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世界が壊れてしまった、幼き神

長い間を空けてしまい、申し訳ありません。

次回はGWまでに上げたいと思います。


世界は数多あり、それぞれを治める"神"とも"管理人"とも呼ばれる存在も、その世界の数と同等数存在した。

"神"は世界と共にあり、管理下に置く世界を己が考えの基により良く進化させる存在だった。


世界に存在する命と親密な関係を築く神もあれば、時折目覚めて経過を観察する程度にしか干渉しない神も居る。

世界の成長の速度も、その中で育まれる文化も、世界に対する認識も、どれか一つだけならば重なる世界はあれど、その全ての要素の組み合わせともなれば数多にある世界の数だけの違いが存在する。


アウネは、そんな神々の中でも幼い神と部類されていた。

兄・姉とも呼べる神は数多くあれど、弟・妹と呼べる神など人間の片手程しか存在しない。

大兄・大姉とも呼ばれる、アウネのような幼き神には眩暈を起こしてしまう程長く存在し、自身の世界を成熟させきった神々達の温かな眼差しに見守られながら、幼き神々は自身の世界をまず形作っていく。

そんな中で、アウネは尊敬する一人の大兄が作り上げた世界を参考にして、自身の世界を形付けた。


世界に生きる命達が生き易いようにと、力を授けた。

特に、アウネの事を愛し、何かとアウネに問い掛けて頼ってくる人間には、世界を構成している理に干渉することが出来る力を与えた。

それは、アウネには考えもつかない世界が生き易さを人々が生み出していくことが出来るようにという配慮であり、それを人々にさせることで余計な管理から解放されてアウネの手が空き、より人々と関わる時間が生み出せるという思惑があったからだった。

アウネは、人々の訴えとよく聞いた。特に、アウネが授けた力との相性が良く、強く顕現させた人間を寵愛し、その声をよく聞いた。


アウネの世界が順調に、美しい調和を持って成長していた頃、神々の集いがあった。

自身の世界の在り方や美しさを自慢しあう、ただそれだけの暇潰しのような集まりだったが、己が世界への自信に溢れた幼き神々は意気揚々と集いに参加した。

そんな集いの中、アウネの世界は同世代の神々や下の世代の神々の世界の中では一番だと、褒め称えられた。

アウネはそれらの言葉を鼻高々に受け取り、そして尊敬する大兄に褒めていただこうと、上の世代の神々が車座となって、酒を飲み明かしながら話に花を咲かせている場所に赴いた。


だが、そこではアウネの世界はまだ少し、と苦笑と諭しの言葉が与えられた。

尊敬する、その世界を参考にした大兄にまで苦言を呈されたアウネは、ただただ何故と呆然とするしかなかった。


そんな年長の神々の間で話題となっていたのは、アウネの世界と隣接する"地球"と呼ばれる世界の神。

自身は"神"ではなく"管理者"と名乗る、アウネにとっては一つ上の世代に属する姉にあたる神だった。

アウネとは違い、世界にある命をその手を差し伸べて助けもせず、命が生き易いように世界を整えてやることもない、そんな世界だと、彼女を褒め称える神々の話の端々からアウネは聞き取った。

アウネにしてみれば、それはただの怠惰。彼女が世界の管理をおろそかにしているとしか受け取れなかった。

なのに、大兄・大姉達は「問題点もまだまだ多いが…」と言いながらも褒め称えている。

神に頼ることの出来ない命達は、己の経験と世代を越えた時間をもって自力での進化を遂げ、強く逞しい、他の世界の命には無い輝きを持った存在となっている。

その命達は、時として自世界では解決出来ない局面に陥ってしまった他の神々の世界に招かれ、その世界に新しい局面や可能性を芽生えさせてくれるのだという。

成熟してしまった世界を持つ大兄達の多くも、その恩恵を受けたのだという。

わたくしなど、まだまだに御座います。まだまだわたくしの心が未熟な為に、不要な場面でもついつい手を差し伸べてしまうのです。大兄方の言葉は嬉しくは思いますが、あまりにわたくしには過ぎた言葉に御座います。」

そう言って、深々と下げた顔を真っ赤に染めた『地球の管理者』と称する姉の姿を最後に、アウネの目の前は真っ黒に染まる。

集いの場からどうやって自身の世界に帰ったのかも分からず、自身の世界にある神殿の中でアウネが選び出した神官達によって慰められている所で、アウネは我に返ったのだ。


それから、アウネが神々の集いには赴くことはなかった。

怠惰でしかない姉が褒め称えられる理不尽な神々の愚かな言い分などに、アウネが造りあげた神と人が親密に接し協力し合う完璧な世界が無下にされることなど許せるわけもない。

そう思ってのことだった。

何もかもを忘却の彼方に送り、アウネは自身の世界を愛でることに全てを注ぎ込んだ。

ただただ、己が世界を愛で、人々を助ける偉大なる神であり続けた。



そんなアウネが、姉の事を、"地球"という世界のことを思い出したのは、数多の時間が過ぎ去った後のこと。


アウネが大切に大切に、彼の寵愛と多くの力を授けられた神官達と共に管理してきていた世界が、崩壊を始めた頃だった。


最初の綻びは、本当に小さなものだった。

「アウネ神様が出るまでもありません。貴方の力を授けられた私達にどうかお任せ下さい。」

そう言った可愛い神官達の好意に甘え、任せたことがいけなかった。

気づいた時には、アウネでさえも容易ではない程に壊れていた世界。

多くの命が、何故、何故、とアウネの名を呼びながら、消えていった。

残った命達も、アウネに疑問を投げ掛け、助けを求め、そして最後には怒りや憎しみというおぞましい感情をアウネに対してぶつけてくる始末だった。


そして、アウネは妙案を思いつく。


神が管理を放棄している世界が、すぐ隣にあるじゃないか、と。

そこに僕の愛する皆を導いて、もう一度最初からやり直せばいい。神に見捨てられている命達も、僕が助けてあげればいい。

怠惰な性質の姉も喜んで、僕と僕の民達を受け入れてくれるだろう。



それからは早かった。

世界を渡る為に、と人々が乗り込める船を作らせた。

強い力を持っている者達に協力させた。

そして、醜い何かになってしまった多くは新しい世界に持ち込むことは出来ない、とアウネを愛してくれている民達だけを船に乗せた。



"地球"という世界に来てみれば、そこは本当に神に見捨てた世界だった。

人々は力を持たず、何をするにも手を汚し、アウネ達からすれば玩具のようなものに頼らなくてはならない生活を強いられていた。

神の力を授けられた"魔法少女"と名乗る存在が居て、怠惰とはいえ自分の世界を失いたくないという姉の我侭な命によって、アウネ達を攻撃してきた。

だが怠惰な姉は、弟であるアウネの前にさえ、姿を見せなかった。

全てを部下に丸無げして、アウネ達の抵抗によって傷つき倒れていく自身の民に助けの手さえ伸ばさなかった。

次第に、魔法少女達もアウネの民達の境遇を哀れみ、共感さえ抱いた。それに続いて、"地球"の民達もアウネを受け入れるようになっていった。

それでも、『地球の管理者』は現れなかった。


アウネは、そんな姉に怒りを覚えた。

そして、この世界に今まで受けることが出来なかったしっかりとした管理を与えてあげよう、とより一層強い決意を胸に抱いた。


今、アウネが管理を始めた"地球"は、何の問題もなく上手く動いている。

あの、最後の魔法少女の存在も目障りとは思えても、何の支障も無いと感じていた。


なのに、どうしてアウネに一番近い存在だった、一番の愛を与えていた大神官は、アウネに反する事を言い出したのだろう。駄目になってしまった、アウネが思い出したくもない失敗を思い出させようとするのだろうか。

つい強く叱り付けて、ちょっと八つ当たりをしてしまった。だけど、たったそれだけなのに、どうして姿を消してしまったのか。


『世界の管理者』も何処に姿を隠しているのだろうか。

怠惰な姉の代わりを務めてあげるのだから、お礼くれい言ってくれても良いだろうに。

なんて無礼な人なのか。

ちょっと礼を言って、詫びに頭一つ下げてくれれば、アウネの神殿に住まわせてあげてもいいのに。


どうして。

その言葉は、アウネの頭から離れることが無かった。






「愚かなガキが。」

大兄おおあに様。」

「お前も馬鹿だな、『管理者』。こうなっちまったら、最初からやり直した方が早いってぇのに。」


「そんな事をしたら、私の子供達が全員消えてしまいます。」


母親おまえがこんな目にあっているってぇのに、あの馬鹿の下で平然とした顔をしている奴等を、まだ子供っていうのかよ。それも、あらかたの事情は知ってる筈の奴等が先導して。」

「それは…幼く、己の世界を捨てたとはいえ"神"ですもの。その力には逆らえない、仕方ないことです。それに、まだ一人。私を助けてくれている娘が居るのです。あの子が居る限りは、まだ世界を壊してしまう訳にはいきませんわ。」

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