけに輝き続ける宝石にね」


 「やめろネロク!」

 ネロクを止めようとブローデから受け取った剣を鞘から抜き放ち、距離を詰めるため走り出そうとした。


 「近づくな。魔法式起動ライフロブ数多あまたある命のあかり」

 ネロクが何かをつぶやき右手に持っていた杖を斜め上に掲げる。右腕には銀色の腕輪を付けており、その腕輪が突如輝きだし、それに呼応するかのようにアクリアの右手首も輝く。どうやら同じ腕輪をしているようだ。次の瞬間


 「うっ」

 突如上斜め前から、直径3メートルの火の玉が現れ、俺目掛けて飛んでくる。


 「くっそぉっ」

 間一髪のところで直撃を避ける。だが地面に衝突した衝撃波によって体が吹き飛ばされる。その後、無数にある少女たちを閉じ込めている球状の宝石の1つにぶつかることでようやく体が地面に着く。どうやらこの宝石は余程頑丈らしい。ブローデの斬撃も無傷で耐えたほどだ。


 「いい、いいよ!完全に僕のものじゃないかアクリアッ!初めての攻撃魔法なのにこんなにも息が合うなんて!」

 歓喜の雄たけびを上げるネロクとは対照的にアクリアの様子がおかしい。運動をしていないのにもかかわらず疲労の色が見える。


 「さぁ続けていくよ。魔法式起動ライフロブ

 続けざまに2発3発と先ほどの火の玉を俺目掛けて飛ばしてくるネロク。男には生まれつき魔力は備わっていない。魔力は女性にのみ宿り、使える魔法は治癒系統のみだ。しかし目の前の男はその常識をことごとく覆し、攻撃魔法であろうものを飛ばしている。だとすればネロクは腕輪を通し、アクリアの魔力を吸収し、攻撃してきていることになる。


 「はぁはぁっクソ」

 あんなに立て続けに魔法を使われては、アクリアの体が持たない。だが向こうはそのアクリアを人質に取っている。近づけない。


 「ユーリ…」

 俺よりも疲れているであろうアクリアが名前を呼ぶ。


 「私を殺して。そうすればユーリは助かるから」

 

 「何言ってんだアクリアッ!俺にお前が殺せるわけないだろ。今助けるから、お前は自分の心配でもしてろ。このお節介がっ」

 情けない。口では助けると言っても助ける方法が思いつかない。


 「アクリアァ、心配しなくても君は僕の元で永遠に生きるんだよ。宝石となって歳を取らないんだ。今の美しい姿を維持できるんだ。素晴らしいだろ」

 自分勝手に話を進めるネロク。


 「これで終わりだよユーリ君。君はもう動けないだろう。安心してよ。アクリアは僕が幸せにするから」

 そう言ったネロクの顔は狂気に歪んでいた。正気ではない。


 「ふざけるなストーカー野郎。どうやって魔法を使ってやがる。さてはカマ野郎か?」

 俺はと言えばこうやって知らないふりをし、自分の体力を回復するために時間を稼ぐことしかできない。


 「んー気になるのかいユーリ君。まぁ冥土の土産ってやつで特別に教えてあげるよ。僕はね、この腕輪でアクリアの魔力を貰っているんだよ」

 ネロクは右腕を挙げ、腕輪を見せびらかすように腕を振る。


 「君も騎士団の騎士になるならいずれ使うことになっていた力だよ。この部屋にいる女性はね、皆魔力を器に入れ道具を作る母親なんだ」

 

 「どういうことだ」


 「こんな噂を聞いたことがないかい。アヴァタイト帝国が戦った戦場の跡地には無傷の女性の死体が湧いて出るって」


 「ただの噂だろ」


 「いいや違うんだよユーリ君。別にここにいる女性が直接戦場に行って魔力を与えるわけではない。ここにいる女性は人工授精で作ったクローンに魔力を注ぐためだけに存在している。魔力を産む機械というわけさ」

 恐ろしい真実をまるで昨日の晩御飯は何を食べたかを言う程度の軽さで語るネロク。


 「クローンだって?それに魔力の抽出?そんなことが許されるわけ…」


 「許されているんだよ。ここは王宮。国王主導の元行われている軍事的生産だからね」

 

 「どうしてこんなことが出来るんだ」

 クローンだって人間に違いない筈だ。魔力を搾り取られている女性たちだってこんなことを望んで生まれてきたわけじゃない。それを使い捨ての人形みたいに扱う騎士団。やはり騎士団なんてろくでもない。こんなところに就職なんてこっちからお断りだ。


 「知らないよ。クローンなんて言わば家畜みたいなものだろ。君は普段食べている豚肉や牛肉を見て涙を流すのかい?」

 人道的には完全にアウトだ。しかし見知らぬ女性のために涙を流すほど感情豊かではない。だが


 「幼馴染が無理やり利用されようとしているんだ。止めない理由にはならない」

 

 「そうか、このまま帰ってくれれば見逃してあげたのにな。魔法式起動ライフロブ

  またもや火の球を生みだそうとするネロク。その時、異変が起きた。


 「ううっ」

 短いうめき声の後アクリアは地面に倒れこんでしまった。それと同時にネロクの右腕で輝いていた腕輪が光を失う。


 「ちっ。もう魔力切れか。いくら治癒学科筆頭と言えど学生だからね。ここらが限界か」

 アクリアを一瞥するネロク。その隙を見逃さない。


 (食らいやがれ変態野郎)

 「えっ」

 音もなく一足でネロクの懐に潜りこむ。そこで初めて間合いを詰められていることに気付くがもう遅い。剣を持っている右手を胸の高さで水平に保ち、後ろに引く。そして一気に相手の心臓目掛けて突き刺す。帝国式剣術初級技、初花ういはな

 

 「その技知っているよ」

 だが、ネロクも帝高練生であり、騎士の技は一通り知っていた。その為、動作からどの技が来るのかを判断し、回避しようとしていた。しかし


 「痛いっ、足がっ!?」

 足に痛みを感じ、動きを止めるネロク。だが彼を止めているのは痛みではない。


 「足を踏んでっ動きを?」

 俺は間合いを詰め初花ういはなを放とうとしていた。だがこの技の弱点は動作の大きさにある。よって技を知っている相手にとって避けるのは難しくない。だが


 「悪いな。生憎教科書通りってのは苦手でな。これは俺オリジナルだ」

 まぁ我流ゆえ本物の剣、ブローデのアルドバーグ流には劣ってしまうのだが。


 「お前みたいな下種にはこれで十分だ!」


 「うぅっあぁぁぁっぁぁあぁ!」

 剣は狙いを寸分違わずネロクの心臓目掛けて突き刺さる。


 「いたっ?痛いイタイいたいイタイいやだイタイ血が痛いイタイ!」

 後ろによろけて剣が体を抜ける。胸を押さえるネロク。だがもう遅い。帝国式初級剣術 初花ういはなは簡単な技であるがゆえ、初級技として指定されているが、殺傷能力はトップクラスである。もう持つまい。


 「アクリアッ!」

 剣を鞘に戻しアクリアの元に駆け寄ろうとする。だが甘かった。


 「許さない。許さない。ゆるさないユルサナイ絶対に!」

 胸から血を流し、致命傷を負っているはずのネロクが今だに立ち続けている。


 「魔法式起動ライフロブ!」

 まずい。アクリアの魔力はもう底をついているはずだ。そんな状態で更に搾取されたら

 

 「くっそぉやめろー!」

 詠唱を止めようとネロクの首を飛ばすため、間合いを詰めながら再び剣を抜き、両腕を首の前で交差する。帝国式剣術上級技 花月かげつ。だが


数多あまたある命のあかりぃぃぃぃぃいぃぃぃい!」

 無情にも間合いを詰め終わる前に詠唱の方が先に完了してしまう。上空に50メートルの火の玉が現れ、部屋全体を飲み込もうとする。俺の目に飛び込んできたのは高笑いをしながら今度こそ倒れこむネクロ。そして


 「アクリア…」

 光を失いうつろな目を開き続けているアクリアだった。


 「アクリア―ッ!」

 間に合わなかった。俺は逡巡してしまったのだ。ネロクが最後の詠唱をしているとき、全ての力を攻撃に回していれば間に合っていたかもしれない。だが、帝高練に入学してからブローデ以外の人間には1対1の立ち合いで1度も太刀を入れられていないというちっぽけなプライドが俺の意識を僅かながら防御に回してしまった。その証拠に俺は無意識に剣の柄と刀身を持ち、頭上に構えることで、火の玉を防御しようとしていた。


 「くっそぉぉぉおぉぉぉぅぅっ」

 叫んだところで何も変わらない。迫りくる部屋を覆うほど巨大な攻撃魔法。球状の宝石に閉じ込められた女性たち。虚ろな目をして動かない幼馴染。


 直後、部屋にとてつもなく大きな衝突音が生じた。部屋の壁は吹き飛び、周囲の機材や扉、球状の宝石は閉じ込められた女性ごと焼き尽くされる。はずだった。


 キ―――――――――ン

 甲高い金属音が部屋に鳴り響いている。その音源はネロクが放った攻撃魔法とブローデから貰った剣だった。両者は拮抗し、攻撃魔法は停空している。まるでその場所だけ時間が止まったようだ。だがそれもつかの間。直後変化が訪れた。


 「なんっだ?」

 目の前の現象に驚く。いったい何が起きている。



 「ユーリ…」

 そんな時、耳に音が伝わる。間違えるはずがない。少し前までは煩わしくうるさいと思っていたが、今では聞きたいと願う声。


 「アクリア!」

 確かにアクリアの声だ。だがアクリアは依然として虚ろな目をして倒れている。では一体どこから?


 「ユーリ、ごめんね。辛い思いをさせて」

 声は目の前の攻撃魔法、数多あまたある命のあかりからだった。

 

 「何でお前が謝るんだ。それよりもお前、早く目を覚ませよ。見ろよ、お前あそこで目を開けて寝てるぞ」

 現実から目を背けるため、冗談を言う。でも本当は分かっている。


 「ごめんね。多分、もう戻れない。私の精神は、この魔法とリンクしちゃってるの。そして恐らく魔法の消失と共に私も」


 「やめろ!俺が助ける。何とかする。だから諦めるな!」

 それ以上言わないでくれ。消えないでくれ。


 「ありがとうユーリ。ユーリがそんなんだから私は最後まで笑っていられる」


 「最後なんて言うな。俺が何とかするって言っているだろう!」


 「来てくれて嬉しかった。本当はもっと、これからもいろいろ話したかったけれど、時間みたい」

 徐々に攻撃魔法の威力が落ちてくるのが剣を通して伝わってくる。それに伴うようにアクリアの声も小さくなっていく。


 「嫌だ!消えないでくれ!お前の夢はどうなるんだっ。世界中を旅して、病気で苦しむ人を助けるんだろっ!」


 「それは…ユーリが代わりに騎士として人助けをしてくれたら嬉しいな…」


 「ふざけるな!勝手に押し付けるんじゃねぇ!それはお前の夢だろうが、自分で生きて自分で叶えやがれ!だから…だから」

 攻撃魔法の圧力はもう感じない。轟轟と燃え盛っていた火も徐々に衰えて行き、そして…


 静寂が部屋を満たした


 「あっ…あっ…あああああああああああああああああああっあああああああああああぁ!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


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