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カフェテラス  作者: 蒼
6/43

カフェテラス 5

「・・・・・だめだよ・・・・・」


「どして?お金稼ぎたいとか?」

「そういうんじゃなくって・・・そりゃ確かに今の収入助かるけど」

「やっぱ無理か。元々引きずり込んだの俺だもんな。」

「ていうか、オープンしたばっかりなのに、京子ママにだってそんないきなり辞めますとは・・・言いにくいよ。」








「そりゃそうだろうな。ゆかはかなり店に馴染んでるみたいだし お客さんもついてるんだろ?」

「それって、いやみ?」

「それって、やきもち」


なんか可笑しくなって二人で笑った。

笑えるシチュエーションとは程遠いのに・・・。


「明日も仕事だし、もう帰ろうか?」

「うん。明日も会えるしね。昼ごはん食べにくるんでしょ?」

「あぁ。・・・って もう今日だから後ですぐ会える 」


そう言ってクスリと笑って、そのまま家まで送ってくれた。

それ以上、何も言わずに。



家についたのは夜中の3時過ぎ。

吉永さんの家まではここから40分くらいかかると言っていた。

あんまり眠る時間ないだろうなぁ。

そんな事ぼんやり考えながら

さっき吉永さんが言った事を思い出していた。


もう少しで自分を抑えられなくなりそうだった。

吉永さんの言葉にちゃんとした答えができなかった。

私が男の人と話すのが嫌だといっていたのが無性に嬉しかった。

自分では束縛されるのは嫌いな方だと思っていたけど

実はそういうのに結構喜び感じるタイプだったみたい。

でも夜のバイト辞めたくないのも事実だった。

バイト始めてから、確かに収入は増えたけど、

化粧品とか服とかやっぱり必要だし、日々の生活もちょっぴり贅沢してしまう。

例えば夕食ひとつとってみても、前まではなるべく自炊してたのに

最近は夜働いてる事で時間がとれなくて、

つい店の子と外で、なんてことが増えてた。

だからといって元の生活に戻れなくはない。

今までも贅沢さえしなければ生活に別段困りはしなかった。



だけど吉永さんは、私のことが好きだとか、付き合おうとか

そういう事を言った訳じゃない。

立場上、簡単には言えないのかもしれないけど・・・。




そろそろ彼も家に着いた頃だろう。

今はこれ以上考えてもどうにもならない。


間もなく出勤しなくてはいけない昼の仕事のことも考えて

すでに冴えてしまった目を無理やりに瞑った。







「いらっしゃいませ。」

「ランチと、あとコーヒーね」



何事もなかったように、

吉永さんはランチタイムにやってきた。


「今日のランチはポークピカタだよ。吉永さん嫌いでしょ。違うのにしたら?」

「じゃ、カツカレーご飯大盛り!」

「はーい 」



「今日は外暑かったでしょ。私は一日中エアコンの中だからいいけど、アイスコーヒーにしとく?」 「うーん。どうしよかな。」

「実はアイスの粉、今挽きたてなんだよね。香りいいよ。」

「んじゃ、アイスにしとこうか。」

「そうしなよ。」



何も変わらない。

いつもどおりの会話が繰り広げられていく。

会計の時にそっと顔を近づけて、小さな声で囁いた。


「昨日はありがと。寝てないでしょ。」

「今からどっかで寝る。車の中で。くくっ」

「あはは、そうなんだ」

「じゃ、いくね。」

「うん。ありがとうございました。」



そう言って吉永さんは仕事に戻っていった。

本当にどこかで寝るのかな。

営業さんの特権だね。

私も今日は夜の仕事は休みだし、早く帰って寝よう。

たまには料理でもしてみますか。

そんなこと考えてたら、帰り間際に携帯が鳴った。




「もしもし、香織?仕事終わった?」

「あっ、まこちゃん、どした?」

「最近全然会ってないから、久しぶりにご飯でもどうかな?」


先輩からだった。

私は彼女の事をまこちゃんと呼んでいる。


「いいよ。予定もないし、迎えに来てくれる?」


免許は持っていても、車は持ってない私。


「今から行く。あと20分くらい。待ってて。」

「わかったぁ。」




二人で良く行くのはファミレス。

何時間居座っても文句いわれないから。

夜の仕事してからはお兄さんたちがあちこちの店にご飯に連れて行ってくれるので

こういう庶民的な雰囲気自体が久しぶり。

でもやっぱり自分でお金払うほうが何だか気が楽だな。

ハンバーグと牡蠣フライのセットを二人で頼んで

食後に煮詰まったドリンクバーのコーヒーを飲んだ。

コーヒーの味だけは分かるつもりなので、

次はぜひ紅茶をおかわりしようと考えていたところ

まこちゃんがふと思い出したかのようにポツリと言った。


「最近あまり家にいないんだって?隆志から連絡あったよ。」


私には連絡ひとつよこさないくせに・・・。

会った時も何も言わないじゃん。


「うん。バイトしてるんだ。」

「バイトって、何の?」

「スナックだよ。知り合いの人が紹介してくれて。」

「えっ?そんな大事な事、隆志に相談しなかったの?」

「必要ないよ。付き合ってるかどうかも疑問だもん。」

「またそんなこと・・・最近変だってこぼしてたよ。それに・・・・。」

「変な店じゃないよ。普通にお酒出して話するだけだし。」

「でも・・・隆志には言った方がいいよ。あいつ切れると結構怖いよ。」


確かにちょっと怖いかも。

昔私が男友達とドライブしただけで、その人の会社に電話して

相手を呼び出して文句言ってたな。

でもその時はまだ私たちが上手くいってた時の話

今はもう・・・。


「それよりまこちゃんは?彼氏とはどうなった?」

「あは。それがさ、別れようって言われちゃってさ」

「えっ、そうなの?どうするの?」

「なんかすでに他の女いるっぽいし、別れてあげたよ」

「そっかぁ。」

「不思議とそんなに悲しくなかったよ。でも一晩は泣いたかな」

「何もしてあげられなくって、ごめんね」

「いいよー。でもたまにはご飯とか付き合ったりしてよね」

「もっちろん!」


しばらく二人で色々近況を話してから家に帰った。


もし今、私が隆志と別れれば、

まこちゃんと付き合うのかもしれない。

その方がみんなにとって最良の選択になるのかな。

なんて一人悩んでいた。


その時家の電話が鳴った。

隆志からだった。

今から行くからと言われ、どうしてまた今日に限ってと思った。

溜息がいくつかこぼれて、程なくして隆志がやってきた。

相変わらずのことだけど特に会話はない。

いつもの様にいつもの場所に座って、テレビ見ながらお菓子をつまんでる。


「ねえ。まこちゃん、彼氏と別れたって知ってた?」

「そうらしいな。」

「女いたんだって。浮気じゃんねー 」

「仕方ないんじゃねーの 」

「でもさ・・・」



そこまで言った私の肩を抱き寄せて、まるでそれが合図かの様にキスをした。

いつものパターン。このまま抱かれて、彼が満足すると帰って行く。

もう会話もなくなったね。

でも私の体は拒否しない。

彼の慣れた行為にきちんと反応してしまう。

なんでだろ。どうして受け入れちゃうんだろうな。



本当はもっとたくさん話したいのに。一緒にどっか遊びに行ったりしたいのに。

最近はいつもこれだけ・・・。

そのくせまこちゃんには私のこと愚痴ってるなんて

長く付き合っているのに、隆志のことがわからない。


その夜も隆志にバイトしてることは言えなかった。

私が疲れて眠ってしまった間に帰ってしまっていたから。




その日は土曜日で、案の定店は忙しくて、だけど珍しくママが出勤してなかった。


「ママ、風邪かなぁ?」

「遅くなるけど出てくるっていってたよ。それよりゆかちゃん、悪いけど何か作って。つきだしの小鉢がなくなったぁ。」

「ん、いいけど何がいい?」

「たしか鶏肉あったから、バターで焼いて出そうか」

「了解!」


私は厨房でフライパンの中の鶏肉を炒めていた。

表は華麗な世界でも ここは普通の台所。

でも一息つくのに丁度いいスペースだ。


「ちょっとヤニ切れたぁ」


えみちゃんだ。

ここはみんなが煙草を吸う場所でもある。

実は私も煙草は吸うんだけど、隆志が嫌がるので本数は少なめにしていた。

お昼のママさんにも、このことは内緒にしてる。


「今日お客さん途切れないね。きっつーい 」

「えみちゃん 毎日だから大変だよね。」

「でも、平日は暇だし、楽と言えば楽かな。起きるの夕方だし 」

「一人暮らし?」

「今はね。でも、もうすぐ彼氏出てくるから、そしたら二人暮らし 」

「よかったじゃん。」

「まあね。私、家出してるから行くとこなくってさ。」

「親が探してるんじゃないの?」

「さあ、居場所は知ってるみたいだけど迎えにも来ないし。」


みんな、いろんな事抱えながら生きてる・・・。


カーテンで仕切られたその厨房にまきちゃんが飛び込んできた。


「外でてよー。忙しいんだからさ。なつみさんあがる時間だし。」


「はーい!」


二人で揃って返事して、私は小鉢を持って、

えみちゃんは口をゆすいでから一緒に店の方へ出た。

確かにお客さん、また増えてるよ。

なつみさんは忙しい店内が気になるのか帰ることができないらしく、残って接客をしてくれた。

これも残業とかいうのかな?

今日はラストも何時になることやら。

それにしても ママどうしたんだろ・・・。





お客さんが随分引けた頃、なつみさんは申し訳なさそうに帰って行き

それと入れ違いにママが出勤した。


「おはよ。遅くなってごめんよぉ 」

「忙しかったよぉ 」


えみちゃんが甘えるように言った。

ママはもう一度ごめんと言って、お客さんの席に座って相手を始めた。

いつ見ても綺麗な人で女性の私が見てもうっとりする位。

スタイルもいいし、髪も綺麗に巻いてある。

一度聞いてみたら毎日美容院へ行くと言ってた。

芸能人みたいって私が言うと、素敵な笑顔で笑ってくれた。

でも今日のママは・・・何だか元気がないような気がする。

気のせいかな?





その日お店が閉まってから、ママが何かお詫びに奢るというので

みんなで焼肉屋さんに行く事になった。

正直なところ、お腹がとても空いていたのでうれしかった。

でもまさかその席で、とんでもないことを聞かされるとは

誰も知る由もなくて・・・。






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