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カフェテラス  作者: 蒼
35/43

カフェテラス 34

次の日の朝、私はいつものように

朝食のパンにバターを塗って、ハムエッグにサラダを用意して

コーヒーを淹れてから、寝起きの悪いノブさんに話しかけた。


「あのぅ、今日一日有給欲しいんですが、だめですか?社長」

「いいけど・・・どこ行くんだ?」

「んっとねー、美容院と買い物とあと・・・・・」

「髪、切るのか?」

「揃えるだけにしとくかな?わかんない」

「はいはい。わかりました。どうぞごゆっくり。そのかわり晩飯はシチューにして」

「了解。アスパラガスいっぱいのね」

「アスパラなしでお願いします」




朝食の後片付けをしてから出掛けるための支度をした。

コーヒーの粉も挽きたてを、昨日のうちに買っておいたから

ノブさんがいつでも飲めるように、その日はコーヒーメーカーにセットしておいた。

ちょっと香りは飛んでしまうけど。

出掛ける前にはちゃんとドリップで淹れてあげよう。



着替えをしてお化粧もして

それからベッドサイドにひとつ封筒を置いた。



ノブさんの前にコーヒーをだしてから

大きな背もたれの椅子に座ったノブさんの膝に乗って

私からノブさんにキスをした。


「じゃね、行って来ます」

「もう行くのか、早いな。化粧、濃すぎじゃないか?ナンパされんなよ」

「そんな心配するより、誰か来るかもしれないから、その口紅、落としたほうがいいと思うよ」

「お前なー・・・あーあ」

「ノブさん」

「ん?」

「あのね・・・大好き!ノブさんは?」

「一体何なんだ?急にそんな・・・」

「ぶっぶー。答えてないから不正解。ノブさん顔赤いよ」


照れ笑いしながら私を掴もうとするノブさんの腕をすり抜けて私は玄関で振り返った。


「いってきまーす。」

「ああ、気をつけてな。」




その足で私はアパートに帰って荷物を纏めた。

ベランダに置いたままのブルースターは手入れの悪い主人のせいで

今年もやっぱり枯れてしまってた。


昨日のうちに手配した小さなトラックが時間通りにやってきた。

荷物を運び込んでトラックを見送った。

空っぽになった部屋を見ていろんな事を想った。

ここであったことはきっとずっと忘れない。



隆志とはここで別れた。あんな別れ方になってしまったけど忘れない。

だって三年も付き合ってたんだもんね。

まこちゃんにも結局ここで会ったのが最後になった。あれから連絡してない。

私がこっちに来てからずっと・・・あんなにお世話になったのに。


吉永さんの事も絶対に忘れない。

今はもう彼への憎しみはない。だからといって愛情もない。

あの時、私は本気で全部で彼に恋をした。ただそれだけの事。

そしてきっと吉永さんも、私の事を本当に愛してくれてたと思うから。

恋愛して別れて、どっちがいいとか悪いとかそんなの関係ない。

そういう風に思えるのは、きっとノブさんに愛されたから。



私は手荷物ひとつだけ持ってその場を去った。




それから恵理子さんに電話して家に遊びに行った。

ずっと会ってなかったからどうしても会いたくなって。

恵理子さんはオメデタで、ちょっとふっくらしてた。

今、妊婦さんに会うのは正直ちょっと辛かった。

でもお母さんになる恵理子さんを見たら本当に幸せそうで

そんなこと考えるのは彼女に失礼だと思った。

今までの事全部話したら恵理子さんは本気で怒ってた。

こんな時に話すことじゃないのはわかってたけど

恵理子さんにはちゃんと話しておきたかったから。


「なんで何にも言ってくれなかったんだよ」

「ごめんね。何となく言えなくってさ。でも今はもう元気だから」

「色々・・・あったんだね」

「ね、それよりお腹、触らせて。あのね、たくさんの人に触ってもらったらすごく幸せな子になるって、誰かが言ってたよ」


せり出したお腹に触れながら、きっと元気な子が産まれますようにと願った。

恵理子さんが幸せそうで良かったと言ったら、彼女は泣いてた。

胎教に悪いよって言ったら、そうだねって泣き笑いしてたけど。

彼女には本当にお世話になったから。

赤ちゃん産まれたら連絡してねって約束して、私は恵理子さんの家を出た。




それから働いていたあの喫茶店に行った。

ママさんはとても喜んでくれて私にランチを振舞ってくれた。

その日のランチはハンバーグで、相変わらずコックさんのデミソースは最高。

私の後にここで働いた人は今の子で三人目だそうで


「香織ちゃん、出戻る気なーい?」

「折角ですが・・・すいません」

「そっか。じゃ仕方ないね」


ママさんはコーヒーをカウンターに座ってる私の前に置いて横に座った。


「あのね、言っていいかどうかわからないんだけど・・・・・」

「何かあったんですか?」

「実はね・・・・・ちょっと前になるんだけど・・・・・」


ママさんの話にちょっと驚いてしまった。

吉永さんの奥さんが私を訪ねてきたそうで

辞めたと言ったら連絡先を教えて欲しいと言われたらしい。


「やっぱり教えないほうがいいと思って何も言わなかったんだけど、もしあなたが来たら渡して欲しいって・・・・・」


手渡されたメモ用紙には携帯電話の番号が書いてあった。


「香織ちゃんに連絡しようとも思ったんだけど、ずっと悩んでて・・・・・」


ママさんに迷惑かけちゃったな。

彼との事、全部知ってる訳だし。


「あの、私もう・・・・・吉永さんとは、その・・・終わりましたから」

「え?そうなの?そう・・・よかった」


良かったと言われるとちょっと複雑な心境だったけど

実際はこれで良かった訳で、ママさんが私を心配してるのはよくわかってたし。


「もしまた奥さんがいらしたら、もう関係ないですからって伝えて下さい」



私は明るく笑顔でママさんにお願いした。



お店を出てからも考えていた。

ママさんに頼んだものの、やっぱり考えてみたらそれは迷惑というもの。

それに本当は私もナミさんと会って話がしてみたいと思った。

私に用があるという事は、浮気の相手が私だと気付いての事だと思う。

たぶん吉永さんと別れてほしいとかそういう類の話だろう。


いつかはこんな日が来ると思ってたけどまさか別れた後でとは・・・。

もう彼とは何もないと、きちんと話さないといけない。

責められても仕方ないけど、今更何を言っても許されることではないけど

それでも自分の過ちを心から謝りたかった。

そしてきっとそれは今しかない。


さっきのメモをポケットからもう一度取り出して、思い切ってかけてみた。

暫く鳴らしたけど出ないので切ろうかと思ったその時、不意に電話が繋がった。


「はい もしもし」

「・・・・・・・あの、私・・・・・・・」


どうしよう。なんて名乗ればいのか考えてなかった。


「・・・・・・・・もしかして・・・・・・かおりさん?」










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