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カフェテラス  作者: 蒼
10/43

カフェテラス 9

次の日のお昼、思った通り吉永さんはかなり心配していて

殴られたんじゃないかとか聞いてきたけど

仕事中に話すようなことじゃないから

大丈夫だったよとだけ、笑顔で返した。

そしてそれ以上は話ができなかった。



仕事が終わる頃になって、吉永さんから携帯に連絡があり

あと少しで仕事が終わるから送って帰るって言われたけど断った。

今日はきっと、間違いなく隆志がやってくる。

一人で家に帰って隆志からの連絡を待った。


晩御飯に作ったチャーハンは、とても喉を通らなくって

カチャカチャとお皿の上でスプーンを弄んでいると

玄関のチャイムが鳴った。



「はい」

「俺」



連絡しないでくるなんて、めずらしいね・・・。




隆志は私が残したチャーハンを見て

いらないなら自分が食べるから温めてくれと言って

いつもの場所に座って、テレビを見ていた。

まるで何事もなかったみたいに。


どういうつもり?


言われたとおりチャーハンをチンして隆志の前に出すと

彼はそれを無言で食べ始めた。

これじゃいつもとおんなじ。


だめだ。今言わなきゃ。


「あのさ・・・昨日の話の続き、していい?」


返事がない。無視してる。


「隆志ってば・・・・」


ガシャーン!


「だからさ 別れないって言ったよな。」


お皿の中にあったものが床に散らばってる。


・・・片付けなくっちゃ。


「お前 何で別れたいの?理由あんだろが」


彼の質問に答えることもはせず、私は部屋の中を片付けた。

下向いてると、床に涙がぽたぽた落ちていく。


「泣くほど俺が嫌なわけ?」


「・・・・・・・・」


「何とか言えよ。」


ここでまこちゃんの事は出せない。

そんなの卑怯すぎる。

実際二人がどうなってるのかはわからないし。


「隆志さ、私と付き合ってる実感ある?私はそんな感じ全然しない。

だってたまに来て・・・・その・・・するだけじゃん。そんなの嫌だし。」


私は何を言ってるんだろう。

これじゃ隆志が冷たいから淋しかったんだと

そういう風にとられてしまうのではないだろうか。


「お前だって、俺に連絡してこないじゃん。」


確かにその通りだ。

私は昔から余程の事がない限り、彼氏を自分から誘ったりはしない。

断られるのが嫌だから。

そんな変なプライドがあって、自分から遊びに誘ったことはない。

自分が会いたがるより相手が会いたがってくれて

自分が優位に立っている事に安心してしまう。

ずるい癖だ。


「そう・・だけどさ・・・・・」

「今回の事はもういい。俺ももう何も言わないし、聞かないから 」


そう言って隆志は私の腕を掴んで引っ張り寄せた。

今片付けたばっかりのチャーハンがまた散らばった。


「やめて・・・散らかってるから、これ片付けないと・・・」


声が出てるのかどうか自分でも分からない。


「あとで片付けろ」

「でも・・・ちょっ・・・・・」


そのままベッドに押し倒された。

慣れたキス。慣れた指。どんどん進んでいく。


「・・・もう怒ってないから泣くな。お前すぐ泣くよな。」



違う・・・


泣いてるのはこれ以上何をどう言えばいいのかわからないから。

拒否することも出来るはずなのにどうして・・・。




私は本当に駄目な女だ。




隆志はそれからは何も言わなかったけど

いつもならすぐに帰っていくのに、その日は泊まっていった。

朝になって私の淹れたコーヒーを旨いと言ってくれて、仕事に行くからと出ていった。

彼なりに優しくしてくれているつもりなんだろうと思った。

もしかしたら隆志は、私から連絡があるのを待ってたのかなぁ。

そしたら前みたいに、付き合い始めの頃のように楽しくできたのかな。


だけどだめ・・・やっぱりこのままじゃいけない。

今度こそきちんと話して別れてもらわないと。



自分の事 これ以上嫌いになる前に・・・。




それから支度して、仕事に行こうと玄関を出ると

アパートの前に見覚えのある車が止まっていた。



・・・まさか・・・・・吉永さん?




慌てて車に駆け寄って行ったら

おはよって吉永さんが言ってくれて


「こんな朝早く会うの初めてだな。お前化粧濃すぎ。ぷっ」


そう言って笑った。


いつからここにいたのか怖くって聞けなくて、ただ笑って返した。



「喫茶店に同伴出勤はまずいからな。途中で降ろすよ。」



助手席に乗ってすぐ、私はたまらなくなって

ごめんなさいと、一言だけ小さく呟いた。


「謝ること・・・無いからさ。」


私が暗黙のうちに昨夜の事を謝罪していることに

気がついてるのかどうか、それはわからないけど

ただわかっているのは、

私たちの関係はとても不確かで 

普通の恋人たちのようにお互いを責めることもできない。

そうすれば壊れてしまう程・・・とても脆い。

いっそ問い詰めてくれたら、少しは楽になれたかもしれない。

何も言わない二人。

でも吉永さんはずっと手を繋いでいてくれた。

それだけで彼の気持ちが伝わってくるから。



「ちゃんと別れようと思ってる。これは私の意思だから・・・」



そうはっきりと彼に告げてから

途中で車を降りて私は仕事に向かった。






仕事が終わってすぐ隆志に電話した。

私からかけるのは本当に久しぶりの事だ。



「まだ仕事中。」

「そか。ごめん。また夜かけるから。」

「今日は約束あるから・・・行けないぞ。」

「そうなんだ・・・・」

「ああ。会社の連中と飲み」

「そう。じゃ明日またかける。」

「・・・・・・・遅くていいなら、帰り寄ろうか?」


いつもと違う、昔聞いた優しい声。

でも決心したから。もう自分に嘘つけないから。


「無理じゃなかったら、来てくれる?」

「おう。わかった。じゃな。」



11時過ぎた頃、約束どおり隆志は来てくれた。

お土産と言いながら、買って来てくれた たこ焼き を渡された。

彼らしいお土産だなと思うと、ふっと笑みが零れた。


「二日続けて香織の顔見るのは久し振りだな。」

「・・・・・そだね。いただくね。」



たこ焼きはもうすっかり冷めていたけど、隆志の気持ちが嬉しくて

美味しいと何度も呟きながら食べた。

そのうち鼻がツンってしてきて、ぐすぐす泣きながら食べた。



「・・・・・お前 男、出来たか?」


「・・・・・・ごめん。好きな人・・・できた」


「こないだのやつか?」



何も答えられなかった。

言えば会わせろとか言われるかもしれない。



「今日は怒らないからほんとの事言え。あいつか?」

「・・・ごめんなさい。」

「俺も悪かったな。ほったらかし過ぎたよな。」

「私が悪いんだよ。隆志は何も悪くない。ほんとにごめんね。」

「別れる気無かったのはほんと。俺まじでお前好きだし・・・もう、絶対無理か?」


ここにきて優しく頭を撫ぜながらゆっくり話してくれる隆志に、心が揺れた。

なぜこんなに弱いのだろうか。

今なら、今無理だと言えば、この人とは終われるのに・・・。

あんなに別れたいと願ったのに、もう一人の情けない自分が顔を出してくる。



「お前さ、会いたいなら自分から連絡とかして気持ち伝えた方がいいんじゃね?じゃないと男も不安になるしさ。」

「・・・・・・・ご・・・めん・・・うっ・・・・ひくっ・・・・」

「泣くなって。もう・・・わかったから・・・大事にしてもらえ。お前はすぐ泣くから。」



隆志のその終わりを意味する言葉に余計泣けてきた。



「香織」

「・・・・・はい」

「なんかあればいつでも言って来いよ。」




気がついたら私は自分から隆志の胸の中に飛び込んでいた。




「・・・最後だから・・・今日だけ・・・・・」





隆志は黙って私を抱いてくれた。こんな最低な私を・・・。

抱かれながら色々な事想いだしていた。



あまり言葉が上手じゃない隆志だけど、そんな所も好きだった。

出会いはナンパだったよね。

彼氏がいた私に別れさせてやるからって、だから俺と付き合えって、

今思えばすごく強引だったけど・・・。

あの時、その彼氏に話をした時も、一緒に一生懸命に説得してくれて

最後は男二人で握手してたよね。変なのって三人で笑ったね。

そんな隆志の事を、今になって想い出してた。







「・・・もう行くわ。泊まったら 気変わるかもしんねえし。」

「うそばっかり。そんなつもりないくせに。」


名残惜しそうにベッドの中でいつまでも私を抱きしめていた隆志は


「女々しいからやめた。」


そう言って私の頭を撫でてから、ベッドを出て帰り支度を始めた。



本当に終わりなんだね・・・。



「隆志には私なんかより他にいい子いっぱいいるよ。」


暗にまこちゃんの事言ったんだけど、気づいてくれたかな?



「そうだな。香織みたいな泣き虫より、次は強い女見つけるか。」

「そんなに泣くかな。私」

「怖い夢見たっちゃ泣いてたし、会社でやな事あっても泣いてたぞ。」

「うそー。そんな事無いでしょ。」

「・・・・・・・そんなとこも可愛かったけどな。」

「・・・・・・・強い女がいいって今言ったばっかりじゃん。」


こんなに二人で会話したのはほんとに久しぶりで

いつまでも話してしまいそうで・・・


「・・・じゃ帰るわ」


また泣きそうになったけどぐっと我慢した。

私が決めたことだから泣いちゃだめだ。

隆志はもう一回、私の頭くしゃくしゃってして最後に言った。



「結局 髪切らなかったな。ショートの方が好きだっていったのによ。」



・・・そんなに優しく・・・しないでよ・・・





バタン・・・





玄関が閉まって暫くして、隆志の車のエンジンの音が遠くに聞こえた。

その音を聞いて、私は大声で泣いた。

近所に聞こえるかもしれないくらいの泣き声で、一晩中泣いていた。

自分が望んだ別れがどうしてこんなに悲しいのか

自分の中の何がそんなに溢れてくるのか分からなかったけど




ずっとずっと涙が止まらなかった・・・・・










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