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カフェテラス  作者: 蒼
22/43

カフェテラス 21


「またまた久し振りー 」

「ほんと、中々会えないね。相変わらず忙しいの?」

「へへ、まあね。色々とさ」

「あれ?何かいい事とかあった?」

「あ、わかる?実はね・・・・・」




なつみさんは新しい恋人が出来たらしく、今度は絶対なんだそうだ。

とっても幸せそうな顔をしてる。


「それじゃあ、今日はデートのお邪魔じゃなかったかな?」

「そんなのいいよ。ゆかちゃんが話あるならいつでもどこでも行くよん」

「その、ゆかちゃんてのも、呼ぶのはもうなつみさんだけかも」

「なつみ・・・ってのもゆかちゃんだけだよ。でも今更ねえ」

「そうだよねー」



二人で見合って大笑いした。

こんなに笑ったのは久し振りな気がする。


「それよりさ、ここの春巻き、すっごく美味しいから頼もうよ」

「うん」


待ち合わせは最近新しくできた洋風の居酒屋さんで内装もお洒落なお店。


「良く来るの?ここ」

「彼がね、グルメでさ。美味しいものいっぱい食べに行こうねって。

他にもね、お勧めのお店あるから今度は・・・っておーい、ゆかちゃん?聞いてるかい?」


「あ・・・・え?うん。それで?」


心ここにあらずな私を見て、なつみさんは溜息をひとつ小さくついた。


「よし。とりあえず腹ごしらえしてからだ。さ、たくさん食べるよ。それからじっくり話、聞くからさ。」

「うん・・・ありがと」


それから絶対無理だと言う私を他所に、めいっぱいの料理を注文したなつみさん。

何だかんだ言って、結局全部食べちゃったけど。

こんな時でも美味しく食べられるのは、きっとなつみさんのお陰。

新しい彼氏の事を嬉しそうに話すなつみさんは前よりもずっと綺麗で

素敵な恋愛をしているんだって事は見てるだけで伝わってくる。


・・・・・・もうオーナーの事は忘れたのかな・・・・・


でも敢えてその話題には二人とも触れなかった。

今のなつみさんを見ていると、もう昔の事なんだってそう思った。



どこか店を変えて話をしようとなつみさんが言うので

どこにしようかと色々と迷った挙句

そう言えば まきちゃんのお店、まだ行ったことないねって話になって

電話してみたら今すぐおいでよって言ってくれた。



とても感じのいいお店だった。

シンプルモダンな感じがまきちゃんらしくて、ママになった彼女は本当に輝いていた。

カウンターの隅に座ったけど、ここはあまり女二人でくる所ではなさそう。


「まきちゃん、ここはいいからお客さんのお相手してね」

「じゃ勝手に好きなもの飲んでね。あそこのお客さんにつけとくからさ」



冗談なのか本気なのか、まきちゃんはひそひそ声でそう言って笑った。

そして私達の空気に気を利かせたのか

私たちの分を支払うのであろうお気の毒なお客さんの所に行った。



「ゆかちゃん何飲む?」

「じゃブランデー貰おうかな。せっかくならいいやつね」

「ふふ、だよね」



なつみさんはカウンターに勝手に入っていってナポレオンを一本手にとって

まきちゃんに合図したら指でOKのサインを飛ばしてくれた。


「さて、じゃ水割りでいいかな?」

「うーん。いぁ、やっぱストレートで。でも氷はふたついれてね」



なつみさんの髪はロングのストレートでいつも手入れが行き届いている。

グラスに注ぐ細くて長い指の所作にじっと見蕩れていたらなつみさんが言った。



「で、何があったのかな?」


グラスとチェイサーを私の前にトンと置いて静かに話しかけてきた。


「あのね 私ね・・・・・」


どうしてもその先の言葉が出てこない。

言ってしまったらもう後には退けないとわかってるから。



「・・・相談?それとも報告?」


「・・・・・・・なつみさん、私・・・・・」



誰かに聞いててほしかった。私のこの決心が鈍らないように・・・。




「吉永さんとは・・・・・別れるよ・・・・・」



なつみさんは理由を聞くでもなく

ただ前を向いてグラスを傾けていた。



「報告だったか。そっか。」

「色々あって・・・これ以上はもう・・・・・限界だから・・・・・」

「彼には?まだ?」

「まだ話してない。でも近いうちに話すつもり」

「もし別れてくれなかったら?」


それは悲しすぎる問いかけ。だって絶対に有り得ないから。

彼はきっと私の事、好きでいてくれてると思う。自惚れじゃなくってそう思う。

でも私から別れを切り出せば、彼が私を追いかけることはできない。

そう・・・この関係は始まりも終わりも私次第だったんだ。


「絶対無いけど、もしそんな事があっても大丈夫。その時は・・・考えてるから」



その時はちゃんと別れられるようにしてあげる。

その方法を私は知ってる。


「そっか、わかった。ちゃんと聞いたよ。ゆかちゃんの気持ち」

「聞いてくれて・・・ありがと」

「そんな顔しない。ほら 飲も。ね 」


なつみさんは私の頭をよしよしと撫でてくれた。

泣きそうになったけどまだ泣かない。

まだ終わってないから。

私はこの恋愛で絶対泣かないって決めたんだから。



まきちゃんがいつの間にかやってきて、あんたたち暗いって怒られた。


「あれ?お客さん、帰ったの?」

「うん。ちゃーんとここの分も頂いたから、で 話は済んだのかな?」


まきちゃんは私達のグラスに、氷じゃなくてブランデーをとぽとぽ注ぎ足した。

これじゃコップ酒だよ。


「今日は飲むんでしょ。付き合うよ。」


そして自分のグラスにもブランデーをついでカウンターの中に入った。

また男の話でしょって言って、呆れたような顔して。


「まったく、二人とも真剣になりすぎだよ」

「まきちゃんがドライすぎるんだよ。ねえ?ゆかちゃん」

「確かに。ねぇ、まきちゃんの彼氏って今のお店のオーナーさん?」

「まさか。彼氏とは言わないでしょ。関係がないとも言わないけど」


そうあからさまに言われると呆気にとられてしまう。


「割り切った付き合いってやつだよ。お金出して貰ってるし、それこそ家庭持ちだし?」



相変わらずのはっきりとした物言いに、こっちが恐縮してしまう。


「なつみママは?その後どうなの?」

「ってもうママじゃないし。どうせ全部知ってるんでしょ。噂になったんじゃない?あそこのママは捨てられたーとかさ」

「被害妄想だなぁ。まあ、遠からずってとこだけど」

「でもね、今なつみさんはとぉーっても幸せなのだ。ねー」


二人で顔を見合わせて首を同時に傾げて見せた。

その後なつみさんは、ぽつんと本音を漏らした。


「確かに幸せだけどさ、でもやっぱり忘れられないんだよね。女々しいよね」

「女なんだから女々しくっていいじゃん。忘れることもないんじゃない?いい想い出として大事にとっとくのも悪くないよ。私にだって・・・あるよ」


まきちゃんが?って、驚くように言ったら

こらっ!て頭小突かれちゃった。


「ゆかちゃんは・・・まだ付き合ってんだね」

「でも・・・それももうすぐ終わるよ」

「そうなんだ。まあ、自分で決めたことならいいんじゃないの」

「何か疲れちゃってさ、私 。考える事にさ。逃げたいだけなのかもね」

「それもちゃんとした決断だと思うよ。私はね 」



言いながらなつみさんは、私のほっぺたをっぺちっと軽く叩いた。

二人が私の話を聞いてくれるお陰で少しだけ気持ちが楽になった気がした。

でもなつみさんに、そのまま昼の仕事続けるのかと聞かれて、すぐにまた悩んでしまった。

私達が別れてしまったら、吉永さんお店に来にくいだろうな。


「ちゃんときれいに別れたら、その内に笑って前みたいに戻れるかな」

「どうかなぁ。こればっかりはねぇ。そう言うゆかちゃんだって、前と同じにできるかどうかだよね」

「もし仕事ないならうちで働く?たくさんは出せないけどさ」

「そうだね。その時は拾って貰うかも」



その気はなかったけど万が一もあると思って一応そう返した。


「もう既に一人拾っちゃったから同じだよ」


まきちゃんの言ってる意味がわからなくて二人で顔を見合わせたら


「えみ。拾っちゃった。」



えみちゃん?どういうこと?


「お金貸してって来たから最初は追い返してたんだけどさ。段々見てられなくって、私も似たような経験あるから。まぁ私の場合は貢いで捨てられただけなんだけどね、あはは」


知らなかった。

みんな言わないだけで 色々あるんだ。


「ここで働いてるの?」

「うん。今 お客さんに他の店に連れて行かれてるよ。あの子ね、彼氏とは別れたんだよ。捨てられた の方が正しいか」

「本当に別れたの?大丈夫なのかな」

「今度は本当。えみからお金絞れなくなったから他のに乗り換えたらしい」


あんまりだ。まだ二十歳にもなってないのに。


「さすがに目覚めたみたいでさ。お金は働いて返すって言ってさ」



良かった。まきちゃんに助けて貰わなかったらと思うとぞっとする。


「みんな前向いて歩いてるって事でさ」


なつみさんの言葉で私も前を向かなきゃと思った。





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