カフェテラス 2
「いらっしゃいませ」
「ランチとアフターコーヒーね。」
「はーい」
吉永さんと話をしてから何日か経った。
私たちは何も変わらない。
違うことがあるとすれば
私が彼に何の期待も持ってないということ。
ずっとどこかで思っていた。
吉永さんと付き合えば今の彼氏と別れる決心もつくと・・・。
とどのつまりが、ただ寂しかっただけなのかもしれない。
今の彼氏と別れたら独りになる。
私にはそういうずるいところがある。
現に今の彼氏と、前の彼氏とがダブっていたことがその証拠。
でも吉永さんが既婚者だとわかった今となっては、
もはや彼は恋愛の対象ではない。
気の合うお客さんだし、
これからも仲のいいお友達になれるとそう思った。
だから今までと変わらず普通に接した。
ママさんとコックさんはやっぱり事実を知っていたようだ。
相当に敏感な二人は、そんな私の小さな変化に
おそらく気がついてはいるのだろうけど
特別に何か言ってくることはなかった。
ママさんに至っては、仕事中だからと無駄話を注意する事も少なくなった。
全部知っていたからこそ、これ以上深入りしないようにと
サインを出してくれていたのかもしれないと今は思う。
そうして仕事にもしっかり慣れてきた頃
夜風が顔に当たるとひんやりと気持ちのいい
季節は初夏を迎えていた。
私にお店のことをある程度なら任せられると判断したママさんは
昼はまだ小さい子供さんのために、時々店を空けるようになった。
コックさんは午後から近くの店に食材を見に行くことが日課となっていて
忙しい時間帯を過ぎた頃、私は一人で店番をする時間が多くなった。
その日もそんな感じで 何人かのお客さんが残る店内で
相変わらず彼との会話を楽しんでいた。
「それでね、その行きつけの店の女の子が店を出すらしいんだよね。」
「そうなんだー。パブみたいな感じ?」
「スナックって感じだろ」
「いいよねー。自分でお店持てるのってやっぱすごいよねー」
「でさ、オープンするに当たって女の子募集しててさ・・・」
「・・・まさか・・・・よね?」
「そのまさかは駄目という返事なのかな?」
「そういうんじゃないけど・・・経験ないよ。飲み屋さんで働いたことはないもん 」
「絶対大丈夫。京子は優しいし、あ 店出す子ね。ここ終わってから週に2,3回でいいらしいし 」
「だけどなんで私なのさ。意味不明だし」
「誰か連れて来てって頼まれたんだよ。時給いいしさ 儲かるぞ。」
私は ほんっと馬鹿だ。
“京子”さんが呼び捨てにされていた事に無性にイラついた。
これは・・・嫉妬。
「やってみよっかな。」
「マジ?よかったー。助かるよ。連絡してみるから今度顔合わせしよ。」
無邪気に喜ぶ彼は暫くして店を出た。
別にいいよね。正直お金も欲しいし、
話を聞いた限りではそんなに変な店じゃなさそうだし。
自分に許しを得るように心の中で呟いた。
でも本当は、初めて外で吉永さんに会う事の喜びの方が心の中を占めていた。
その日が来るのが待ち遠しかった。
次の週の水曜日に、京子さんと会うことになった。
その日の仕事終わり、吉永さんは店の駐車場の
目立たない場所で待っていてくれた。
さすがに誰かに見られるとまずいよね。
誤解されても困るだろうし・・・。
「お待たせしましたー。」
「ほい。」
「助手席いいのかな?」
「どうぞー。全然いいし」
「お邪魔しまーす。」
目的地に着くまでの間
吉永さんはいつもより饒舌に話しかけてきた。
何となく緊張してるのが伝わってきて
こっちまで心臓がうるさい。
それから夜の街中にある居酒屋に連れて行かれた。
京子さんは既に到着していて
きれいな人だなー 。
髪なんか金色で外人みたい。
もしかして・・・ハーフ?
「はじめまして・・・とか堅苦しいのは無しにして とりあえずお腹すいたから何か食べながら話そ。ね 」
彼女はとっても気さくな人で
彼の言うとおり優しそうな人。
私が夜の仕事は初めてだから不安なのだと話したら
にっこり微笑んでこう言った。
「全然大丈夫だよー。変な事する人とかいないし、もしいたとしても そんなの入店お断りにしちゃうよ。
それにスポンサーは普通のサラリーマンだもん。」
スポンサー?
そっかぁ。やっぱりお金出してくれる人っていうのがこの世界には居るんだ。
「そうなんですか?なんか安心しちゃいました。」
「でしょ?んでちなみに その人、私の彼氏なの。うふ。」
可愛い笑顔でそう言って微笑んだ。
スポンサーさんが独身なのかどうかは敢えて聞かないことにした。
何となく聞かないほうがいいのかなってそう思ったから。
他にも制服みたいにドレスも用意してくれるらしく
既に働くことの決まっている女の子と一緒に
みんなで買い物に行こうと誘われた。
どんどん断れなくなっていく感も確かにあったけど
やってみようかな?って思う気持ちも強くなっていった。
京子さんの事も好感が持てるし、
彼女となら上手くやっていけそうな気がした。
「週に3回くらいでよければ。私なんかじゃどうかとも思いますが 宜しくお願いします。」
「本当?助かるー。じゃ今度会うときはみんなと一緒にドレス見に行こ 」
「はい」
結局、夜の仕事を始めることになった。
吉永さんは特別に何も言わなかったけど
「ちょくちょく顔出すよ」 とだけ言ってくれた。
付き合っている彼氏には黙っていたほうがいいような気がして伝えてない。
というより店のオープンまでの二週間
彼氏は一度も連絡をよこさなかったから。
ま、いつものことで慣れてはいるけど・・・。
彼氏に会えないことに寂しささえ感じない。
そんな自分に呆れた。
そうして着々と準備が進み店の内装とかドレスとか
京子さんはお店のスタッフである女の子みんなに声をかけてくれて
いよいよオープンを迎えた。
今日から私は 新しい世界に飛び込む・・・・・・。




