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カフェテラス  作者: 蒼
29/43

カフェテラス 28

恵理子さんは結婚してからしっかり家庭に入ってしまって飲みには誘えない。

新婚さんのお邪魔をする程あつかましくはなれないし・・・。



ある土曜の夜、あまりに退屈で一人で飲みに出た。

一人で飲みに出ることはあまりないけど、たまにはいいかなって。

それでも行く所は限られてるし、さてどうしたものかと考えていた。

ふと思いついたのが吉永さんといつも行くあの素敵なママさんのお店だった。


あれからも何度か飲みに行ったけど、あの時の事でいつもからかわれてしまう。

吉永さんが潰れるのを初めて見たとか、タクシーに乗せるのが大変だったとか

それを聞く度に申し訳ないような、でもちょっと嬉しいような気持ちになった。

たまには一人で行ってみるのも悪くないなって、軽い気持ちで店のドアを開けた。


「こんばんは」

「あ・・・香織ちゃん?・・・・」


ママさんの視線がカウンターに向いて、私も自然にそちらを向いた。

瞬間、自分の目を疑った。

そこに私服の吉永さんがいたから。

それも一人じゃなくって・・・・・・女と一緒に。



「・・・・・よぉ ・・・」


ママさんの声で彼は私に気がついたみたいで

でも私は何も返事ができなくって

一緒にいるのは誰なのか、もしかして奥さん?少し後ずさりしてしまう。

後姿からじゃ分からなかったけど、振り返ったその女に私は驚愕した。


「・・・・・京子・・・・さん?」

「・・・ゆかちゃん」


どうして?なんで二人でいるの?

わからない。どうしたらいいんだろう。


「香織ちゃん・・・・・とりあえず座る?」


ママさんがそんなこといった気がするけど、私は何も言わずに店を出た。


「おい、香織ちゃん。待てって」


吉永さんは店の外で私の腕をつかんで引っ張った。


「ごめんなさい。お邪魔しちゃったね」

「・・・・・ちょっと話そう。な?」

「ごめん。私、行くとこあるから。今日土曜だし、早く帰ってあげなよ」


こんな時に私は何を言ってるんだろう。

それ以上は何も言わず私はただ真っ直ぐ歩いた。

追いかけてはこれないか。

京子さん待ってるもんね。


そのまま家に帰ることもなくふらふら歩いていたら、いつの間にかまきちゃんの店の前にいた。

足が痛くてもう歩けない。

店の前でじっとしてたら、お客さんのお見送りに出てきたまきちゃんに声を掛けられた。

俯いたままの私の腕をとって、まきちゃんは私を店の中に入れた。


何も聞かないまきちゃん。

こんな私を見て大体想像はつくんだろう。

そういえば恵理子さんの結婚式にも来てなかったな。

久し振りに会った気がする。


「何か飲めば?そんな辛気臭い顔してんじゃないの!」

「・・・・・・お酒飲ませて。うんと強い奴・・・」


目の前に出されたのは氷水だった。


「ゆかちゃん、とりあえずこれ飲んで。そしたら何か飲ませてあげるから」


私はそのお水を一気に飲み干した。


美味しい。


「ちょっとは落ち着いた?あんた顔酷いよ」

「早く、何か飲ませてよ・・・・・」


まきちゃんは溜息をつきながらレモンハートと書かれたビンを出した。

これ強いのかな?私でも酔えるのかな?


「どした?」


グラスに氷を入れながらまきちゃんが言った。


「どうせまた男の事でしょ。まったく・・・・・」


出されたグラスの中身を一気に流し込んだ。喉が焼けて痛い。


「ゆかちゃんさ、そんな飲み方やめなよね」


言いながらも次を作ってくれてるまきちゃんの手をじっと見てた。


「吉永さんさ、浮気してた」

「あんた、結局別れてなかったんだね。で?もしかしてその相手って、京子ママ?」

「まきちゃん、知ってたの?何で教えてくれなかったの?」


関係のないまきちゃんに食って掛かった。

見当違いも甚だしい。


「そっか。案外単なる噂でもなかったか」

「・・・そんなに有名なの?二人」

「正確には京子さんがね。あの人この業界長かったからさ」


やっぱり・・・あのふたり付き合ってたんだ。


「京子さん、離婚したらしいよ。しかも子連れ」

「そうなんだ。自由の身になったって訳だ」

「暫くこの界隈、飲み歩いてたらしいけどね」


一体どういうつもりだろうか。子供いるのに。


「まあ、ほんとのとこはわからないよ。ゆかちゃんだって知ってるでしょ?この世界の噂はあてにならないって事くらいさ」

「私さ・・・もしかしてとは思ってたんだ。最近吉永さんおかしかったし。でも相手は会社の事務の人かなって思ってたら・・・まさか京子さんとはね。勝ち目ないや」

「しかし吉永さんは、どこがそんなにもてるのかなー」

「まきちゃん・・・私どうしたらいいのかな?」


その返事は聞けなかった。ちょうどその時、えみちゃんが入ってきたから。


「ゆかちゃん?きゃー久し振り。元気してた?」

「えみ、お客さん 待ってるから」

「あ、はーい。ゆかちゃん、後でね」


えみちゃん随分明るくなったな。良かった。

こんな時だけど、私はそんなえみちゃんを見て安心した。


「同伴出勤?えみちゃん人気あるでしょ。若いしね」

「それ言わないでよー。結構へこむわ」


これ以上私みたいな暗い女がここにいたら営業妨害になるかもしれない。


「帰るよ。いくら?」

「いらないよ。それよりちゃんと自分で確かめた方がいいよ」

「ごちそうさま・・・・・・」


他に行くところも思い当たらず

店を出てすぐタクシーに乗ってうちに帰った。



玄関の前に人影がある。

・・・吉永さん・・・

もしかしたら来てるかなって思ってた。

彼の姿を見ただけで来てくれた事を嬉しいと思ってしまう。

そんな自分が嫌になる。



「・・・・何してるの?もうこんな時間だよ。早く帰ってあげなよ。」

「どこ行ってたんだ?」

「どこでもいいじゃん。私の勝手だし」

「まあな。俺にとやかく言われたくないか」


気分が悪い。さっきのお酒が効いてるのかな。


「もういいよ。わかったから」

「わかったって何が?香織ちゃんさ、誤解してないか?」

「何が誤解なんだか。結構な噂らしいよ。二人」

「京子のことだよな。ちゃんと・・・話すから」

「良かったね。前は振られたって言ってたもんね」

「そんな昔の話してどうすんだよ。最初から話すから聞いてくれよ」

「最初からって何?そんなに前から付き合ってたの?」


いつの間にか泣いていた。

自分から漏れ出た涙声でそれに気付いた。



「だから・・・京子とは付き合ってる訳でもないし、何もないから」


「もうっ、京子 京子って言わないでよ!」


つい大声を出してしまった。こんな夜中に近所迷惑だ。


「とにかく・・・帰ってあげてよ。もう遅いから」


・・・・・・・・・・ほんとは帰って欲しくない・・・一緒にいたい・・・・・・・・


「・・・わかった。明日またくるから」

「明日は日曜日だよ。約束したじゃん。休みの日は家にいるって」

「・・・・・・でも、明日くるよ」

「私、明日出掛けるからきてもいないよ」


これ以上は無理だと思ったのか

話を聞こうとしない私に愛想尽きたのか

吉永さんはそれ以上何も言わずに帰って行った。





それから結局一睡もできず、夜明けを待ちながらじっと考えていた。

夜ってこんなに長かったんだ。

吉永さんと一緒にいるとあんなに早く感じるのに。

そうしてる内に段々冷静になっていく自分が居た。

吉永さん、京子さんとは何も無いって言ってた。

ちゃんと話聞いてあげた方がよかったかもしれない。

まきちゃんだって、噂なんて信用できないって言ってたし。


夜が明けてきたなって思った頃、私はいつの間にか眠ってしまったみたいで

目が覚めたころにはもう日が昇りきっていた。


頭が痛い。体も重たいし・・・。

とりあえずコーヒーでも淹れようと、ベッドから降りたとき電話が鳴った。


「・・・・・はい」

「俺・・・いたのか?」

「うん。朝まで眠れなくって・・・・・今起きたとこ」

「今から行ってもいいか?」


どうしよう。やっぱりちゃんと話さないと。

このままって訳にもいかない。



「うん いいよ。けど・・・・・・奥さんは?」

「どっか出掛けたみたいだから」

「そう。じゃ、待ってる」


お誕生日に吉永さんから貰ったペアのコーヒーカップを用意して

すぐにコーヒーを淹れられるように準備して彼を待った。

きっと近くにいたんだろう。程なくして彼はやってきた。

コーヒーを淹れて吉永さんの前に置いてから

窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。


「・・・・・今日、暑いね。アイスのがよかったかな」

「いや、こっちがよかった」


なかなか本題に入れず二人黙ってコーヒーを飲んでた。


「昨夜のことだけどさ・・・・・」


先に切り出したのは彼の方だった。







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