カフェテラス 11
「ゆかちゃん、この後 暇?」
閉店前になつみママがそう聞いてきたので暇だよと返した。
今日はどうしても一人で居たくなかったから。
こんな時なのに大好きな吉永さんには連絡もできないなんてね。
正直 昼間のまこちゃんの言葉が堪えていた。
「ちょっとだけ付き合わない?私に」
「うん、いいよ。」
まきちゃんはお店のお客さんと一緒に閉店と同時に消えていった。
もう一人の子はとても冷めた子で、お客さん以外には愛想もなく
お疲れでしたーって帰ってしまった。
店に残ったのは私となつみママだけで
外灯は落として店内の明かりを半分だけ消して
二人でカウンターに座っていた。
「飲み足りなかったんじゃない?ここで良かったら一緒に飲みなおそっか」
「うん。ていうかここで飲んだ方が私はいいかな。」
なつみママは新しいヘネシーを一本開けて、バイト代だよって言って笑った。
私もつられて笑ったけど、たぶんきっとちゃんと笑えてはいない気がした。
「ママ、今日はオーナー迎えに来ないの?」
「なつみでいいってば・・・今日はね、来ないよ」
「そうなんだ」
黙って暫く二人で飲んでいたけど、二杯目のおかわりをした時に
なつみさんが ぽつりぽつりと話し始めた。
「私ね。オーナーの事、本気で好きなんだよね。京子ママと付き合ってた時からずっと好きでさ。
結構始まりは簡単だったけど・・・ふふっ・・・・それもどうなのって感じだよねー。
健吾もね。もうちょっと待ってくれたらって言ってくれたしさ。
うちの親にも会ってもらってるの。もちろん親には色々内緒だけど・・・・」
「それって、離婚・・・・して・・・・結婚・・・・・するの?そんな事できるの?」
「できると思ってたし、信じてた。健吾は私を選んでくれたんだって」
「本気なんだね、なつみさんの事・・・・・いいなぁ」
「でもね、そんな簡単じゃなかったよ やっぱり。」
「え?」
「奥さんがね、ちょっとおかしくなっちゃったらしくて・・・・・」
なつみさんはそこで一旦言葉を切って
グラスの中のブランデーを一気に流し込んだ。
「健吾ね、離婚の話したらしいんだけど・・・・・それからは仕事以外、ずっと監視されててさ
時々仕事中にも電話とかはあるんだけど、もう参ってるみたいで・・・私もどうしたらいいかわからないし 」
「なつみ・・・・さん・・・・・」
「ごめんね。こんな話して。でもゆかちゃんになら聞いてもらえるかなって思って・・・・・」
なつみさんが何を言わんとしているのかすぐに理解できた。
『 同胞相憐れむ 』
私達の恋愛は他の人にはわかってもらえない。
身に染みて分かった事だった。
「いいよ。私も同じような感じだもん。なんだか一人で居たくなくってさ。」
「やっぱり・・・吉永さん?」
「・・・・・ん。でも私の場合は彼の方じゃなくって、私の方に問題ありって感じかな?」
「何それ・・・・」
私はなつみさんの話を聞いてあげるどころか、結局自分のの事を全部話していた。
誰かに聞いてもらいたかった。
自分を肯定するつもりはないけど。
でもそんなにいけない事してるのかな、私。
「ゆかちゃんは奥さんの事 気にならないの?」
「ん、正直見たことも無い人だから、あまり気にしたこと無いかもしれない。」
「ふーん そっかぁ。私はすごく気になるんだよね。」
「ふうん」
「例えばさ きれいな人なのかなーとか、料理上手なのかなとか・・・・・」
「そんな事気になるの?なつみさんだってきれいだよ。」
「きれいじゃないよー。お化粧で化けてるだけだもん。」
「じゃ、よっぽど化けるの上手いんだねー。」
そう言って二人でけらけらと笑った。
きっと心からは笑えてない二人だけど、それでも心が軽くなっていく気がした。
今日一緒に飲んでくれたなつみさんに感謝した。
なつみさんはきっと今心中穏やかではいられないだろうなと思って
私でよかったらいつでも連絡してねと伝えた。
なつみさんは お互いにね と言ってくれた。
夜明けまで色々語り合ってタクシーを呼んで店を出た時
ちょうど新聞配達のお兄さんが新聞を配っていた。
「おはようございまーす。」
大声で挨拶をした私達にお兄さんは目をぱちぱちしながら行ってしまった。
それがなんだか可笑しくて、二人でタクシーの中で笑った。
先に私を降ろしてもらって、また近いうちにと約束してからなつみさんは帰っていった。