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カフェテラス  作者: 蒼
16/43

カフェテラス 15

「いらっしゃいませ。」



私は今日もいつも通り

喫茶店のカウンターに入ってコーヒーを淹れている。

なつみさんからはあの翌日電話があって、しきりに謝っていたけど

私は何も聞かずに、また飲みに行こって言った。




「香織ちゃん、ランチすぐできる?」

「うん。すぐ出せるよ。急ぐの?」

「師走だからな。ちょっと忙しい。腹減ったぞー 」

「あはは、了解 」



私と吉永さんは何も変わらない。なつみさんの事も話してない。

でもあの日から、オーナーの奥さんに会った日から

私自身が少し変わり始めていた。




「はい、できたよ。急いで食べなきゃ。」



テーブルにお皿を置いた時に吉永さんが私の手を撫ぜた。



「晩は上手いハンバーグ食いにいくぞ。」



聞こえてきた小さな声に、指でオーケーのサインを出した。







「私、チーズハンバーグがいいな。」

「じゃ俺はオムライスのついた奴にしよっかな。」

「そんなに食べれるの?」

「体力いるから・・・この後ね 」

「いやらしーなー 」

「はい。いやらしいです」


そんな馬鹿ばかしい会話が本当に楽しくて

でも私の中にはいつも何かがつっかかっている。



「吉永さんさ、私とこんなに会ってて大丈夫なの?」

「急におかしな事言い出さない。」

「だってさ・・・私達ってほんとに一緒にいる時間多い気がするよ」



昼に会って夜も一日おきぐらいのペースで会ってる私達。

普通で考えたらこの関係にしてはありえないと思う。

確かに明け方には帰って行くし、週末は会えないけど・・・・・


「んな事ばっかり言うなって 」


だめだ。どうしても聞きたくなる。



「もし晩御飯とか・・・・作ってたらどうすんの?」

「・・・・・どした?なんかあったか?」

「別に・・・ただ待ってるんじゃないかって・・・・熱っ!」



私は彼の顔を見れずに、やってきたばっかりのハンバーグを慌てて口に運んだ。

急いでお冷を口に運んだ私に、彼は仕方なさそうに言った。


「いらないって電話してるから待ってない。」

「・・・・・そう 」

「気になるか?やっぱり」


気にしたことはなかった。考えないようにしてたから。

でも本当は気にならない振りをしてきただけ。

私はあの日から吉永さんの奥さんを意識するようになってた。

だけど私が気になると答えればきっと彼は・・・・・



「ちょっと聞いてみただけ。美味しいね。うちの店とおんなじくらい。」

「だな・・・・・今日さ香織ちゃんとこ、泊まっていいか?」

「・・・うん。いいよ。」




その夜、私を抱いた後のベッドの中で

吉永さんはぽつりぽつりと話し始めた。


「香織ちゃん、何か聞きたい事ある?」

「ん・・・何?」



彼の胸の中にしっかり抱き込まれて、私は顔だけそっとあげた。


「俺さ、何も聞かれないからいいかと思って・・・ 」

「うん」

「聞きたくないだろうと思って。でもそれは卑怯なのかもな。」

「私は・・・何を聞いても吉永さんの事きっと好きだよ。」

「大した事なんかなんもないけどさ。」

「うん」

「聞きたい事あるなら言ってみな。」


私は覚悟を決めた。

きっと平気。こんなに彼を愛してるから。



「どんな・・・・人なの?」

「・・・嫁か?」

「うん 」

「別に、普通の何処にでもいる女 」

「何それ。答えになってないよ。」



私はわざと笑ってみせた。

結構無理してるかも・・・。


「高校の時の後輩、いっこ下でさ。それからずっと付き合ってて、そんで結婚したんだけど・・・」


私は彼の話が止まってしまわないよう黙って聞いていた。


きっと平気 大丈夫・・・



「結婚するときにかなり反対されて、ていうか二人とも若かったからな。俺が22の時だから、あいつまだ21だったし 」

「そっか」

「だけど付き合い長かったし、周りの反対押し切って嫁にした。だから・・・・・」

「うん」

「・・・・・・離婚はできない。実家に返すのはやっぱ、かわいそうだから 」



泣かない。私は決めたんだ。この恋愛で泣くのはやめるって。



「・・・・・うん。分かってる。私はこのままでいいから」

「ほんと、ごめんな。」

「・・・・・だって別れたくないもん。」

「俺、ずるいな。自分のことはさておき香織ちゃんは俺だけのものにしたいなんてな。」

「それでいいよ。私は平気だから。愛してるのは吉永さんだけだよ。」

「俺も・・・・香織ちゃんだけ愛してるから。」

「嘘つきだね」

「・・・・・ほんと、お前だけ」


言いながら また私が溺れそうな熱いキスをくれる。




嘘でもいい。



奥さんの事聞いて良かったと思った。

これで私は本当に何も期待したりしない。

その方がいい。

このままが一番いいんだと

その時は本心でそう思っていた。


だけど・・・


それからは彼の向こうに、見たことも無い奥さんの姿を感じるようになった。

どんな人なのか。綺麗な人なのか。仕事はしてるのかな。




そう、まるであの時のなつみさんのように・・・・・




恋人たちのイベントの日は二人で朝まで過ごした。

例のごとく秋山さんに頑張ってもらって。



クリスマスプレゼントはラピスのピアスだった。

すぐにつけて見せたら似合うよって言ってくれた。

私が彼に用意したのは一生懸命作ったお料理と、あとドンペリ。

ピンクは高くて無理だったからホワイトだけど。

色々迷ったけど形の残る物はやっぱりいけないんじゃないかと思って。

吉永さんは私の手料理を旨いと言って全部食べてくれた。



でもさすがにお正月は無理だった。

年末年始は実家に帰らず一人アパートで過ごした。

もしかしたら彼がくるかもしれないから。

家族には友達と旅行に行くといっておいた。

父に気をつけて行って来いと言われ心が痛んだ。

結局、時々電話はあるものの彼に会える事はなかった。

でも会いたいとは言わなかった。


去年のお正月はどうしてたかなと思い出そうとしてやめた。

もう過ぎた事だから。

振り返らないって決めたから。





月日は確実に流れていく。もうすぐ暑い夏が来る。





相変わらずの私達だけど

ある時何気なく私から出た言葉に吉永さんは困っていた。



「一度でいいから奥さん、見てみたいな。」

「はあ?勘弁して、香織ちゃん」

「いいじゃん。興味だよ・・・っていったら失礼か。」



困らせるつもりはないけど、本当に一度見てみたかった。



私が愛してる人の奥さんを・・・・・。





「変わってるな お前。普通見たくないんじゃねーの?」

「そっかな。見ても平気でいる自信あるよー。」


わざとふざけてみせた。


「・・・・実は俺、嫁に昼飯食いに行く店のこと話したことあってさ。」

「そうなの?」

「香織ちゃんとこうなる前な。お昼どこで食べるのって聞かれたことあってさ。

そしたら一回行ってみたいって、何回も言われててさ。でも香織ちゃんには会わせたくないから」

「じゃ、連れてきてよ。土曜日なら吉永さん休みだし、私は店出てるからさ」

「まじかよ。お前、本気か?」

「関係ないよ。吉永さんが好きなのは私なんでしょ?」

「香織ちゃんが一番好きだよ」

「だったらいいじゃん。ね」

「何で急にそんな事言い出した?」

「ん?・・・・・別に・・・・・・・・・理由はないよ」



ほぼ無理やりに納得させた。どうしても見てみたかったから。

奥さんの事聞いても何も変わらない私に

安堵してるのか気を許してるのか

吉永さんは渋々だけど、最後は判ったって言ってお手上げのポーズをした。




嫌なことは早めに終わらせたいのか

早速その次の土曜日に、彼は奥さんを連れてやって来た。










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