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カフェテラス  作者: 蒼
24/43

カフェテラス 23

「・・・嘘だろ?なんで」


遠くで波の音が聞こえる。雨も降ってきたみたい。

私は今、彼の胸の中で、彼に別れを切り出した。




「もう無理だと思う。私も吉永さんも」

「んな事言うな・・・・・」

「このままって訳にはいかなくなってる 」

「・・・・・・・他に好きな奴、できたか?」



そんなはずない。そんな事・・・言わないで。



「それだけは・・・絶対にないから」

「俺が何かしたか?香織ちゃん、俺の事たった今好きって言ったばっかりだぞ」

「ごめんなさい・・・」

「納得・・・・・できねーよ」

「好きだから、愛してるから、だから・・・・・別れたい」



結局、本心を吐き出してしまった。

こんな筈じゃなかった。もっと突き放すつもりだった。

これじゃあ余計に吉永さんを混乱させるだけなのに。

でも今の気持ちを上手に言葉にすることは、私には難しすぎた。


「俺は・・・・・」



何も言わないで欲しい。もう、いっぱいいっぱい。



「別れたくない。香織ちゃんと」


心臓の音が早くなってる。抱きしめる腕の力も強くなってる。

大好きな人の胸の中で、あなたを愛してるといいながら

こうして別れ話をしている私の事、きっと理解できないよね。

もっと上手く別れ話ができたらよかったんだろうけど、やっぱ私だめだな。

結局、別れたくないって、言って欲しかったのかな。

ぼんやり考えながらゆっくり顔をあげて最後の言葉を彼に告げた。




「私と別れたくないなら・・・・・奥さんと別れられる?」






やっぱり・・・・・




何も言ってくれないか。そうだよね。

でもね、本当はそんな事考えてないんだよ。

先の事なんて、考えたこともなかった。

ごめんね。最後に意地悪して。



あと少し私は泣かない。


あと少し・・・笑ってさよならするんだから。




「ね、だから別れよ。もう私・・・・・疲れた。何も考えたくないから」

「俺の事、考えるのが嫌になったか?」

「・・・・そうだよ。もう考えない。だから昔みたいに、仲のいいお客さんとウェィトレスさんに戻りたいって思ってさ」



私は精一杯の笑顔を作って言った。



「そっか・・・考えたくないか」



そんな辛そうな顔しないでよ。



「だからさ、またお昼ごはん食べに来ても普通にしててよ。ママさんが変に思うしさ」

「出来ねーよ 前のようには。お前にはできるのか?」

「できないじゃなくってするの。別れても友達みたいに会う人っていっぱいいるじゃん。私も嫌いで別れる訳じゃないんだから、できるよ。きっと 」



「最後まで強い振りして・・・」


「自分と約束したから」


「そっか」





それからは吉永さんはもう何も言わなかった。

そして私も。

ただふたり、朝までずっと手を繋いで

雨の降る夜の海をじっと眺めてた。



辺りが明るくなってきて吉永さんが帰ろうかって、しっかり繋いでた手を離して言った。

それからうちまで送って貰って

ありがとって言ったんだけど、何も言わずに帰っていった。



雨はまだ降ってる。



もう泣いてもいいんだ。これで終わったんだから。



部屋に入った途端、激しい後悔が私を襲った。

どうして別れたいなんて言ってしまったんだろう。

まだこんなにも好きなのに。


離婚して欲しいと思ってないといえば、きっとそれは嘘だ。

まだ子供がいないんだから出来ないはずはないとどこかで思っていた。

でもそういう問題じゃなく、彼は奥さんのこともきっと大切なんだ。


どうしたらいいのか分からなかった。

私が彼を苦しめているのかもしれないと思う反面

自分がこれ以上何かを期待してしまうのが怖かった。

自分自身が傷つくのが嫌だったから。


結局私は、自分からも彼からも逃げたんだ。



だけど・・・・・


自分で決めた別れがこんなにも辛いものとは想像もしてなくて

あんなに我慢していた涙は一気に私の体から流れ出した。

まるで体中から血が吹き出ているような、痛みにも似た初めての感覚だった。



胸が痛いよ 苦しいよ 吉永さん ・・・



吉永さんの顔しか頭に浮かばない。

楽しかった事しか思い出せない。

終わった恋を想い出しながら、私はずっと泣き続けていた。




だけど、どんなに辛くっても悲しくっても

朝は必ずやってくる。





月曜の朝には私はいつもの私に戻らなくてはいけない。

二日間、少しでも心の痛みを抑えようと家中のお酒を全部飲み干した。

でもアルコールが私を癒してくれることはなく、空しさを残しただけだった。

大好きなコーヒーを飲んでも、何の香りも味もしない。



あれから何も食べてない。立ち上がることさえ辛い。

それでも行かなくてはいけない。今日は絶対に行かなくては。

なにか入れないと体が動きそうも無い。頭がふらふらしている。

電車に乗る前にコンビニに寄って、パンをひとつ買って駅のベンチで食べた。

味のしないパンを無理やり詰め込んで、私はお店に出た。

私が行かないと吉永さんが心配するから。



でも、彼は来なかった。

次の日もその次の日も・・・・・。

せめてここで会えるから、それだけでいいと思ったのに。



もうここにいても彼には会えない。



私の大好きなこの場所は、今は辛い想い出だけが残る大嫌いな場所でしかなかった。



その週末、私はママさんに辞めたいと告げた。



ママさんは吉永さんが来なくなった事に少なからず疑問を持っていたと思う。

辞めたいと言い出した私に事情は何も聞かずに

いつまで出れるの?と言ってくれた。

私は、すぐにでもと答えた。

本当に自分勝手で我侭な人間だと、自分でそう思った。



「香織ちゃん、次の人探すから心配しなくていいからね」

「すみません。本当に・・・申し訳ありません」

「そんな毎日暗い顔した香織ちゃん、見たくないのよ。私は」



そう言って優しく微笑んだ。

たぶん何もかもお見通しだよね。


あれから全く笑えない私。

家に帰ってもずっと泣いてる。

自分が切り出した別れなのに、携帯が鳴るのをどこかで期待してしまう自分がいる。

どうすれば忘れる事ができるんだろう。



最後の出勤日、ママさんは私にパフェの作り方を教えてねって言った。

二人でフルーツの飾り切りを練習したら、ママさんの包丁さばきは私よりも遥かに上だった。

さすが主婦ですねっていったら、何時も通りの笑顔で嬉しそうに笑って

数種類のフルーツをいくつも切って、その度に私の口に放り込んだ。


「何かあったときはね、食べるのが一番だよ。元気出るしね」



堪らず泣いてしまった私を、ママさんは抱きしめてくれて頭を撫ぜてくれた。



ごめんなさい。ごめんなさい。



心の中で何度も謝った。






コックさんにも挨拶をした。


「感謝してます。色々ありがとうございました」

「腹が減ったらいつでも来い。賄い食わしてやるから」

「はい、お世話になりました」



本当にいい人たち。

こんなに思ってくれる人達を裏切ってたんだと思うと

また悲しい気持ちでいっぱいになった。




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