表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カフェテラス  作者: 蒼
8/43

カフェテラス 7

昨夜は明け方まで眠れなくて、余程眠たそうな目をしていたのか

喫茶店のママさんに、昨日の休みに遊び過ぎたなって言われた。

寝過ぎただけですと、笑って返した。

何だか心が痛かった。





昨日の電話で吉永さんが言っていた薬品会社の牧村さんが

今日もいつも通りカウンターの一番左に座った。

ここは私がコーヒーを入れる場所に一番近いのでつい話しかけられてしまう。

吉永さんも空いてる時はこの席に座っているけど

牧村さんは昼ごはんを12時前に食べに来るので、最近は彼の指定席になりつつある。

ちょっと複雑でちょっと残念。

でもさすがに喫茶店にリザーブ席はないしね。





「香織ちゃん 今度どっかドライブ行かない?」

「え?私と・・・ですか?」

「この辺りの名所とか案内してくれないかと思ってさ。」


どうしよう。無下に断るのも悪いし

かといってそんなに簡単に言われても・・・


「あの・・・・・・」


「ちょっと牧村さん、うちの女の子、許可なく誘っちゃだめよ。ここは飲み屋じゃないんだから。」


ママさんが助け舟を出してくれた。

最後の「飲み屋じゃない」ってところで心臓がどくんと跳ねた。


「香織ちゃん誘うときは、ちゃんと私に許可とってからね。」


そういって愛想よく笑った。さすが、だてに年齢は重ねてない。

ママさんは子供さんがまだ小学生だけど今40代半ば。

ご主人はよそで会社勤めをしていて、ここはほとんどママさんの趣味みたいなお店。

それにしてもこの店、よそに比べて流行っている方だと思う。

この喫茶店は料理が美味しい事が評判で、お客さんのほとんどが食事目当てだ。

もっとも食事では儲けがあまりないとママさんはこぼしていたけど。

私もお昼はその日のランチを賄いとしてタダで頂くのだけど、

コックさんの料理はどれも本当に美味しい。

なによりその分食費が浮いてるので助かっている。

ここのコックさんは以前、どこか有名なお店で働いていたらしいけど、

なにやら訳ありでここにいるらしい。

どんな訳なのかは詳しく聞いたことが無いけど。

夕方も早くお店を閉めるみたいで私も5時にはあがれる。

朝はモーニングの時間帯で結構忙しいので8時半くらいには出るようにしてる。

ここは私にとって色々と好都合な職場なのだ。



「牧村さん 私 地元の人じゃないし車乗らないから、案内は無理かも。なのでごめんなさい。」


ちゃんと返事を返さないと相手に失礼になるかなと思ってそう言った。


「いいよ。気にしないでよね。」


牧村さんは大丈夫だからと笑っていた。きっと悪い人ではないと思う。



「よぉ。ランチとコーヒーよろしく。」

「はーい。」


大体定刻どおりに吉永さんが食事にやってきた。

カウンターの席が埋まっていたのでテーブル席に座った。


「お待たせしました。今日はハンバーグだよ。」

「サンキュ。」


暫くして牧村さんは席を立って会計を済ませるため私に声をかけた。


「さっきの事気にしなくていいから。ていうか今度はママの許可とるからさ。」


そう言って屈託なく笑って、また明日ねと帰って行った。



今の、聞いてたよね・・・吉永さん


きっと今晩 何のことか聞かれるんだろうなぁ・・・なんて考えていたら


「香織ちゃん。コーヒー」


ほらね、機嫌の悪い声がする。ほんとにわかりやすいなぁ。


「お待たせでした。コーヒーです。」

「・・・・・・・・あいつ何か言ってきたの?」


小さな声だけど私にはちゃんと聞こえたよ。


「あとで話すから。」

「ん。」





その日は月曜日のせいか、夜のバイトは暇で

早い時間はお客さんもまったく来なくって

そして京子さんは今日からもう店には出ないそうだ。

でもそれよりもママの交代劇の真相がわかって商売どころではない。

思った通り、というか成程というか、やっぱりというか

オーナーの新しい彼女は、なつみさんだった。

何となくそうじゃないかなとは思っていたから大して驚きはなかった。


「色々迷惑かけると思うけど、私が店任されることになっちゃったみたいで・・・。これからもよろしくね。」


なつみさんは いつも手入れの行き届いたロングストレートの黒髪を耳にかけながらみんなに言った。


「でもさ、いつからオーナーとそんな関係になってたのぉ?」


興味深そうにまきちゃんが聞いてみた。私も知りたいかも・・・。


「最近だよ。まだそんな経ってない。ママとはだいぶ前から上手くいってなかったらしいし。」

「ママはあなたでしょーが。」

「私の事ママって呼びにくかったら今までどおりなつみでいいからね。」

「だめだよ。お客さんの前ではちゃんとママって呼ぶから心配しないでね。」


やっぱりまきちゃんは気が利く子だな。示しつかなくなるからね。


それからもうひとつの事実。オーナーはやはり結婚しているそうだ。

子供も二人いるらしいけど、なつみさんの話では夫婦仲は冷め切っているという。

私はそんな話を聞きながらオーナーのその言葉を信じているなつみさんの事が少し心配だった。

本当の事は正直わからないんじゃないのかなって。



「今日はまた暇そうだな。ぼったくられそう。」


入ってくるなり吉永さんはそう悪態をついた。


「いらっしゃいませ。ってそんな酷い店じゃありません。」


「もう聞いたかな?今日から私がママでね。京子ママ辞めたんだぁ。

でもちゃんと今までどおり来てくださいね。」


なつみママがおしぼりを持って挨拶に行ったから私は敢えて傍には行かなかった。

早く隣に座りたいけどなつみさんがママになって最初のお客さんな訳だし・・・。

仕方なく厨房に入ってチャームのチョコをつまんでいると

暫くしてカーテンが開いてなつみママが顔を出した。


「呼ばれてるよ。ゆかちゃん、ご指名。」

「はい。今出ます。」


気がつくと他にも一組お客さんが入っていた。

厨房に入ると気づかないから注意してないといけないな。




「ゆかちゃん、ちょっとこっちに来なさい。」

「何で命令口調なのさ?」

「で・・・?」

「何でしょうか?」


何を聞かれたのかはわかっていたけどわざとはぐらかしてやった。


「何言われた?あいつに」

「あいつって?」

「名前知らないじゃん。」


これ以上はまずいな。今にも怒り出して帰っちゃいそう。

それは・・・嫌だもん。


「どっか行こってさ。車でね。ドライブ」

「それで?行くの?」

「私より先にママさんがお断りしちゃったよ。」


私が呆れたように両手をあげると吉永さんはすごく近くに顔を近づけて耳元で囁いた。


「ママさんが断らなかったら行ったんだ。」


だから・・・・顔近いよ。

それに何か変だよ。いつもの吉永さんと違う気がする。



「行かないよ。私より先にって言ったじゃん。」

「ほんとか?」

「もし行ったとしたら?吉永さんまたやきもち妬いてくれる?」


つい雰囲気に呑まれて馬鹿なこと言ってしまった。後悔した。



「・・・・・まじで嫌かも。他の男の車の助手席に乗られるの。」


ほらね。やっぱり困ってる。

そりゃそうだよね。私彼女でも何でもないし。

でも今日の私はもう止められなくなってる。


お願いだから・・・・・



「なんで?吉永さんの車にも乗るし、問題ないでしょ。」

「意地悪だな。今日は 」



お願いだから・・・・・



「そんなことないよ。吉永さんがはっきりしないからだよ。」



私は一言が欲しいだけなの・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・帰り・・・一緒に帰ろ。待ってるから・・・・・・」

「・・・うん、暇だから早く帰れるかもしんないし・・・・・」



とうとう言ってしまった。

自分の心拍数が上がってるのがわかる。

私、どうしちゃったんだろう。

浅ましい女に見えるかもしれない。

でも吉永さんの気持ちを確かめたかったから。

どうしても知りたかったから。



それからもやっぱり店は暇で

なつみママに早く帰っていいかと聞いたら


「大丈夫だよ。吉永さんと帰るの?」

「うん。送ってくれるって・・・・・言ってるから。」

「そう・・・お疲れ様。また次ね。今度は水曜日だよね。」

「あ はい。お先に失礼します。」


なつみママはきっと、私達二人の空気に気がついてると思った。



駐車場までずっと手を繋いで歩いた。

もう後戻りできない。

車に乗ってからすぐ吉永さんに腕をつかまれてそのまま胸の中に引っ張られた。


「どうして?何も言わないんだね。・・・・・ずるいよ。」


きつく抱きしめられた腕の中で私は小さな声で呟いた。

私の鼓動は彼に伝わっているだろう。

ほんの少しの間の後、彼は呟いた。


「・・・・・・・お前が好きだから・・・・もういじめるな。」


そういって優しくキスをしてくれた。



・・・・・・やっと言ってくれたね・・・・・・・



本当に満たされた気持ちってこういうんだなってそのとき思った。


「ごめんね。もう・・・意地悪しない・・・・」


吉永さんへの想いが溢れでてきてそれが涙に形をかえていく。


「泣かないで・・・・ごめんな」


何に対するごめんなのか分かってる。でも もういい。



「吉永さんの事好きになりすぎて、涙出ちゃった・・・・・」




「・・・・どっか いこっか・・・・・・」








その日私は吉永さんに抱かれた。

何度も好きだと言ってくれて、その度に泣いてしまったけど

優しく涙を拭ってくれて大事そうに抱きしめてくれた。

幸せだった。

たとえ何も約束できない関係でも

私は本当に全身で喜びを感じていた。


でもやっぱり夜が明ける前には吉永さんは帰らなければならなくって・・・。

彼には帰るべき場所がある。

大丈夫。わかってる・・・。


アパートまで送ってもらって車を降りかけた時にもう一度キスした。


「ありがと。今から帰ったらそのまま出勤じゃない?」

「そんなの気にするな。じゃあな」



走り去った車をしばらく見送った。


朝晩が涼しくなっていた。




もうすぐ 秋になるんだな・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ