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帝国の真実 崩壊する日常

 帝高練に入学して早3年の月日が経った。ユーリは騎士学科次席、ブローデは筆頭として王宮に招かれる。ブローデと国王の計らいで秘密の部屋を見ることを許されたユーリ。そこにはユーリの日常を壊す光景が。「ユーリ、考えたことはないかい。無傷で帰ってくるアヴァタイト帝国騎士団にヒーラーは必要なのかって」

 些細な変化はあれど毎日が同じことの繰り返し。あっという間に3年が過ぎた。


 「3年筆頭ブローデ・アルドバーグ」

 「はい」

 「3年次席ユーリ・ナイク」

 「はい」


 俺とブローデは騎士団本部に呼ばれていた。年に1回の昇格試験と卒業試験が終わり、僅かな休学期間が与えられるとき、卒業予定の3年の学生のうち特に優秀な学生、即ち筆頭と第2席は王宮へと招かれるのだ。もちろん、他の学科生も呼ばれているはずだが時間は別らしい。


 「君たちは卒業後、晴れて騎士となる。よって本日は国王と謁見する機会が与えられた。私が案内をするがくれぐれも粗相がないように」


 そう俺たちに忠告するのは去年まで騎士学科にいた生徒だった。結構優秀な学生だった気がするがあまり記憶にない。


 俺たちは騎士団本部の最奥部に連れられていた。すなわち王宮へと続く道だ。だがそこに入り口らしきものはない。目の前には高くそびえ立つ崖のみである。


 「まぁ戸惑うよな。俺もそうだった。だがこれからもっと驚くことが起きるぞ」

 先ほどとは打って変わって砕けた言葉遣いになる騎士。どうやら騎士団本部を離れ気が緩んだらしい。もちろん王宮の方が地位は高いのだが。


 「さぁもうすぐだ。来るぞ。来たっ」

 騎士が興奮気味に言った後、突如目の前の壁面に亀裂が出来た。そして横に開かれ空間が出来た。10メートル四方といったところか。奥行きが半端ない。


 「何だこれ」

 思わず驚愕の声を漏らした。それに騎士は満足そうな顔をした。少しむかついた。


 「あれ、君は驚かないの?」

 騎士はそう言いブローデの方を見て言った。確かにブローデの顔には驚きの表情はない。


 「えぇ、昔、乗ったことがあるので」


 これ乗り物なの?


 「えっあっ、アルドバーグってあのアルドバーグ家の。失礼しました」

 先ほどとは打って変わって低頭な態度になる騎士。


 「よしてください。僕はまだ正式に騎士にすらなっていない人間です。ですので普通に接してください。先輩」


 そういわれてもすぐに順応できる人間は少ないだろう。俺も後で知ったことだがアルドバーグ家と言ったら国王の親戚の中でも最も近い一族であり、ブローデは国王の三女の婚約者である。つまり次期国王候補なのだ。知ったこっちゃないけど。


 騎士は順応できず、ますます硬くなってしまう。ブローデはもう何も言わなかった。慣れているのだろう。


 「ではこちらにお乗りください。上に着いたら迎えがいますゆえ」

 そう言い騎士はひざまづいてしまった。何だか居心地が悪い。


 「悪いなユーリ」

 謝ってくるブローデ。

 「いいや気にするな」

 このひと言で事足りる。3年の間に城下町人である俺と国王の親戚であるブローデは親友になっていた。


 「それより、どうやって上に行くんだ」

 四角い空間に入ったは良いがそれからどうすればいいのかわからない。


 「なに、このまま立っていればいいのさ」

 そう言ったきり黙るブローデ。俺は言われた通りにする。その時


 「うわっ何だこれ。浮遊感?」

 突如謎の浮遊感に襲われる。と思ったら足が地面から離れる。そして徐々に上へと上がっていく。


 「慌てないで。このまま身を委ねるんだ」

 ブローデは余裕の表情を崩さない。そう言われてもこの浮遊感は気持ち悪い。何とか気持ち悪さを我慢し始めて30秒後、突如体の上昇が止まり停滞する。そして目の前の壁が割れる。


 「よくおいでになられました。どうぞこちらへ」

 またもや低頭な相手。だがそこに緊張の面持ちはない。俺たちを迎え入れたのは、60歳後半と思われる白髪の男性。170センチ後半の身長にやせ細った体。世間一般だったらもうすぐ定年である。黒の燕尾服を着ており手には白色の手袋をはめている。まるで執事のようだが左胸に輝く数々の勲章がこの男性の半生を物語っている。恐らくとても有名な騎士だったのであろう。


 「ご案内ありがとうございます。ヴァイデリッヒ殿」

  ブローデが軽く頭を下げて燕尾服の男性、クルート・ヴァイデリッヒに感謝を述べる。

 「いいえ、これが今日の私の仕事ですので」

 

 俺たちがヴァイデリッヒに連れられてきたのはとある大きな扉の前。縦10メートル横5メートルはあるだろうか。とても人間の力では開けられなさそうである。


 「この扉の先に国王はられます。心の準備はよろしいですか」

 ヴァイデリッヒは主に俺の方を見て聞いてきた。それはそうか。ブローデにとって国王は親戚なのだ。今更緊張することはないだろう。


 「はい」

 なので俺が答える。


 「では、開きます」

 そう言いヴァイデリッヒは右腕を扉にかざす。一瞬彼の手元が光ったような気がするが気のせいだろうか。その時


 「うおっ」

 思わず声が漏れてしまった。ヴァイデリッヒが右手をかざした直後、目の前の巨大な扉は静かに内側へと開かれていった。


 「連れてまいりました、国王陛下」

 ヴァイデリッヒが国王陛下の前まで行き膝を着き頭を垂れる。後に続いてブローデも。さらに遅れて俺も続く。


 「楽にせよ」

 国王が言葉を発する。それに従い頭を挙げる。膝はついたままである。


 「下がってよい」

 俺たちにではない。ヴァイデリッヒは命に従い、後ろへと下がってしまう。つまり国王陛下に一番近いのは俺とブローデということになる。


 「まずは騎士団入団おめでとう」

 毎年恒例なのだろう。国王が淡々と言葉を述べていく。俺たちは膝を着いたまま話を聞き続ける。と言うか気が早い。俺は騎士団に入団するとは言っていない。


 「ところでブローデ」

 突然、国王がブローデに声を掛ける。

 

 「その男か、お前が親しい者というのは」

 そう言い国王が俺を見てくる。まるで品定めされているみたいで居心地が悪い。


 「はい、私の親友、ユーリです」


 「ユーリとやら、君の噂は聞いているよ。何でも帝高練に入学してから3年間、1対1の立ち合いでは相手の太刀を1度も受けなかったと。まさに天才、いや鬼才とも言える人物だと」

 国王からの突然の賛辞に戸惑ってしまう。なぜなら国王が言っていることの半分は誇張されているからだ。


 「お言葉ですが国王陛下、それはブローデの冗談です。私はブローデとの立ち合いでは1度も勝ったことがありませんから」

  事実、俺はブローデに勝ったことがない。俺の我流交じりの帝国剣術に対し、ブローデは代々続くアルドバーグ流の剣術を使ってくるのだ。才能だけではどうにもならない。


 「なるほど、だがブローデが認めるほどの男だ。いずれ騎士団を背負って立つことになるに違いない」


 「はい。ありがとうございます」


 「ブローデ。例の件、良いだろう。彼に案内してあげなさい」

 俺を置いてきぼりに話が進む。


 「ありがとうございます」


 「では行け」

 国王の一言でブローデは踵を返し、部屋を出て行く。俺も慌てて着いていく。なんだ、ブローデの表情がとても冷たく感じる。緊張していたのか?


 ブローデに連れてこられたのは俺たちをこの階まで押し上げてきた空間の前だった。これには名前があり、妖精のフェアリーゲートと言うらしい。確かに妖精にいたずらされた気分だった。


 「どこに行くんだ」

 「…」


 ブローデは答えようとしない。だが上着の胸ポケットから何かを取り出した。それは金色こんじきの鍵だった。それをおもむろに妖精の扉に軽く当てる。すると


 「開いた」

 音もなく壁が開いた。1度見ている光景だがやはりなれない。しかも今回は


 「おいこれ落ちないのか」

 妖精の扉を覗くとそこは10メートル四方の空間が開けていた。そこは前と同じである。だが一点だけ違うところが。


 「下が見えないんだけれど」

 下は暗くて見えない。恐らく100メートルはあるだろう。ここから落ちなければいけないのだろうか。生きて帰れるの?


 「ははっ心配しないで」

 ブローデはいつもの表情で笑う。少し安心した。


 「ほら、僕に続いて」

 そう言って何もない空間に足を踏み込む。俺も意を決して足を入れる。すると


 「うっぉおぅ浮いてる」

 先ほど上がってきた時と同じ浮遊感が俺の体を襲う。だが落ちない。その場に留まっているのである。


 「さぁ行こうか」

 静かに言うブローデ。表情はまた暗くなってしまった。


 「どこへ?」

 不安になり聞いてしまう。


 「上へさ」


 「うおっ何だか耳が痛い」

 恐らく経験したことのない高さまで来ているのだろう。体が強張る。


 「そうだね、地上600メートルにいるから」

 信じられないことを言う。聞き間違いか。


 「えっそんなにないだろ。王宮って」

 

 「目に見える部分はね。魔法によって見えないようにしている部分もあるんだ」

 衝撃の事実を淡々と述べられる。これが王族と平民の差か。そもそも魔法は治癒にしか使えなかったはず。王族秘蔵の魔法か何かか。


 「さぁ着いたよ」

 体の上昇が終わり、停滞する。その後目の前の壁が開かれる。


 「驚かないでね。って言っても無理か。着いてきて」

 ブローデに続き妖精の扉を出る。目の前には細長い通路が一本あるのみだった。その先には縦2メートル横1メートルほどの扉があった。


 「ここから先、君が信じてきた現実が壊れるような光景が広がっている」


 「それってどういう...」

 俺の返事も聞かず、金色の鍵を扉へ付ける。この扉も妖精の扉同様左右に分かれる。


 (なんだ?まぶしい)

 真っ先に目に飛び込んできたのは光だった。人工的なものではないが太陽のものでもない。まるで宝石のようにきれいな輝きだった。だんだん目が慣れてきて、部屋の様子が見えてくる。


 「何だこれ...」

 まず見えてきたのは青々とした空。ここは室内だったはずだ。それに川があり草木が生えている。中央には大きな湖がある。そして中央には光の正体が。


 「人?女の人だ。なんだ。どういうことだブローデ!」

 そこには20代前半だろうか。若い女性が浮いてるように見える。だが実際は球状の宝石の中に女性が入れられている。その入れ物が光輝いているのだ。


 「紹介するよ。僕の姉、アリーシャ・アルドバーグだ」

 ブローデの姉、アリーシャは白いワンピースを着ている。髪はブローデと同じ美しい金色のロングヘアで整った顔。身長170センチはあるだろうか。


 「やっと会えた。長かったよ。13年もかかった。すぐに出してあげるからね。ちょっと待ってて」

ブローデはおもむろに左脇に差していた剣を黒色のさやから抜き放つ。直径1メートル、赤色のつかに黒色のつば。刀身は銀色に輝いている。剣を構え、姉が入っている球状の宝石に叩き込む。湖はどうやら浅かったらしい。


 ギャーーンッ


 甲高い衝突音を鳴らしながら剣と宝石はぶつかる。続いて2回3回4回と続く。だが


 「なんでっ...なんで壊れないんだっ!」

 膝から崩れ落ちるブローデ。宝石は割れるどころかヒビ1つ付いていなかった。


 「どういうことだ。説明しろブローデ!」

 

普段は見せないような狂気を見せたブローデにただならぬ気配を感じ、問いかける。


 「僕の姉は、この王宮を維持するために魔力を生む石にされた。僕が5才の時に国王の使いが家に来てね。前任者の、僕の母親の魔力が尽きたから代わりの者が必要だと言ってね。それで魔力量が多かった姉が選ばれた」


 「何を言って…」


 「知っているかいユーリ、アヴァタイト帝国が戦った戦地には敵の亡骸の他に身元不明の女性の亡骸もあるって話」


 「それはっ」

 聞いたことがある。確か昔噂になった話だ。だがただの噂だったはずだ。


 「あれは真実だ。魔力は生まれつき女性しか持たないものだ。それを利用しようと王国と騎士団はある悪魔の実験に乗り出した。そしてそれを実現させた」


 「何を言っている」


 「魔力の抽出だよ。騎士団員は戦争に行く際、特殊な腕輪を渡される。同じように腕輪をした女性も一緒にね。騎士団員はその腕輪を介して魔力を吸収し、魔力を物質化し攻撃手段とする。魔力が無くなった女性がどうなるかは知っているね?使い捨てさ。ざっといえばこんなところか」


 「だから何なんだ」

 そう言いつつも言いたいことは分かる。だが否定する。


 「でも実際戦地についていく女性っていうのは本物じゃないんだ。あれは魔力で作られた偽物。問題はその偽物を作る方法だ」

 今、ブローデはこの世界の触れてはいけない部分を俺に話そうとしている。今止めれば日常に帰れる。面倒なのはごめんだ。だが


 「僕らの学校、帝国付属高等訓練校には3つの学科がある。1つは僕ら騎士学科。2つ目は治癒学科。3つ目が問題だ」

 

 3つ目、それは俺も名前だけは知っていた。登校初日には知らなかったので後日アクリアに聞いたのだ。


 「魔法工学科。主に帝国産業を支える技術を学ぶ学科だ。大半の学生は誰でも知っているような企業に就職する。でもね、特に優秀な生徒、魔法工学科筆頭だけは違うんだ」

 どういうことだ。筆頭だけが違う?


「ユーリ、考えたことはないかい。無傷で帰ってくるアヴァタイト帝国騎士団にヒーラーは必要なのかって」

 それはただの噂ではないのか。確かに騎士たちはほぼ無傷だ。でもそれは戦地でヒーラー部隊が治しているからだ。それに憧れて治癒学科の門を叩く女子も多い。アクリアもそうだ。


 「魔法工学科の筆頭は国王に呼ばれた日、重大な仕事を与えられる。それはある道具を生産すること。そしてその場には治癒学科筆頭の生徒も呼ばれる。道具の部品として」

 今年の治癒学科筆頭。ふざけるな。アイツじゃねーか


 「もちろん仕事を断れば消される。つまり引き受けざるを得ないんだ。そして治癒学科筆頭の生徒は道具となる。魔力を供給する道具、僕の姉のようにね」

 そう言って再びアリーシャを見つめる。


 「ユーリ、今なら間に合う。君の幼馴染、アクリアを救うんだ。全てを敵に回してでも」


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