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カフェテラス  作者: 蒼
30/43

カフェテラス 29

「最初から話すから、聞いてくれるか?」


「嘘はいやだよ。ほんとの事言ってね」



今なら素直に聞ける気がした。




「嘘ついたって仕方ないだろが。お前が信じるかどうかだろ」

「吉永さんの事はいつだって信じてたよ。なのに・・・・・」

「どこで何を聞いたか知らないけどさ。ほんと京子とは何も・・・・・」

「離婚したって聞いた。・・・・・子供さんもいるって」

「そんなことまで噂になってるのかよ」

「聞くから話して・・・・・」

「京子さ、旦那と別れてから結構荒れててさ。毎日飲み歩くようになったらしくて

それで俺に電話あって、一緒に飲もうって言うから行ってみたんだけど」

「その時に何で私に言ってくれないの?」

「急だったし・・・・・でも、そうだよな。ちゃんと言えばよかった」


言わなかったのはきっと私に後ろめたい気持ちが僅かでもあったということだ。

でもよく考えてみると私が彼を責めるのはおかしな話かもしれない。

もし二人の間に何かあったとしても私の立場は京子さんと何ら変わらない。

奥さんがいる人なんだから、結局は同じ位置にいる。

それがとても悲しくて悔しかった。


「ごめん。私が言えた義理でもなかったね」

「そんな事・・・・・言うなよ。黙ってて悪かった」

「・・・・・で、それからずっと会ってたの?」


それでも全部聞きたかった。

聞いた上で自分の身の振り方を決めなくちゃいけない。

吉永さんは私の顔を見ないで続けた。


「香織ちゃんに悪いって思ってたけど・・・・・放っとけなくってさ」

「それは・・・・・・京子さんの事が好きだって事だよね 」

「嫌いじゃねーよ。別に嫌う理由もないだろ。ただ京子が一人で飲んでるって聞くと心配になる。

また悪酔いするんじゃねーかって・・・」



私が一人で淋しい夜を過ごしてるんじゃないかって心配には思わないんだね。

だけどそれは私が悪い。弱いところは見せたくなかった。

そんなところ見せたら吉永さんが辛いんじゃないかと思ったから

だから我慢をして、いつだって大丈夫だからって言ってきた。

吉永さんはそんな私の事、どう思ってたんだろうか。

どこまで理解してくれていたんだろうか。


「なにも二人きりで会わなくってもいいんじゃない?」

「京子がその方がいいって言うからさ。誰にも会いたくないって。やっぱ色々聞かれたりするのが嫌なんじゃないかと思ってさ 」


京子さんの気持ちを尊重したってことだね。

彼女も、吉永さんが自分を好きだったこと知ってるから。


頭が痛くて・・・

もう何もかもどうでもよくなってくる。


「もう・・・・いい。わかった。」

「・・・・・まだ怒ってるか?」


怒ってるとかそんな感情じゃない気がした。

京子さんだってきっと子供連れて離婚したんだから辛いと思うし

そんな京子さんをほっとけない吉永さんの気持ちもわからないでもない。

それに私だって、京子さんのことは大好きだった。


「もう・・・・・怒ってないから 」

「ごめんな。いつも泣かしてばっかりだな 」


その言葉にまた涙が溢れ出す。


「ほんとに・・・・・何もなかった?」

「何もない。一緒に飲んで送って帰ってただけ」


たぶんそれは・・・・・・嘘


彼の話し方や表情からそれは一目瞭然だった。

この顔を私は何度も見てきた。奥さんに嘘をついてる時の彼の顔。

この人は、平気な顔して嘘をつける人。

だけど結局、よりたくさん惚れた方が負けなんだ。

そしてそれは私の負けを意味する。


「コーヒー・・・・・もう一杯淹れようか」


立ち上がろうとした私の手を引っ張って自分の胸に私を抱きとめた。


「・・・・・仲直りしよ?」


そういっていつものようにクスッと笑った。


ずるいよね。吉永さんはいっつもそれだもん」


私は吉永さんの耳朶を軽く噛んでやった。そしてそのまま囁いた。


「もう会わないでって言ったら?」

「香織ちゃんはそんな事言わないってわかってるから」

「・・・京子さん、一人で心細いだろうし、たまには一緒に飲んであげたら?」

「やっぱりお前はいい女だよ」


いい女か・・・・それは違う。物分りいいだけの馬鹿な女。

いつものように私を翻弄していく彼の腕の中で

私はほんとに駄目だなって

心の中で自分の愚かさを笑った。


最初に奥さんの事を聞くのが平気になり、今度は京子さん。

私って一体何なんだろうって思い始めてた。

だけどやっぱり彼を好きだという気持ちに変わりはなかった。

もしかして意地になってるだけなのかもしれないけど

物分りのいい女が好きなら、そうなってやろうと思ってた。

それでも彼の傍にいたかったから・・・・・。



だけど・・・・・その思いは彼に届くことなく



彼からの連絡は徐々に途絶えていった。




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