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正義の味方・魔法少女は指名手配されています。  作者: 鵠居士
魔法少女に相棒が出来ました。
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「それにしても、大丈夫なのかな?」

「何が?あっ、ウノ。」

狭い部屋をより狭くするのは、6体の精霊獣達が人型を取っているから。

静音とニコル、人型を取った精霊獣達が部屋の中で歪な円陣を組んで座っている為、部屋はとてつもなく狭い。もう、足の踏み場が無いなんて言っていられない程の密度だった。夏の盛りは過ぎたとはいえ、まだまだ暑い日差しが差し込む日々。流峰が風を送り、睡蓮がミストを発生させていなければ、確実に生身の静音とニコルは熱中症で倒れていたことだろう。もちろん、指名手配中の静音と訳ありのニコルが病院に行くことは出来ない。陽妃の世話になって部屋で安静にしているだけとなる。だが、日々の生活の為に、人の目に着かないように例え低賃金の仕事であろうと働かなくてはいけない静音にそんな時間は無い。ましてや、本当は食べなくても良い精霊獣達とは違って、しっかりと食べなくては生きていけない食い扶持が増えたのだ。突然やってきた居候に思うところはあるが、それでも追い出そうという思いは何時の間にか消えていた。精霊獣達も静音にとって大切な家族ではあるが、こうして気安く話せる相手が増えた事を内心、静音は喜んでいた。



次に、心配なニュースが入ってきました。ニコル大神官が急病により、しばらくの間休養に入るということです。


円陣を組んでウノやババ抜きなどをしていた中、付けっ放ししていたテレビから聞こえたアナウンサーの言葉が、何か強調するかのように大きくなって静音たちの耳をうった。

全員の手がとまり、テレビの画面へと集まる。

そこには、穏やかな慈愛に満ちた笑みを浮かべるアウラの民の指導者の一人、大神官ニコルの写真が大きく映されていた。

アナウンサーが一通りの説明をした後、街頭での人やアウラの民に対してマイクを向けている映像が映し出される。

マイクを向けられた人は口々に心配の言葉と励ましの言葉を紡ぐ。

そして、数人の言葉を映し出した後、映像は違う場所へと移された。


遠目にも涙を流し目元を真っ赤に染めているのが分かる、かつて『地の魔法少女』と呼ばれた女性の姿が映された。

「葵…」

その声はテレビからではなく、一番テレビから遠い位置から。そこに座っているのが誰か、分かっているから誰もテレビから目を放して振り向いたりしない。

静音の隣に座る、葵と契約を交わしていた董源でさえ、口を噤む。

その声は、あまりにも哀しい響きを含んでいた。


しんみりとした空気が部屋を覆いつくしたのだが、次に映し出されたものに静音が引き攣った悲鳴を上げることで払拭された。

それは、きっちりと魔道警備隊の隊長服に身を包んだソーンの姿。

静音には信じられない、どことなく悲哀が漂いながらも必死に表情を整えて浮かべたなんて思わせるような爽やかな笑みを浮かべて、ソーンは「ニコルはすぐに良くなって、皆の前に元気な姿を見せてくれますから。」とマイクに向かって話していた。

そして、すぐに会議があるからと背中を向けて去っていく。


そこでようやく、我に返った黒耀がテレビを切った。

「そうか。反応が無いなと思っていたのは、会議とかがあったからか。」

「静音が男連れなのに何も反応が無いのは可笑しいと俺も思ってたんだよな~」

沈黙の走る空気を如何にかしようと思ったのか、黒耀と灯雫が話し始める。

「それにしても、お前病気だってよ。ウノとかしてて大丈夫か?」

灯雫が冗談を口にすれば、暗い顔をしながらもニコルは言葉を返した。

「こちらで充分に静養させて頂いていますから。」

それは、ある意味本当のことだった。

この家に来た時、ニコルは全身の至る所から血を流していた。静音に向かって土下座をしていたが、その後は三日程寝込んでいた。

アウネの仲間達の下にはもう戻れなくなってしまった彼の静養は、何時終わることが出来るのか。それは静音には分からない。だが、何をやっているのだ、とかつての仲間であり、ニコルの結婚間近だった婚約者である葵に文句を叫びつけてやりたくて仕方が無かった。




それは、ある日の明け方、静音が夜間のビル清掃のバイトからヘロヘロになった帰ってきた時のことだった。

布団に入って寝てやる、それだけの思いで迎えに来てくれた流峰に支えられて何とか家のドアを開けた静音が見たのは、血まみれでボロボロになっている、敵の一人。

にこやかな笑みを浮かべて話し合いをしたいと言った姿を、申し訳ないと謝りながら強力な魔術で攻撃してくる姿を忘れたことは無い。慈悲深き大神官なんて呼ばれている姿をテレビで見る度に、慈悲深いねぇハッ、なんて静音は鼻で笑っていた。

慈悲深い奴は、他の世界を壊して奪おうなんてしない。そう思ったところで賛同してくれる存在が精霊獣以外にあるわけでも無かったが、ビルの上から叫びたくて仕方が無かった。


「捨ててきなさい。」


今日から此処で面倒を見ることになったから、そんな言葉が呆然と玄関に立つ静音に掛けられた。

それを口にしたのは、睡蓮。

人型を取った彼女は、冗談だよね、と呟く静音に首を振って答えた。

「馬鹿言わないでよ!こいつはあれよ。あいつらの仲間、しかも幹部じゃないの!どうせ偵察よ、味方になったフリして背後からグサッってやるつもりなのよ!!さっさと何処かに捨ててきて!」

まるで、拾ってきた犬を捨てて来いと命じる母親のような、指を真っ直ぐに伸ばして玄関の外を指して静音は怒鳴った。

「静音、これは世界の管理者からの…」

「いえ、あの、すみません。御迷惑をおかけしました。のこのこと着いてきましたが、そうですよね。分かります。貴女の前に顔を出すべきでは無かった。ですが、謝りたかったのです。静音様、本当に申し訳無かった。私達が考えも無しに、この世界に来てしまったせい…」

血まみれのニコルが、痛みにぎこちない動きになりながら、その場で土下座する。

そんな姿にも、そしてニコルの言葉にも、その前に睡蓮が口にした言葉にも、静音は驚き、後ろにいた流峰へと力の抜けた全身を預けた。

「…どうして、知ってるの?」

それは、アウラの民は知らない事だ。

彼等を従えて自分の世界を捨ててきた神が伝えよとしない。いや、世界の管理者の意見を信じるのならば、幼く無知な神は気づいてもいないと言うが、そんなのに世界を与えるなと文句を言いたい。

静音の仲間であった魔法少女達は知っている筈だが、そんな事を忘れて友好関係だの共存だのとほざいて今に至るということは、忘れているのか、ちゃんと理解していなかったのか。そんなのを適性があったからといって魔法少女にするなと何度精霊獣達に八つ当たりした事か。


「昨日、空に大きな穴があることに気づきました。それでアウラ神に問いましたところ…その…」

「こやつ、アウラの神に"五月蝿いな。そんなに気になるなら元の世界に帰ったら?"と穴に飛ばされたのだと。」

言いよどむニコルに代わって説明したのは、睡蓮。

「管理者の下へ報告に行ったら、それが管理者の前に居てな。ボロボロだし、虫の息だし、で管理者が不憫に思ったようで、ここに連れて行くように命じられたのじゃ。」

「はぁ?」

「アウラの神の言うように、あちらの世界に送り返すわけには行かぬだろう?出来なくも無いが、折角お前と管理者が閉じている穴がまた開いてしまうし、あちらの世界が人の住める状態をまだ保っているという保障もないしね。」

睡蓮の言葉に、静音はウッと言葉を飲み込んだ。

たった一人になってしまった時、世界の管理者に力を貸して世界と世界の間に開いて閉じることが無い穴を修復する為に訪れ、そして穴から覗き込んだ向こうの世界の光景を思い出せば、あちらに帰れなんて言えない。帰すのなら、あちらを管理する神も一緒でなければ、ニコルに死ねと言っているのと同じことだ。

「それに、これが穴に気づいてしまったのは、お前のせいだろ?」

狼の姿で寝転んでいる黒耀が睡蓮側につく。

「えっ?」

「ほら、お前がソーンにキスをされた、あの日。」

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」

耳を抑え、目を閉じ、悲鳴を上げて、黒耀の言葉を消し去ろうとする静音。


見えない、聞こえないを静音が実践している間に、黒耀は話しかけ頷かせることで、ニコルを住まわせることを静音に了承させた。

その日から、静音の生活に人の温もりが一つ、増えたのだった。







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