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カフェテラス  作者: 蒼
36/43

カフェテラス 35

ナミさんは私に怒りをぶつける事もなく

ただ今から会いたいと言われて

駅の近くの喫茶店で待ち合わせして会うことになった。

考えてみたら私、これって結構大胆な事してるんだよね。



「ごめんなさい。待った?」


先に着いてた私に、ナミさんは申し訳なさそうに言った。

そんな彼女は相変わらずとても綺麗でお洒落で

同性でありながらもつい見惚れてしまう。


「いえ、私も今ついたところです」


ナミさんはミルクティを、私はコーヒーをオーダーした。


「今日は寒いね。どっかお出かけだったの?」

「はい・・・ちょっと」

「あそこのママさん連絡先教えてくれないんだもん。私そんなに怪しいかな?」


そんなナミさんの言葉に思わずクスッと笑ってしまって

それを見たナミさんも一緒に笑ってた。

何か変な感じ。だってどう見ても本妻と元不倫相手って感じじゃない。



「私ね、達也と別れようかと思って・・・・・今更だけど」

「あの・・・・・私と吉永さん・・・・ご主人とは・・・・」

「付き合ってたのは聞いた。別れたのも何となくだけど・・・・」


まさか、吉永さん全部話したの?


「本当に・・・・・・申し訳ありませんでした」

「あなただけが悪いわけじゃない。一番悪いのは達也だから。それよりかおりさんともう一度話したくて。聞いてくれる?」

「・・・・・はい」


私はとりあえず黙って奥さんの話を聞くことにした。

どんなに罵倒されたって仕方ない。


「私たちね、学生の頃から付き合っててね。若かったし、親の反対なんて押し切って結婚したんだ。だから私、親に勘当されててね」


ナミさんはミルクティを時々口に運びながら続けた。


「達也の親とも、私うまくいかなくて・・・・・行くところなんてなくってさ。正直、達也しか頼れなくって・・・でもほら、あんなでしょ。もう参っちゃって」



・・・やっぱり私のせいだよね・・・



「あなたの前にも、実は一度あったの。その子とはすぐに別れたみたいだけど」

「そうなんですか?」

「その時はもうどうしていいかわからなくって、泣くことしかできなくって・・・」


吉永さんが前にも浮気してたなんて知らなかった。

確かにわざわざ新たな浮気相手に言う事でもないんだろうけど。

でも私も同罪であることは紛れも無い事実。

心から申し訳なく思った。


「私をお店に呼んでくれたの、かおりさんなんだって?」

「はい、すいません。一度会ってみたくなって・・・」

「あの時に気がついたの。達也見てたらわかる。挙動不審ってやつ?」

「確かに・・・・・そうだったかも・・・・・」

「でもね、あなたと会って思ったんだ。この子私に似てるなって。怒らないでね?もしかして友達になれたかもって思ってね。まあ状況から考えて無理なんだけど・・・」

「私も・・・実は私も初めてお会いしたときそう思いました」

「え?そうなの?ふふ、そっかぁ」


ほんとにあの時そう思った。

立場が違えばきっと仲良くできたのにって。


「でね、私から達也に、あなたと一緒になりたいならって、別れ話何回もしたんだけどね。その時はやっぱり正直、あなたの事恨んだこともあった。ちょっとだけね。だから耐えられなくって・・・他の女性と私を共有するっていう事がね。だけど絶対に離婚だけはしないって言うんだもん。ほんと呆れた人。でもそう言われると何だか許してしまうんだよね。馬鹿みたい」


それはきっと、ナミさんも吉永さんを愛してるから。


「私ね、子供出来にくいらしくって・・・・・病院もあちこちまわって。達也は子供いなくってもいいって言ってくれたんだけど、子供ができたらあの人も、少しは落ち着くかなって思ってね。結構、負い目になってたんだよね。だからさすがに今回は堪えたなぁ」


まさか京子さんの事・・・・・


ナミさんはメニューを手にとって、まだ時間大丈夫?と訪ねた。

私が頷くと、ケーキと紅茶を二つずつ注文して話を続けた。


「私、結婚も早かったからあんまり友達もいないし、近所の奥さんは子供を通しで知り合いになったりするみたいで。働きに出ようとしたら達也が嫌がるしね。家にいて欲しいとか何とか言って。ひめがきてからはちょっとだけ癒されたかな?あ、ひめってね、猫がいるの」


知ってたけど知らない振りをした。その方がいいかなと思った。


「ひめね、ほんと可愛いんだー。時々脱走するけどちゃんと帰ってくるの。

まるで誰かさんと一緒。でも今度の家出は長いんだよね。毎日近所探すんだけど帰って来なくて・・・もしかして事故にでも遭ってないかって心配で。達也も一緒に探してはくれてたけど最後は結局、また新しい子買ってやるからって。そういうんじゃないのに・・・」


ケーキをつつきながら哀しそうな顔をするナミさん。

吉永さんにはわからないんだろうか。

この人にとってのひめちゃんの価値。

何だかとっても腹が立って仕方ない。


「日曜日にね、気晴らしに買い物でも行こうかなって思ってたのに、達也がどっか出掛けちゃって。私、電車で一人で出たんだけど・・・・・あ、 私 車の免許持ってないからさ。そしたら何となく、ひめを買ったペットショップに行っちゃってて・・・・・戻ってるわけもないのにね」


ひめちゃん・・・どこいったんだろう。私も一緒に探したくなる。


「そしたらね、ひめじゃなくって達也がいたんだよね。もしかして私に新しい猫買ってくれるつもりでここに来たのかなって、そう思ってたら・・・・・知らない子供と手繋いでて、横には知らない女の人でしょ。仲良く三人で手繋いでるの。もう吃驚しちゃって・・・」


きっと京子さんだ。


「その子供肩車して、わんちゃん見せてた。あんなに楽しそうな達也 見たことないなってしばらく見てて、まぁ正確には動けなかったんだけど。その子が気に入ったわんちゃんがいてね。達也が買ってあげてた。あの人またお義母さんにお金貰ったんだなぁって。犬って高いのよ、結構」


罪悪感でいっぱいだった。ナミさんはきっとそんなつもりじゃないとは思うけど。

私も吉永さんには結構なお金を遣わせてるはず。

だけど今はそれよりなにより・・・・・



「出口で私にばったり。ドラマみたいでしょ。一緒にいた人なんて、私を見ても無反応なんだけどさ。達也も今回ばかりは嘘もつけないしね。でも私、そのまま何も言わないで帰ったの。結局逃げたんだよね。現場押さえたら別れられると思ってたけど、案外しがみついてたのは私なのかも」


ナミさんは今、私に本音で話してくれてる。

彼女とただの友達だったら、こんな時なんて言うんだろう。

一緒に怒ったり泣いたりできたかもしれない。

だけど私にそんな権利なんてない。

この人を傷つけた人間のひとりなのだから。


「案の定、帰ってきてからただの友達だって言ってたけどね。友達の子供にあんな高価なものってあげたりするのかなって。実際あの女性と何かあるかどうかわからないけど。

もしかしたら達也の子かもしれないとか思って聞いてみたけど、それだけは絶対無いからって言ってた。でもそれも本当なのかどうかわからないしね。もう疲れちゃって・・・いろんな事考えるのが面倒で・・・」

「あの・・・その子は吉永さんの子じゃありません」

「本当に?知ってるの?あの人の事」


何か言えば彼女を傷つけてしまいそうで、ずっと黙っていたけれど

それだけはどうしても否定しておきたかったから。


「はい。知ってます。だからそれは絶対ないです」

「そう・・・・・そうなんだ。ちょっと楽になった。教えてくれてありがとう」


恥ずかしさでいっぱいだった。

彼女に責められることはあっても、ありがとうなどと言って貰える人間じゃない。

私の罪は消えない。


「私たちね、実はもう別居してるの」


かなり驚いた。まさかそこまでになってるとは思ってなかった。


「・・・・・・別居って・・・・・・」

「私が家を出たの。もう無理だと思って。それにひめも帰ってこないし」


ナミさんはとても悲しそうで・・・・・

私と吉永さんが付き合っていた時もきっと辛かっただろう。

思わず泣きそうになって、でも私が泣くのはおかしいからと思って堪えた。


「今・・・・・どちらに?ご実家ですか?」

「家には帰れない。それ見たことかって言われるの嫌だし。かと言って行くところも無くて。だから思い切って初めて一人暮らししてみたの」


その時のナミさんはまるで冒険でもしているかのように、ちょっとだけ楽しそうに、

アパートを借りる時の話をしてくれた。

何もかもが初めてだったと、自分は世間知らずだったって言ってた。


「私のへそくりほとんどなくなっちゃった。お金かかるんだね」

「はい。結構かかります。光熱費とかもいるし」

「かおりさんも一人暮らしなんだ」


吉永さんもさすがにそこまでは話してなかったみたい。

言わないほうが良かったかなぁ。ちょっと後悔。


「仕事も始めたの。アルバイトだけどね」

「あの・・・・・今日はお仕事は・・・」

「さっき丁度終わったところだったから。いいタイミングだったの」


安心した。私のせいでわざわざ仕事抜けられたりしたら困る。


「何だか長話してごめんなさいね」

「いえ。大丈夫です」

「あなたに会いたかったのはね、謝りたかったから」

「え?」

「私がもっと早く決心してたら、あなたと達也を一緒にしてあげられたかもしれない」


何も言葉が出なかった。どうしてそんなこと。


「それにかおりさんの淹れたコーヒー美味しかったから、もう一度飲みたくって」


ナミさんはそう言って綺麗な笑顔を私に向けた。この人は本当に心の深い人だ。

堪えていた涙が溢れてきて慌ててハンカチでそれを拭った。


「達也は本当にあなたのこと好きだったと思うよ」

「そんなこと・・・・・ないです。私、振られたんです。彼に」

「そうだったの?私 てっきり・・・」


ナミさんは、私が離婚しない奥さんに業を煮やしたと思ってたらしい。


「結局二人とも、彼女に負けたってことか」

「私と奥さんは違います。吉永さんはいつも奥さんの事大事に思ってました。 私が言うのはおかしいかもしれませんが・・・・・」

「私もかおりさんも同じよ。紙切れ一枚分だけしか違わない。戦友ってとこかな」


そんな奥さんの言葉に、私は続けて言った。


「じゃあ今だけ、友達として話させてもらってもいいですか?」

「え?」

「付き合い始めて最初に彼に釘刺されました。奥さんとは絶対に別れないって。吉永さん言ってました。みんなに反対されて俺が無理やり嫁にしたんだって。だから実家に返すなんてできないって。でもそれだけじゃなくって、私、色々奥さんの事彼に聞いたんです。最初はどんな人なのか知りたくって。でも聞いてるといつだって思い知らされて・・・この人は奥さんを愛してるんだなって。だから・・・・・」


奥さんは私の言葉を黙って聞いてくれた。

私の想いは届いてるだろうか。


「かおりさん、ありがとう」


ナミさんは私の言葉を静かに止めた。


「でも・・・もう無理なの。私、疲れた」


私は涙を止められず、こんな場所である事に気付いて思わず顔を下に向けた。

こんなことになったのは私にも責任がある。

私がとやかく言うことなんかできないんだ。泣いたってもうどうにもならない。

やっと顔をあげた私にナミさんは言った。


「かおりさん、私たち友達になれるかな・・・・・やっぱり無理?」

「奥さん・・・」

「那美でいいよ。また電話してもいい?」

「はい。でも・・・・・」


大事な事を忘れていた。那美さんと話すうちにすっかりと・・・・・


「この携帯、今日までしか繋がらないんです」

「携帯、変えるの?」

「はい、今から。だから私から奥・・・・・那美さんに電話します。番号教えますから」

「そっか。じゃまたお話できるね」


那美さんは必ずねと約束して帰っていった。

友達か・・・・・変だけど、すっごく変だけど

でも私は彼女の事がもう大好きになってた。



それから駅の近くのショップで携帯を買い換えて電車の時刻を見てベンチに座った。

もうすぐ電車が来る。

私はその間に早速、那美さんに電話して新しい番号を教えた。

あと恵理子さんにも電話番号と連絡先を教えた。

彼女に教えておけばまきちゃんにも伝わるだろうし。

きっと遅いって待ってるだろうな。とっくに荷物も届いてるはずだし。

電車が入ってきて私はそれに乗り込んだ。

もうすっかり辺りは暗くなってて、窓を見ても何も見えない。




ごめんね・・・・・ノブさん・・・・・



シチュー 作ってあげられなくて・・・・・





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