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カフェテラス  作者: 蒼
13/43

カフェテラス 12

月曜の朝、たっぷり睡眠もとってすっきりした私。

過ぎた事をいつまでも考えてもどうしようもない。

まして私はこんな時でも

今日は吉永さんに会えるんだと思うと嬉しくって堪らなかった。


お昼になれば会える・・・・・そう思うだけで幸せな気持ちになれる。

自分に負い目がなくなった分、余計にそう思うのかもしれないけど。




「いらっしゃいませ。」

「今日のランチ何?」

「ポテトオムレツだよ。」

「それとコーヒーね。」

「かしこまりました。」




いつもどおりだけどいつもとは違う私。

でもきっと吉永さんは気づかないだろうな。

私が彼氏と別れたよって言ったら困るのかな。

なんで別れたの?なんて言われたらどうしよう。

そんなネガティブな事ばかり考えてしまう。



「香織ちゃん、アフターちょうだい」

「あ・・・はーい」




「吉永さん あの・・・・・・」


コーヒーを持っていった時 小さな声で話し掛けたら


「あと電話するから・・・」


小声で返事が返ってきた。

たったそれだけの事が私の心を躍らせる。


「うん」



夕方に私が帰る時間になっても携帯が鳴らなくって

帰ろうかどうしようかと考えあぐねていたらやっと連絡がきた。



「今日、今からさ、友達と飲みに行くから。香織ちゃんも来いよ。」

「え?私が行っていいの?まずいんじゃないの?」

「いいから。香織ちゃんの事も話してあるから。」

「どういう事なの?」

「とにかく迎え行くのは無理っぽいから、悪いけどタクシーで来てくんないか?」



何が何だか分からないまま、取り敢えず言われたとおりにした。


ただ会いたくて会いたくて・・・・



待ち合わせはなつみさんの店だった。



「こんばんは。」

「あれ?今日も来てくれたの?」

「待ち合わせなんだけど・・・・まだ来てないかー。早すぎたみたい。」

「吉永さん来るの?」

「うん。友達と来るらしいけど・・・・・」

「とにかく座って・・・・・って言いたいんだけど、ゆかちゃんお願い!ちょっと手伝ってくれない?

まだ誰も出て来てないし、小鉢ができてないのよね。」

「ふふ、はい、喜んでご奉仕いたしましょう。」



厨房に入ってママと一緒に小鉢の盛り付けをして

あとちょっと二人でつまみ食いして・・・・・



「なつみさん、その後連絡とかあった?」

「あるにはあったけど・・・変わりないらしい。」

「・・・・・・そっか」




「おはよーございます。」



まきちゃんの御出勤だ。



「あら?ゆかちゃん もしかして復活する気ありかな?助かるなー。」

「違うよ。待ち合わせなんだけど、ちょっとボランティア活動してるだけ。」

「なんだー。まじでもう一回戻っておいでよ。人手不足だしさ。」

「えみちゃん 今日は来るかな。」

「さあ、どうだろ。えみちゃんも色々あるんだろうしね。」



なつみさんの言葉でこの話は終わった。

でもきっとみんな心の中では心配してるのがよくわかる。


えみちゃん、今どうしてるの?




結局 吉永さん達が来たのは8時過ぎた頃だった。

私はそれまで暇だったので、来ていたお客さんにビールを奢ってもらって適当に話をしていた。

そのお客さんは働いてる時にもよく来ていた常連さんだから話しやすいし。

それにしてもやっぱりこの仕事は嫌いじゃない。

まじで向いてるかも・・・なんて思いながら。

そのお客さんにごめんなさいって断って吉永さんの傍に行った。



「吉永さん 遅かったね。」

「おう・・・・・って、お前何してんだ?」

「ふふっ、ボランティア」

「・・・・・まあいいけど」



あれ?怒らせちゃったのかな?



「こんばんは」


吉永さんの連れの人が私達に痺れを切らして話しかけてきた。


「あ、いらっしゃいませ・・・・・じゃなくて、こんばんは」


最後の方は声が尻すぼみになってしまった。



吉永さんは特に私を紹介することも無くって 私はとりあえず吉永さんの隣に座った。


「吉永さん、ゆかちゃん すんごく待ってたよ。」


まきちゃんってば、ゆかちゃんって・・・それはちょっとまずいよ。

だって私は 『 香織 』 なんだからさ。


「香織ちゃん、友達の秋山。飯食ってからきた。」

「あ・・・どうもです。」


いざ紹介して貰っても今度は何と返したらいいのかわかんない。


「俺、全部聞いてるから大丈夫だし。」


秋山さんはそう言ったけど全部って?

それより吉永さん、機嫌直ったかなぁ。



「ノブ 手出すなよ。」



吉永さんが私の顔の前に出てきてそう言った。



「はいはい。わかってるって。」



良かった。もう怒ってなさそう。




とても爽やかな雰囲気を持つ秋山さんは吉永さんの同級生だそうだ。

ちなみに結構男前だったりするかも。

でもそんな秋山さんはとっても無口な人でちょっと話しかけにくい。

だけど伊達に客商売してない私としては、何とか場を盛り上げようと思った。

今は勤務中じゃないけど、何となく癖になりつつあるなぁ。



「秋山さんと吉永さんっていつの同級生なんですか?」

「高校の時からだから結構長い付き合いだよな」

「へぇー。吉永さんの高校生の頃の話とか聞きたいです」

「別に。普通にやんちゃしてたぐらいだから。」


話がなかなか弾まないなー。難しい人だな・・・・って 


ちょっと・・・?吉永さん 手握ってるし・・・


もうっ 秋山さんにばれるよ。


そりゃ・・・嫌じゃないけどさ//////


秋山さんは独身らしいけど彼女持ちだそうで、でもあまり話したがらない。

言葉の少ない人でちょっとだけ、隆志みたいだなって思った。



それにしても私の事、どういう風に話してあるんだろうか?

聞いてみたいけど怖くて聞けなかった。

それはきっと、自分の立場が今更になってようやくわかってきてたから。



「そろそろ帰ろかな。明日仕事だし」


秋山さんが席を立ったので、今日は一人で帰るしかないと思ってがっかりしてたら


「香織ちゃん、こいつ頼むわ。」



頼むわって・・・そんな事言われてもどうしたらいいんだか



「お前は酔い覚ましてから帰れ。じゃ俺行くわ。」

「おう。またな。」

「香織ちゃんもまたね。」

「あ・・・はい。また。」



そう言って秋山さんはさっさと帰ってしまった。


「俺らも行こうか?」

「ていうか運転できるの?」

「そんな飲んでないよ。」

「・・・・・話したい事あったんだけど」

「うん。どっか海でも行ってみるか?」

「夜の海か。それ嬉しいかも」



なつみさんに、また来るから何かあったら連絡してねって言ったら

耳元で ”頑張れ”って囁いてくれた。

とても心強かった。




でもね なつみさん・・・・私は・・・・・








「やっぱり海は気持ちいいなー。」


「もうだいぶ涼しくなってきたな。風邪引くから 車乗れ。」



いつも間にかもう9月も半ば。

大好きな季節はあっという間に過ぎてしまいそう。

夜の海はとても静かで穏やかで、今だけは私達二人のもの。






「・・・・・私ね 彼氏と別れたから。」

「うん・・・・・」

「でもね、吉永さんの為とかじゃないから。私の意志で別れたの。だから吉永さんは何も思わなくていいからね。だって関係ないから。」

「香織ちゃん?」

「私ね、最後まで彼氏の事わかってなくってさ。本当に最近どうしようって感じで。いつか結局は別れてたと思うの。ほんとだよ?だからさ・・・・・」



続きを言う前に私は彼の胸の中にいた。



「もういいから・・・わかったから」


もう泣かないって決めていた。決めてたのにやっぱり私は泣き虫だ。



「なんで涙出るのかな。変なの。へへ・・・・・」



吉永さんは私の涙を唇で拭ってから耳元でそっと大好きだからと囁いた。

私が泣いたら吉永さんを責めてしまう気がした。


「また好きになりすぎて涙出ちゃったし」


そう言って笑ったら吉永さんがぎゅっと抱きしめてくれて、泣くとブスだなって笑った。

でもその口で溶けるような熱いキスをしてくれた。



これだけでいい。もう何も考えられない。吉永さんが好きだから。

なつみさんみたいに何も期待なんかしない。

私はこのまま吉永さんと、こんな風に一緒にいたいだけだから。


それだけでいい・・・・・。







その日吉永さんはいつもより激しく私を抱いた。

二人とも一睡もしないでずっとただ抱き合っていた。




もうすぐ夜が明ける。










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