カフェテラス 37
「まこちゃんの方だったか」
「香織・・・」
「久し振りだね、まこちゃん」
アパートの傍の公園のベンチに二人並んで座った。
まこちゃんが何も言わないから私から話し掛けた。
「どっちかだと思ってた。だって私の誕生日知ってて、好きな花まで知ってるなんて、隆志かまこちゃんぐらいしか思いつかない」
「ばれてたか。それなら連絡ぐらいしてよね」
やっと口を開いたまこちゃんは苦笑いでそう言った。
久し振りに会う彼女は、髪を短く切っててちょっとボーイッシュな感じ。
「毎年この日がくるとね、香織に悪いことしたって思って。あんなに偉そうなこと言ったのにさ。私ね、あの後、隆志と・・・・・」
遠慮がちに話す彼女、下を向いてるからその表情はわからない。
「あれから隆志に会いに行ってね。私、あの時、あんたから別れたって聞いて、最初は香織に腹が立ってたんだけど、そういう私も隆志の事諦められなくて、私だって同じじゃんって思ってさ。恋は盲目って言うけどさ、人を好きになる時ってほんと、何も見えなくなるんだよね。でね、私、香織の代わりで構わないからって言ったの。その時は隆志も少しなげやりになってたから・・・結局そのまま付き合いだして・・・」
そう言えば隆志、昔からショートカットの女が好きだって言ってたっけ。
きっとまこちゃん、それで髪切ったんだね。
「・・・・・・お花、最初は隆志が用意したんだよ」
「隆志が?」
「ちょうど別れた頃だったでしょ。香織の誕生日」
そういえばそうだったような気がするけど、正直あの頃は吉永さんの事でいっぱいいっぱいだったから覚えてない。
でも、お花が来たのは確か別れた次の年だった。
「誕生日、何もしてやってなかったからって隆志が用意しててさ。でも・・・・・・・私が捨てたの。そのお花」
「・・・そう」
「ごめん。でも嫌だったんだよね。代わりでいいとは言ったけど、何で別れた女に花あげるのって どうして私じゃ駄目なのって腹が立って、隆志に言ったら、ごめんなって、悪かったってそう言われて。だからさ、毎年こっそりとね、今度は私がさ」
「もしかしてまこちゃん、私が奥さんのいる人と付き合ってるって、隆志に言ってないの?」
「言わないよ。あの時もいったじゃん。隆志 暴れるよって。それにそんなこと言ったら余計に私に不利かなと思って。隆志のことだから力ずくであんた、取り戻しかねないしね」
その言葉に二人でくすくすと笑ってしまった。あり得るねって。
昔みたいに仲良く笑った。
「香織は?どうなった?例の人とは」
「まこちゃんのいう通りだった。やっぱり奥さん、傷つけちゃった」
「今も付き合ってるの?その人と・・・・」
「別れたよ。でも後悔はしてない。本当に好きだったから」
「不倫でも恋愛には違いないもんね。あの時はごめんね」
「いいよ。もういい想い出になってるから」
「そっか」
「隆志の事も、もうとっくに想い出になってるけどね」
「・・・・・じゃあ白状しちゃうけどさ、実は私ね・・・・・」
まこちゃんは左手を私の目の高さまで持ってきた。
「うぇー!結婚しちゃったの?まこちゃん」
「そのおかしな驚き方やめなさいっての。ふふ、去年ね」
「その・・・相手は隆志でいいんだよね?」
「私はこれでも一途なんだからさ。当たり前でしょーが」
前と変わらないまこちゃん。私は本当に嬉しくなって泣いてしまった。
隆志とまこちゃんなら絶対に素敵な夫婦になれると思う。
鼻水まで出ちゃった私にティッシュを渡しながら
「やっぱあんた泣き虫だよね。ほんと変わんないわ」
まこちゃんに抱きついて泣いた。
また会えた嬉しさとまこちゃんの幸せで胸がいっぱいだった。
もうここに住んでないことをまこちゃんに伝えて、ブルースターを受け取った。
今年で終わりにしてねって言ったら、まこちゃんはちょっと残念そうに
持って行くには遠いから来年は送るかなって言ってた。
携帯の番号とメルアドを交換してからまこちゃんと別れた。
夫婦喧嘩しても電話しないでよって言ったらまこちゃんは笑ってた。
その時分かったんだけど、随分前の無言電話はどうやら隆志だったみたいで
まこちゃんがそれに気付いて携帯を風呂場に沈めたらしい。
まこちゃんらしいなぁと思った。
いつでもはっきり自分を持ってる彼女。
やっぱり素敵な私の先輩。
うちに帰るとお父さんは私にケーキを用意してて
でもさすがにデコレーションではなくて
お母さんがこれじゃ蝋燭一本しか立たないねって笑ってた。
その夜もお父さんが飲もう飲もうというので付き合ってたけど
さすがに色々あった一日に、先に潰れてしまったのは私の方だった。




