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カフェテラス  作者: 蒼
25/43

カフェテラス 24

一人暮らししてる私、仕事をしなくてはすぐに家賃も滞ってしまう。

現実なんてそんなもので、でもどうしても前に進めないでいた。

なつみさんに連絡したら、すぐに来てくれた。




「大丈夫?顔色悪いよ。ちゃんと食べてるの?」

「うん。こんな時でもお腹は空くんだね。なんとかあるもので食べてるから 」

「月並みな事しか言えないけど、今は辛いだろうけどきっといつかはさ・・・・・」

「自分で決めたんだから仕方ないよ。心配かけてごめんね」

「仕事探してるの?」

「ぼちぼち探すつもり。それまでまきちゃんの店で雇ってもらおかな」



とりあえず今はゆっくりしなって、なつみさんは言った。

それから食材を色々買ってきて置いて帰ってくれた。

一ヶ月は買い物しなくていいぐらい。




数日後に携帯を買い換えた。

鳴らない携帯を何時まで待っても仕方ない。期待してしまう自分が嫌だった。

番号は家族となつみさんたちにだけ教えた。



それから三週間くらいは、ほんとに家でゆっくりしてた。

正直あまり外に出たくなかったし。

でもやっぱり生活するためにはそんな事言ってられない。


仕事を探しに出たけど、バブルの影響かなかなか条件のいい仕事は無かった。

一軒だけ面接してもらったけど、やる気がおきなくて私から断った。

特にやりたい仕事がある訳でもないし

やっぱりまきちゃんの所でお世話になろうかと、軽く考えてた矢先に家の電話が鳴った。



夜中の電話だったから両親じゃないはず。

こんな時間に誰だろう?

私はちょっと戸惑いながら受話器をとった。




「もしもし?」


「・・・・・・・・香織・・・ちゃん」


「・・・・・・・・!」



聞き間違うわけがない。

あんなに一緒にいたんだもん。

ずっと聞きたくて聞きたくて、待ち焦がれた声が受話器の向こう側から聞こえてくる。

それなのになぜ・・・・・声が出ないよ。



「・・・・・ごめんな。俺・・・どうしても声聞きたくってさ。ほんと、だめだな」



どうしたらいいの?わからないよ。



何か・・・言わなくちゃ・・・・・



「携帯かけたら繋がらねーし。悪いけどなつみちゃんに電話してこの番号聞いた。もう一度だけ話がしたくて。どうしても我慢できなくってさ。ごめんな」


「・・・・・っう・・・うぇっ・・・・よしな・・・・が・・・・・さぁ・・・ん・・・・」

「・・・泣いてるのか?俺の・・・・せいだよな」

「ちがっ・・・・私・・・・・」



涙が勝手に出てくる。

彼の前では泣くまいとあんなに我慢してたのに。


一度終わった恋なのに・・・・・・

終わらせた筈だったのに・・・・・



「香織ちゃんに・・・会いたくてさ・・・・・」



もう・・・・・どうしようもないくらい




「会いたいよぉ・・・吉永さん・・・・・くるし・・・助けてよぉ・・・」



止まらなかった。どうしても無理だった。



「・・・・・・俺も・・・・・・今、外に来てる・・・・・」



受話器もそのままに外に飛び出していた。

探さなくてもすぐにわかる。

いつも私を降ろしてくれた所にきっと彼はいる。



車の中から吉永さんが出てくるのが見えた。


「お前 裸足・・・・・」

「・・・・・・・吉永さん私・・・・・やっぱり・・・別れたくないよぉ」



泣きながら吉永さんの胸の中に飛び込んだ。

そこはとっても気持ちよくって、もう何もかもがどうでもよくなるくらい。


「俺も別れたくない。けど・・・・・」


・・・状況は変わらないって事だよね。でももういい。


あんなに辛い思いはもうしたくない。


「とにかく乗れ。足、冷たいだろが・・・」



吉永さんは車の中に私をいれようとしたけど



「うち・・・来てよ 」

「でも・・・・・」

「玄関、開けっ放しなんだもん」


言いながら吉永さんの腕を取って、部屋まで強引に引っ張っていった。

私が先に部屋に入っても、吉永さんは中には入ってこなくて


「足、洗って来い。ここにいるからさ」


私は頷いて風呂場で足を洗った。

そして泣いて不細工になった顔をばしゃばしゃ洗った。

じっと玄関に立っている吉永さんに、あがってよって言ったんだけど


「香織ちゃん、俺さ、何も変わってないからさ。だから・・・・・」

「吉永さん、ごめんね。私 あの時 嘘ついた」

「うそ?って・・・・その・・・・・どの部分?」

「とにかくコーヒー淹れるから、あがってよ。玄関は寒いしさ」



吉永さんは躊躇しながらもやっと部屋に上がってきた。

私は台所に立ってお湯を沸かした。

しばらくはコーヒーを淹れるのも面倒で、飲みたいとも思わなかった。

久し振りに部屋にいい香りが立ち込めた。



「私ね、本当は離婚してほしいなんて思ってないから。最初から分かってたし、奥さんも何も悪くないし、むしろいい人。

でも考えたくなかったのはほんと。きっと逃げたかっただけ。いろんな事からさ」


私は本当に愚か者だと思う。

あんなあやふやな気持ちのまま別れたって

結局、二人とも前に進めない。



「・・・・・・香織ちゃん、俺さ・・・あのままでよかったなんて思ってなかった。それだけはほんと。嫁と別れてお前と一緒になれればって考えたこともある。だけど・・・やっぱそんな簡単にはいかなくてさ・・・・・」



吉永さんの言葉で涙が出てくる。せっかく顔洗ったのにな。

一度でも奥さんとの別れを考えてくれた。

それだけは本心で嬉しかった。

やっぱり吉永さんも苦しんでたんだね。

もう彼を苦しめる事はしたくないと思った。


「それだけでもうじゅうぶんだよ。奥さんと別れたりされたら、私困るもん」


彼の前にコーヒーを出して、愛情プラスだよって、不細工な顔で笑って見せた。


「旨いな。やっぱり」

「そう?最近淹れてないから、粉も香り飛んじゃってるけどね。」


吉永さんの肩に頭を預けてコーヒーを飲んだ。

ここは本当に落ち着く場所だ。なんでここから逃げようなんて思ったんだろ。

もうどうして別れたのかなんて、忘れてしまってた。



「吉永さん、私やっぱり別れたくない 」

「いいのか?今のままで・・・・・また辛くなるぞ 」

「もういい。このままがいい。ずっとこのままでいいから 」

「香織ちゃん・・・・・・」

「・・・・・・・・お願い、抱いて欲しい・・・・・・ 」



唇を通して彼の体温が伝わってくる。

またどうしようないくらい彼に溺れていく。

変わらない吉永さんの暖かい体は、私を一度に満たしてしまう。

空っぽだった私が、あっという間に彼でいっぱいになっていく。



「香織ちゃん、愛してる。もうどうしょうもないくらい・・・・・」

「私も・・・もうどうなってもいい。吉永さんが大好き」


ずっと私の髪を撫ぜながら、愛おしそうに何度もキスをしてくれた。

そして朝までずっと愛し合った。あの日のように・・・・・

今だけは誰にも邪魔されない。


二人だけの時間・・・・・・・・・・・・・・









「くすぐったいよ 吉永さん。ほんと赤ちゃんみたい」




彼はいつも私を抱いた後

私の髪を指に絡ませて胸に頭を乗せてくる。


「お前のさ この髪好きなんだわ。柔らかくてさ。気持ちいい」

「だいぶ伸びちゃったね。吉永さん、長い方が好きなの?」

「お前が好きな方が好き。でも今のままがいいかな。切らないで」


ずっと美容院にも行ってなかったからちょっと傷んできてた。

喫茶店にいる時はいつも括ってたから気付かなかった。


「じゃ、このままにしとく」


ウエストまでの長さ、茶色、下の方だけウェーブ。

吉永さんの好み、キープしていたい。



「仕事辞めたんだってな。なつみちゃんに聞いた。」

「もうあそこにはいたくなかったから。吉永さん来てくんないし」

「そか、悪かったな」

「それに・・・もういられなかったの。ママさん、気付いてたから」



吉永さんはちょっと驚いてたけど、苦笑いしてた。


「お昼ごはん、どうしてたの?」

「駅で立ち食いそばとか」

「他には?よその喫茶店とか行った?」

「行ったけど?」

「可愛い子とかいた?」

「やきもち妬いてくれてるの?」

「んなことあるわけ・・・・・ない。」

「やっぱ、かわいいよ。お前は」


言いながらまた私を抱きしめた。



普段どおりの会話。何も変わってなんかない。

たったそれだけの事が嬉しくって、また涙が出てきた。


「何で泣く?やっぱ後悔してるのか?」

「違う。また吉永さんの事、更に好きになりすぎちゃっただけ」



そう言ったら彼は私の涙を唇で拭って、しょっぱいって笑った。


後悔なんかしない。

仕事も、ママさんも、家族も、それから奥さんの事も

もう全部何もかも考えないことにする。




彼と別れるぐらいなら



もう何もいらないとさえ思った。



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