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カフェテラス  作者: 蒼
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カフェテラス 1

誰が見たっておかしいと勘ぐられる程に 私達はいつも微笑みあってた。

お店のママさんに仕事中だと何度か注意されて・・・

当時まだ若かった私は そんなママさんの言葉を うるさいな などと思いながら 注意されればされるほど

こっそり彼に耳打ちで話しかけたり笑顔を投げ掛けたり。

でもママさんは知ってた。私が知らない彼のこと。

そして その事実を私がまだ聞かされてないということも.........。





ある日いつものようにコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいた彼。

私はランチタイムの嵐がすぎた後の片付けをしていた。

その日はいつも厨房にいるはずの常駐のコックさんが外出していて

ママさんも子供さんの用事で店を空けていた。

忙しい時間帯が過ぎて、その内にお客さんもひいていき、

彼と二人きりの時間ができた。

いつもは厨房にいるコックさんに気を遣いながら彼との時間を楽しむんだけど

誰もいないとなると私は嬉しくって

彼の隣に座り他のお客さんが入ってこない事を祈りながら

自分の分の珈琲を淹れて 彼の隣に座って飲んでいた。

まだお互いの気持ちを確認したわけではないけど

それでもその行為に何の違和感も沸かないくらい私達は親密になっていた。

そんな時、彼の口からでたその言葉に、私は愕然としてしまった。





「俺 実は結婚してる。知らなかったよね・・・・・黙っててごめんな」





謝る必要なんてない。


だって私達はそういう関係でもなく まして何か約束したわけでもない。

そう・・・彼は何も悪くないのだから。


それなのに私は・・・

いつの間にか 泣いていたようで

たぶん自分でも気づかないくらいに静かに・・・。

そんな風に泣けるんだなって 自然と頬を伝う自分の涙に驚いた。


「ごめんな ほんと・・・早く香織ちゃんに言わなくっちゃとは思ってたんだけど・・・」


暫く無言で黙ってしまった。何を言えばいいのか解らなくなっていたから。


「いやだなー ほんと人が悪いよね。でもそんな感じには見えないからさ。独身だと思ってたよ。子供とかは?いるの?」

「いや 子供はまだいない。女房だけ。」


まだ・・・という言葉で 夫婦仲は悪くなく できたら早く子供が欲しいという気持ちが窺えた。


「そっかぁ だから所帯じみてないんだねー。なるほど」

「怒ってない?」

「別に怒ってないよぉ・・・へへ 泣いちゃったね なんでだろ。」


私は目の前の冷め切ったコーヒーを一気にぐぃっと飲み干してカウンターの中に入った。


「あのさ・・・俺・・・・・・・」



「私さ 彼氏いるんだよね 」



・・・嘘じゃない。

既にその彼氏とは付き合いだして3年になる。

でも今もその人を彼氏と呼べるかどうかは自分でもよくわからない。

今や彼とは お互いに体だけの関係の方が楽になってきている。

いやそれは違うかもしれない。

そう思っているのは相手だけで、私は彼のことが本当に好きだった。

ただ、彼は私が以前勤めていた会社の先輩とも関係がある。

その先輩は私が本当に信頼している大好きな女性だった。

いつも私の事を心配してくれて、彼とのことで何度か相談を持ちかけた事だってある。

先輩にも付き合っている人がいたし ダブルデートみたいな事もした。

もちろんその彼と上手くいっているものだと思っていた。


だけど私は見てしまった。

ある日の仕事終わり、みんなで飲み会しようということになって

先輩も誘ったのだけど、その日は先約があるからと帰ってしまった。

疑っていたわけじゃない。でもなんだか嫌な予感がした。

その時の先輩の瞳が揺れていたような気がして・・・。

飲み会の後 帰りに通ってみた先輩の家の前

見覚えのある白い車・・・・・間違いない。

二人は車の中で抱きしめあいそして・・・キスをした。

暗がりでも先輩の瞳が濡れているのがわかった。


私のせいだね・・・。


二人は結局私には何も言おうとしない。

優しさのつもりなのかどうかもわからない。

私の憤りは行き先を失った。


そして私は会社を辞めた。

先輩とは今までどおりの付き合いをしている。

そして所謂 『彼氏』と呼ぶ人とも何も変わらない。

別れようと思えばいつでも別れられる相手。

時々私の部屋で会い、ただ義務を果たすかのように私を抱いて

そして帰っていく。

この一年くらいずっとそんな感じの冷めた関係。

最期に外でデートをしたのも思い出せないくらい前だ。


先輩の事は今でも大好きだし これからも仲良くしたいと思う。

あんな現場を見てからも、本心からそう思える。

そんな自分をどこかおかしいんじゃないかって思うときもある。

私が二人の仲を認めてあげれば何もかも上手くいくのかもしれないけど。

でもそうしたら、先輩は私に後ろめたさを感じてしまうかもしれない。

きっと私との関係も ぎくしゃくしてしまうだろう。

彼女は私のことをよく知ってる。

私がどれだけ彼女を慕っているかということも・・・。

だから 言えないんだね。

そんな風に色々考えて、結果何もできずにここまで引っ張ってしまっていた。

二人の関係に私が気付いている事はきっと知らないだろう。




ちりん・・・・・・・・


「いらっしゃいませ」


そんな私の話を、ただ黙って返事もせず聞いていた彼は

来客のタイミングですっと席を立った。


「吉永さん 帰るの?」

「そろそろ行かなきゃ・・・メーカーさんと外回り」


そういって彼は千円札を差し出した。


「そっか じゃあまた明日ね いってらっしゃい。」


お釣りを渡した時、彼が私の手を軽く撫ぜた。

今までそんな事なんか一度もなかったのに

どうして・・・。


入ってきたお客さんにお冷を出し、アメリカンの注文を受けて

私はまたカウンターの中に戻った。

サイフォンの中からコーヒーのいい香りがする。

学生時代はずっと喫茶店で働いていた。

いつか自分もお店を開いて、

一日中コーヒーの香りに包まれていられたら幸せだろうなと

若さゆえの甘い夢を抱いていた。

実家を出て地元を離れ、一人で暮らし初めてからは

そんな事すら思い出さなかったけど・・・。

再就職にここを選んだのは、やっぱりどこかで夢を捨てきれない

甘い自分がいたからだ。


サイフォンの中のコーヒーが

コポコポと音を立てて落ちていくのを見ながら溜息ひとつ。


考えてどうにかなるものでもない。

実際 彼と何かあったわけでもない。

奥さんがいようがいまいが、私たちには何も変わる事がない。

だって何も始まっていなかったんだから・・・。

きっと私たちは想いあっている。

でもお互いにその気持ちを吐露することはできない。


 

このままでいい。



私は自分に言い聞かせた。

何も望まなければ 傷つくことはないのだと・・・。




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