カフェテラス 20
「いらっしゃいませ。」
「香織ちゃんはいいよなー。ずっとエアコンの中で。ランチとコーヒーよろしく」
「私、暑いのも寒いのも嫌いだからね。ここは一年中快適だよ」
「いつまでも暑いよな、ったく」
「もうすぐ涼しくなるよ。あっという間」
変わらない毎日。
だけど私の中では色々な感情が渦巻いていた。
それでも過ぎていく時の中で、日々の生活にただ流されていく。
吉永さんはそんな私の心の変化に気がついてるんだろうか。
だけど、こうして彼の顔を見る度に思う。
やっぱりこの人が大好きだと、思い知らされる。
ランチタイムが終わってから、私は遅いお昼を頂いていた。
その間はママさんがカウンターに入る。
基本的に喫茶の部分は私の担当で、ママさんは厨房で料理を盛り付けたり、お皿を洗っている事が多い。
ママさんはお店を持つ前に喫茶店で働いたことはなかったらしく
経験が多少でもある私の方がカウンターには向いてる。
もちろんコーヒーとかは淹れられるけど、パフェなんかになると作れないって言う。
私が帰った後どうするんですか?って聞いたら
「売り切れです」って答えるって、笑って言う。
教えますからっていうのも何だか嫌味になるのでそのままにしてるけど。
そういう意味でも彼女にとってこの店は、本当に趣味の店なんだなあと思った。
厨房で今日のランチのチキンソテーを食べてると
後ろ向きでお皿を洗っていたコックさんが、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で
それでも私にはちゃんと聞こえるように言った。
「ママ、気がついてるぞ 」
・・・一瞬凍りついた。
それが何を意味するのか、理解するのに然程も時間はいらなかった。
お箸を持つ手が震える。
何の味もしない食事を無理やり流し込んで、
食器を洗おうとしたらまた声がした。
「教えたから・・・後は自分で考えろ」
「どうして・・・・・」
声が震えて何も喋れない。
「いつか自分で気がつくって思ってるんだろ。たぶんな」
カウンターからママさんが私を呼んでいる声がする。
どんな顔して出たらいいのかわからない。
「早く行ってやれ」
「香織ちゃん、食事終わった?サンドイッチのオーダーなんだけど、私が切るとパンの耳がガサガサになるのよ。お願いできる?」
「・・・・・・はい・・・・・ママさん これね、ナイフを火で炙るんですよ。こうやって」
私はガス台に火だけ点けてそこでパン切り包丁を炙ってみせた。
そしてパンの耳を切ってママさんに切り口を見せた。
「あら ほんと、綺麗に切れるんだね。」
「押さずに引くんです。手前に・・・」
「さすが、ありがとうね。ご飯終わったの?」
「はい、いただきました」
普通に接してくれるママさんの顔をまともに見ることが出来ない。
彼の奥さんと同じ立場にいるのに、私のやっていることを責めたりしない。
心から申し訳なさを感じた。
やっぱりこのままじゃ・・・・・
何事も無く過ぎていく日常。何も変わらない私達。
そしてこれからもきっと変わらないであろう私達のこの関係。
それでいいと自分に言い聞かせて、今が幸せならと何も考えまいと
独りよがりな考えで今まできてしまっていた。
だけど結局は自分が傷つくのが嫌だっただけ。
私の選択肢は、もうひとつしか残ってない気がした。
なつみさんに連絡をとって会う約束をした。
こんな事話せるのは
なつみさんだけだから・・・・・




